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ホワイトラン

作者: 有璃香

風が強く吹いていました。


「おい、あそこに何か変な物が浮かんでるぞ。」

渡り鳥のチャンスが友達の渡り鳥のピンに言いました。


「えっ?!どこどこ」

首を振りながら聞きました。


「ほら、あそこ。」

チャンスが右の羽の先で示しました。


「あっ!あれは卵じゃないのかい、大きいなぁ、恐竜の卵みたいだ。驚いたなぁ。」

「ピン、近くに寄って見よう。」

「うん。」


2羽は空高く、海の上を飛んでいました。

今日はとても風が強く吹いていたので何度もバランスを崩しそうになりながらも、

海面に近づいて行きました。

ぷかぷか浮かんでいます。


ピン   「やっぱり卵だ、何の卵だろう。」

チャンス 「今の時代でこんな卵を見るのは珍しい、恐竜の卵だと思うかい?」

ピン   「う~ん、そう思うんだけど恐竜は今はいないし。」

チャンス 「物知りピンでもこれは何かわからないか。」


その時、もっと強く風が吹いて来て、卵らしき物が海岸の方へ向かい始めました。


「チャンス、人間のいる方へ向かって行くよ。」

「後で僕達も追う事にしよう。」

2羽は空高く上がって行きました。



「母さん、母さん!」

男の子が走って急いで学校から帰って来ました。

「どうしたのよ、私も忙しいのよ。」

「今日ね、テストで100点取ったんだよ、ほら見て見て。」

テスト用紙をそのまま丸めて持って帰って来たので、すぐ広げて見せました。

「あら、ホント。」

お母さんは洗濯物を干し続けました。少年はガッカリしました。

なぜなら、あまり喜ばなかったからです。


その時、お父さんがやって来て、少年の肩に手を優しく乗せ、言いました。

「母さんは感情を表に出さない人だから。赤ちゃんの世話もあるし、気にしないで。偉いぞ(じゅん)、良く頑張ったな。」

頭をなでてくれました。

潤君は走り去りました。


「代わろうか?」

「ええ。」


お母さんは赤ちゃんの所へ行き、お父さんは洗濯物を干す事にしました。

潤君は気分を少し変えようと、家のすぐ近くにある海まで行って見ました。

変わらず美しい海だなと思いながら、海岸の濡れないぎりぎりの所でしゃがみ、

手で海水をパシャパシャとしていると、10mぐらい離れた海面から、

プカプカ白いのが浮かんだり沈んだりしているのが見えました。


「何だろ?あれ。こっちに来る。」

じーっと立って見つめていると、やがて砂浜にゆっくり転がりました。

近づいて見ると、

「卵だ!」

両手で持ち上げると、前が見えなくなってしまうぐらいの大きさで、

意外と見た目よりは重くはありませんでした。


「よし、持って帰ろう。父さんならわかるかも知れない。」

ゆっくり持ち替えて、速歩きで家に向かいました。

お父さんは洗濯をしていました。

背後から近づいて小声で声をかけました。


「父さん、父さん。」

「ん?」

振り向くと驚いて、後ろに少し下がりました。

「な、何だ、それは?!」

「海で見つけたんだよ。」

お父さんは洗濯を途中でとめて、

「ち、ちょっと持たせてみろ。」

持って見ると、

「なかなか重いじゃないか。」


2人は庭の真ん中に行き、卵をそっと置きました。

「きっと卵だよね。恐竜の卵だよ、きっと。」

「思い出した!僕が子供の頃に聞いた伝説があって、この海の彼方に誰もが見えるわけでもないけど、不思議な島があって・・。その島には恐竜達が争いもなく、平和に暮らしていると、おばあちゃんから聞いた事がある・・。」


すると、お母さんが赤ちゃんを抱っこしながら庭へやって来ました。

「驚くかな?」

でも、お母さんは普通でした。笑みを浮かべて言いました。

「この海の伝説で恐竜の島があるって聞いた事があるの。もしかしたら、そこから来たのかもね。はいはい(ゆう)ちゃん、今日は普段より元気にはしゃいで。」


「家の屋根に止まって、うるさく鳴いているあの変な2羽の鳥を見て笑っているんだよ~、ガァガァうるさいなぁ。」

「ははは、潤、あれは渡り鳥だよ。それよりもこの卵、どうしょうか?」

「しばらく、僕の部屋に置いときたいな。」

「海に帰すか、どこかの研究所に渡す方が良いと思う。」


すると突然、卵が揺れだしました。

そして、卵から2本の爬虫類らしき足が出てきて、海に向かって走り出しました。

その何と速い事。

家族はびっくりして、目を大きく見開いて、ひと言も言葉をかわす事なく後を追いかけました。

あの2羽の鳥も。

そして、気がついた時にはもう、夕暮れでした。みんな必死で追いかけました。

砂浜に着くと、その2本の足はしっかりと足跡を残しながら海へ。


「父さん、母さん、しっかり見たよね。」

両親は深く頷きました。しばらくの間はその卵を見続けていました。

プカプカ浮かんで進んでいましたが、突然海の中へと姿を消してしまいました。

お母さんが言いました。

「島があるのよ、帰って行ったのね。」


赤ちゃんは2羽の鳥に向かって手を振っていました。


「ピン、あの赤ん坊、何て言ってた?」

「ママの心が和んで、みんなに優しくなるって。」

「良かったなぁ。」


2羽の渡り鳥も空高く飛んで見えなくなりました。




ホワイトランのランとは走る意味と卵の意味があるように付けて見ました。

コメディーにファンタジーを足した感じの作品です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奇想天外で面白かったです。少年と母の関係がよくなっていけばいいね。
[良い点] お話が可愛かったです。
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