行方
莉子は久し振りに、北斗を想っていた。
久し振りに見た懐かしい姿は痩せたように感じた。
⦅身体は大丈夫かしら?
………あぁ……もう今は、今の女性が居るはず……
心を残してなかったんじゃないの? それとも………。⦆
莉子は38歳になっていた。
あの日の、あの夜の北斗と同じ年になっていた。
北斗は41歳。
もう傍に誰かが居るに違いなかった。
そう思うだけで胸が苦しくなった。
⦅これは執着よね。他に私には誰も居なかったから……。⦆
社員が泣きながら誓い合っている――その光景を北斗は見ている。
その眼差しが寂しげに見えたのは、莉子だけだった。
無意識に足が動いていた。
北斗の姿が近づく。
北斗が驚いた顔になった。
それでも、莉子の足は前に歩み続けた。
「莉子……。」という北斗の小さな声は、周囲の声に掻き消された。
「……痩せた?」
「……うん、少し……。」
「……ありがとう。」
「何が?」
「解雇しないでくれて……。」
「それを決めたのは俺じゃない。」
「でも!……ありがとう。」
「……あれから……元気だった?」
「うん、貴方は?」
「まぁ、それなりに、ね。
……結婚は?……し………。」
「してない。」
「ごめん。聞くべきじゃなかったよな。」
「ううん。そんなことない。」
莉子と北斗が話しているのを南と山下穂香が見た。
「あ……そういうこと。」
「そういうこと、だったようですね。」
「何時からだろう? 分かる?」
「ううん。そんな気配は無かったんだけどなぁ……。」
「あ……足立さんも中途だったよね。」
「はい。私が入るより前ですけど……。」
「そう言えば大手に勤務してた……って聞いたわ。」
「じゃあ、もしかしたら、もしか……ですか?」
「お知り合いだったのね。」
「どのくらいのお知り合いだったのかな?」
「聞くだけ野暮なお知り合いかもよ。」
「うわぉ、それなら嬉しいな。」
「そうね。それなら、嬉しいわ。
それよりも! 解雇されなくてホッとしたわ。
子ども育てられなくなっちゃう。」
「はい。私もです。」
「何言ってんのよ。貴女は二馬力でしょ。私は一馬力!」
「二馬力でも解雇されると困りますよぉ。」
「まぁ、そうだわね。」
それぞれが、それぞれの想いを胸に会社は変わる。




