打算の恋
北斗が会社に出向している間、彼に恋した女性が居た。
シングルマザーの女性だった。
あからさまな態度だったと噂で聞いた。
だが、全く相手にされなかったのだとの噂も流れた。
冬の寒い日のことだった。
莉子は総務部の忘年会で、そのシングルマザーに会った。
設計部の事務をしている彼女も、設計部の忘年会だった。
たまたま同じ店での忘年会で、部屋が隣だった。
「総務部も忘年会?」
「おう、隣だ。」
「襖、開けようか?」
「そうしよう! 合同で!」
部長同士が仲が良いので、襖で仕切られた部屋を一つにした。
シングルマザーの彼女は縁が進むにつれて酔っぱらった。
「お子さんが居るのに、あんなに酔っぱらっちゃって!」
「声を掛けて来るわ。」
「先輩……済みません。私、あの人苦手なんです。」
「なんで?」
「上原さんが私にだけ仕事頼むから……ライバル視されちゃったんですよ。
違うのに! 私には居るのに!」
「そうよねぇ、愛しのダーリンが!」
「誰が愛しのダーリンだって?」
「穂香ちゃんが惚気るんですよ。」
「もう、子どもが居るのに?」
「子どもが居ても居なくても、とっても愛し合ってるんですよ。」
「羨ましい!」
「愛しのダーリンが待ってる家に早く帰りたいのか?」
「はい! 帰りたいです。」
「うぉ―――っ、めっちゃイチャイチャしてそう!」
「早く帰りなさい。お子さんも待ってるだろうから……。」
「部長! ありがとうございます。」
「帰るの? 山下さん。」
「はい。部長の有難いお言葉の通りに、山下穂香、帰ります。
お疲れ様でした。お先ですぅ。」
「気をつけてね。」
「先輩、済みません。」
「気にしないで!」
穂香が部屋を出て直ぐに、莉子はシングルマザーの隣へ行った。
「南さん、大丈夫ですか?」
「……あ……足立さん。大丈夫ですよ。
このくらい何ともないです。」
「そうですか?」
「母親が酔っぱらったら、いけないんですかね。」
「ちゃんとお帰りになられたら宜しいのでは?」
「今日、娘は実家に預けてるんですよ。」
「じゃあ、安心ですね。」
「そ、安心して酔えるんです。
こんなチャンス、滅多にありませんから……。」
「そうでしょうね。」
「私、37なんです。」
「はい。」
「もう、一人は嫌なんですよね。
二人で子どもを育てたいんです。
金銭面で不安なんです。
だから……恋しちゃいけませんか?
打算が入った恋はいけませんか?」
「南さん………。」
「上原北斗さん、知ってますよね。」
「……はい。存じ上げてます。」
「好きだったんです。
でも、打算入りの好き。
見破られますよね。」
「南さん………。」
「頑張ったんですけどね。駄目でした。
誰かに頼りたいって思ったら駄目なんでしょうか?
母親は離婚した後、一人で頑張らないといけないんですかね。
直ぐに自業自得って言われそうなんです。
そんな気がするんです。」
「南さん、自業自得ってことありません。
離婚は……その選択しか無かったから……ですよね。」
「はい。それしかなかった。
だって! 主人は暴力を奮うんです。
だから、逃げた。」
「それで、良かったんですよ。」
「上原さん、優しくて……。
二度ほど偶然にスーパーで会ったんです。」
「スーパーで……そうなんですか?」
「家が近かったみたいで……。
うちの娘に優しく話し掛けてくれて……。
少し遊んでくれたんです。
こんな人が娘の父親だったら……そんな夢を見てしまいました。
バカですよね。」
「そんなこと………。」
「ハッキリ、断られました。
『好きな女性が居ます。』って………。
その人とは結ばれることが無いって……だから私……。
相手は山下さんだと思っちゃったんですよね。
否定されました。
誰なんだろう……羨ましいな……。」
「南さん……お嬢さんの事、愛されてますね。
とっても大切なお嬢さんなんですね。」
「………はい。……たった一つの私の宝。」
「別れられたご主人様から養育費は?」
「払って貰っていません。
接触したくなかったので、二度と……。」
「そうなんですね。お一人では大変ですね。」
「……今日、酔って忘れて、明日から、また頑張るんです。」
「じゃあ、今日は私が送ります。」
「足立さん。」
「ご自宅まで送らせて下さいね。
だから、安心して酔って下さい。」
「………ありがとう……ございます。」
涙を零しながら笑顔でお酒を、二人で飲んだ。
そして、宴が終わった後、莉子はシングルマザーの南をタクシーで自宅まで送ってから帰った。
タクシー料金は高くなったが、送って清々しく優しい気持ちになれた。
日が経つのは早かった。
年を重ねるにつれ早く感じるのかもしれない。
上原北斗の出向が終わる日がやって来た。




