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第11話 祭りのあとと、それぞれの熱

伝説の舞台から数日後。

セレスティア・ローゼンベルクは、もはや悪役令嬢などではなく、学園の英雄として、その地位を不動のものにしていた。


「男装の麗人王子、セレスティア様よ!」

「筋肉質の姫を救った、あのセレス様だわ!」


廊下を歩けば、男女問わず、生徒たちから黄色い声援と、尊敬の眼差しが向けられる。

ファンクラブの会員数は、今や全校生徒の半数を超える勢いだという。


(もうだめだ…空気どころか、学園の太陽みたいになってるじゃないの…)


セレスティアは、遠い目をした。


(私の、平穏な老後はどこへ…?)


彼女が望んだ「脱破滅」は、達成不可能どころか、真逆の方向へと突き進んでいる。


そんなセレスティアの苦悩を知ってか知らずか、彼女を取り巻く環境は、勝手に好転していく。


演劇の妨害工作を行ったライバル令嬢、イザベラ・モンフォートとその取り巻きたちは、アレクサンダー王子直々の調査により、その悪事が全て白日の下に晒された。

イザベラは、北の果ての修道院へと送られたという。


「セレスティア様、聞きました?イザベラ様のこと…」


リリアからその話を聞かされた時も、セレスティアは、ただ「そう…」としか言えなかった。

セレスティアはまだ悪役令嬢として断罪される可能性を捨てきれずにいた。

自分も、あの修道院へ送られのかもしれない。そう思うと、背筋が凍る。


しかし、もはや誰も、彼女を悪役令嬢だなどとは思っていない。


主人公の意図と、周囲の評価のズレは、もはや修復不可能なレベルにまで達していた。

セレスティアは、今日も、自分の知らないところで積み上がっていく伝説に、ただただ頭を抱えるしかなかった。



学園祭の熱狂が冷めやらぬ中、セレスティアの元には、ひっきりなしに訪問者が訪れていた。


「セレスティア。君といると、王子である前に、一人の男に戻れる」


アレクサンダーは、いつもの完璧な笑みを封印し、真剣な眼差しでセレスティアを見つめた。


「君の隣は、私のものだ。誰にも渡すつもりはない」


その瞳には、王子としての独占欲と、一人の男としての純粋な情熱が、同時に宿っていた。


(ひぃっ…!殿下、顔が近いですわ!)


セレスティアは、思わず後ずさりそうになるのを、必死で堪えた。


次に現れたのは、ガブリエルだった。

彼は、セレスティアの前に、ゆっくりと片膝をついた。

その姿は、まるで騎士が主君に忠誠を誓うかのようだ。


「セレスティア様。あなたは、俺の王子様でした」


ガブリエルの声は、震えていた。その瞳は、忠誠心だけではない、もっと深く、熱い感情を宿している。


「これからは、俺があなたのただ一人の騎士になりたい。この命、この魂、全てをあなたに捧げます」


彼は、セレスティアの手を取り、その甲に、熱い口づけを落とした。


(忠誠心…じゃないわよね、これ!?)


セレスティアの頭は、完全に混乱していた。


そして、最後に現れたのは、フェリクスだった。

彼は、何も言わずに、ただセレスティアの前に立つ。その無表情な顔の奥で、彼の瞳だけが、激しく揺れ動いていた。


「僕の魔法は、君のためにある」


フェリクスは、セレスティアの指先に、そっと触れる。そこから、温かい魔力が、じんわりと伝わってくる。


「…僕の世界は、君のためにある」


クールな表情の裏で、彼は最大級の愛を告白していた。その言葉は、彼の全てを捧げる、という誓いだった。


三者三様の、真剣なアプローチ。


(無理無理無理!一人でもキャパオーバーなのに、三人同時なんて!私の脳みそがショートするわ!)


セレスティアは、頭を抱えた。

これまでの人生で、恋愛など全く縁がなかった。

宝塚一筋で生きてきた彼女にとって、こんなにもストレートな好意を向けられるのは、初めての経験だった。


しかし、不思議と、嫌な気持ちはしなかった。


(でも…なんだか、胸が温かい…?)


胸の奥で、じんわりと広がる、温かい感情。

それは、パニックとは違う、初めて感じる、甘く、優しい、ときめきだった。


セレスティアは、戸惑いながらも、初めて「恋愛」というものから逃げずに向き合おうとしていた。


彼女の新たな「舞台」の幕は、今、まさに開かれようとしていた。


次の話で最終話となります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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