それぞれ
上原北斗の出向最後の日がやって来た。
総務部にも挨拶に来た北斗の姿を莉子は見なかった。
その時、たまたま莉子は倉庫に行っていたからだった。
北斗の姿を声を聞くことはなく終わった。
「足立さんによろしく!って仰ってました。」
そう山下穂香から聞いただけだった。
あっけなかった。
莉子はそう思った。
莉子にとって、上原北斗は急に会社に現れて、急に消えてしまったのだ。
それからの日々も今まで同様で変わらずに過ぎていった。
ネットニースで前に居た会社が戸建住宅事業を開始したと報じられた。
莉子は今の会社がどうなるのかが気掛かりだった。
⦅あの人、どんな報告をしたのかしら? 会社はどうなるの?⦆と不安が募っていった。
この会社を辞めたくない人が多い――と莉子は思っている。
北斗の報告で、どんな判断をするのか分からなくて不安が募り、頓服薬がより一層必要になった。
前の会社の同期たちとは今も変わらずにLINEなどで話をしている。
色々、変わっていく。
田島真麻は夫婦二人で子育てと……そして新築マンションを購入して住宅ローン返済をしている。
川村花怜は二児の母になってから、会社を辞めてパートで働いている。
谷口陽菜は37歳で不妊治療を止めて、夫と二人で旅行に行くようになった。
莉子は、変わらない生活をしている。
会社では、後輩の山下穂香が第二子を妊娠した。
いずれ産休と育休を取得するだろう。
あのシングルマザーの南は、一人での子育てをしている。
ただ、あれからの彼女は活き活きと仕事をしているように莉子の目には映った。
「あの日、足立さんが傍に居てくれて……
よくよく考えたら、私には支えてくれる両親も居るし……
支えてくれる人が居るって幸せなんだって思ったのよ。
反省してね。
だったら、私の人生って悪くないなぁ~って思えたの。
娘と二人で生きるのよ! 後悔だけはしないように!」
そう言ったからだった。
皆が前を向いて歩いてるからこそ、この会社の行方が莉子は気掛かりだった。




