北斗
あの日、繋いだ手の莉子の温もりを上原北斗は忘れられなかった。
3年前、偶然、帰りが一緒になった莉子を誘ったあの日。
走り去っていく莉子を追い掛けられずに、遠ざかって行く姿を北斗の目は追い続けた。
北斗は⦅はぁ………当然のことだよな。あんな最悪の別れ方をしたのに今更……。今更だ。諦めろ!⦆と言い聞かせてた。
そして、家に帰った。
あれから、3年も経っていた。
莉子が勤める会社を北斗の会社が吸収合併することになった。
その時が来てしまった。
重い足取りで2年間居た会社に向かった。
会社に着くと、北斗は大きく息を吸った。
⦅この家族みたいな空気が好きだったなぁ……。
……あれから、莉子は……もう人妻だろうな。
2年前も結婚していないことに驚いたけど、流石に、もう……。
顔だけは見られるかな……。会いたいなぁ……。⦆
そして、社長の説明が終わり、北斗が前に出て話した。
社員たちの顔は知っている顔ばかりだった。
⦅申し訳ない。⦆と思いながら、話しているうちに、莉子の顔を見つけた。
⦅あ……莉子……望みが叶った……な。莉子の顔、見られた。⦆と思った北斗の目に、挙手した莉子の姿が映った。
⦅えっ……莉子が……手を……。⦆驚きが大きくて、一瞬、息をするのを忘れるほどだった。
この狼狽を誰にも気取られないように、と気を引き締めた。
莉子の質問を聞き、答えた。
それだけだったのに、心が莉子を求めてしまった。
質問に答え終わり、社長が退席すると、総務部長が願いを伝えた。
社員たちはそれに応えた。
その時だった。
社員たちが総務部長に顔を向けている時、一人近づいて来たのだ。莉子が……。
北斗は我を忘れそうだった。
我を忘れて駆け寄り抱き締めたかった。
莉子の声が聞こえた。
「痩せた?」
それから後は、何を話したのか、どう話したのか、分からないほど北斗は驚いていた。
ほんの一時、莉子と和解出来たような錯覚に陥った。
そして、そのまま別れた。




