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◆94・そこにもふがある限り


 サンヨルドの街を堪能したあと、私たちは宿屋へと向かった。

 宿に入る前にナツメさんは猫獣人型に、ロックくんは猫型へと戻り、現在は宿屋の私のベッドの上で、ヘソ天爆睡をかましている。



 今日はナツメさんのもふもふに埋もれ、ロックくんとレイをもふりながら眠ることにしよう。最高か。



 そして目覚めると、もふ毛玉が増えていた。もふもふに溺れそうだ。幸せのもふ溺である。最高か。



 この辺りにいる猫妖精がナツメさんに会いに来たり、挨拶に来たりして、そのついでに〈認識阻害〉を解いた私の魔力に釣られて、一緒にゴロニャンしていたらしい。



 私の魔力は魔獣には不評だけど、妖精には好評なのだ。

 正確には、魔獣は私の魔力ではなく、魔力から感じる魔力総量に困惑したり、驚いたり、怯えたりしているらしい。まぁ、それも魔力に敏感な一部の魔獣が反応しているだけで、全ての魔獣が反応するわけでもない。



 そんな私が〈認識阻害〉を解いたのは、魔力漏れ防止の練習のためである。できれば〈認識阻害〉と〈魔力漏れ防止〉を分けて使いたい。レイ曰く、『魔法に関しては猫妖精の方が詳しい』とのことで、ナツメさんに話を聞きながら練習していたのだ。



 というのも、この先、帝都に近付けば近付くほど、認識阻害系魔法や変装系魔法を弾いたり、検知したりする魔道具が、街に設置されている可能性が高いとのこと。そういう魔道具が、マギリア方面と帝都を中心に少しずつ普及し始めているらしい。



 なので、〈認識阻害〉で魔力の気配を薄めている状態の私が〈認識阻害〉を解いて、魔獣がザワワしないように練習していたというわけだ。まぁ、途中で寝たけど……。



 私は……というか、この世界では、十歳くらいまでは魔力が増え続け、その影響で体内の魔力が不安定になり、魔力が漏れちゃったり、発動する魔法の規模にムラがあったりするらしい。なので、私の魔力が漏れちゃうのは、今は不可抗力なのだ。



 十歳くらいになれば、自然と魔力が安定するらしい。中には十歳を過ぎても、魔力が増える人もいるようだけど、大抵の人は、十歳時の魔力総量を目安にするようだ。スキルも存在する世界なので、魔法が全てというわけではないけれど、貴族とかだと、十歳以降の魔力量が後継問題に関わることあるのだとか。



 てか、私の魔力、まだ増えんの?

 あって困るものじゃないからいいんだけど、増えてもよく分からないと思うな。

 それより、〈魔力漏れ防止〉だよね。



 昨晩、ナツメさんと練習していたのは、魔法を使わずに体内魔力を漏らさないようにするものだ。でも、その方法はまだちゃんとできそうにないので、しばらくは魔法で応急処置することにした。



 私が考えたのは、魔力を通さない透明のボディスーツみたいなものだ。多分、このイメージで魔法を発動できると思う。ただ……、今これを発動すると、私の魔力に寄ってきた猫妖精たちが散ってしまう気がする。それはいただけない、由々しき問題だ。



 ――うむ、宿を出る寸前までは、このままでいるとしよう。



 そう思っていたのに、私が目覚めてからしばらくすると、私の周りでゴロニャンしていた猫妖精たちも起きだして、結局、ナツメさんとロックくん以外の猫妖精たちは、普通に帰っていってしまったのである。


  

「ああ……、もふが……」



 ――だが、しかし! まだ、もふは残っている!



 キラリンと目を光らせ、いまだにヘソ天爆睡したままのナツメさんの腹もふ毛にダイヴした。むははははっ! スハスハしてやんぜ!



「にゃふっ……、にゃっ!?」



 あ、どうやら起きてしまったようだ。だが、私は諦めない!

 諦めたらそこで猫吸いは終了だ!



「スハフハ……スハス~……」

「にゃふっふ……にゃはっふ……にゃふっ」



 こうして私がナツメさんをスハスハしながら、もふぐふしていると、レイとロックくんも目覚め、今日も朝の鍛錬に出ていたアルベルト兄さんとルー兄も戻ってきた。雪丸さんは、実は密かに、私がナツメさんをスハスハしているところを静かに見ていたらしい。……恥ずかしい。



 しかし、何事もなかったかのように朝の支度を済ませ、みんなで朝食を食べに食堂へ向かった。ご飯が済んだら、サンヨルドの街を出て、次の大きな街『アールティ』を目指す。

 


 サンヨルドとアールティの間にも、小さな町がいくつかあるけれど、今回も小さな町や村は素通りして、野営をしながら進む予定である。



 宿を出てすぐ、こっそりと魔力漏れ防止の魔法を発動してみた。



「〈ピタッとな〉!」 

「にゃ?」

「あれ? リリアンヌの魔力が消えたにゃ~……」

「発動した魔法から微かにリリアンヌの魔力の香りを感じるから、消えてはいにゃいにゃ」

「……あ、本当だにゃ~」



 魔力の匂いのことであっても、なんかちょっと恥ずかしい。



「発動した魔法の香りとか……、ケット・シーたちしか判んないと思うけど、魔法はできたみたいだね」

「ホント? 自分じゃ、ちゃんとできてるか分からないから……」

「うん、大丈夫だよ」



 自分ではまだ、魔力が漏れているとかの判断ができないので、猫妖精たちの反応とレイの言葉に安心した。これでベティちゃんに近付いても大丈夫である。



 というわけで、私たちはサンヨルドの街を後にし、次の街に向けて出発したのであった――。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



◇異変/side:ロイド



「魔獣の群れが帝都に向かっている?」

「はい、野生の魔獣だけでなく、騎獣用にテイムされた魔獣も多くいるとの報告が来ています。現在は、近くに駐在していた騎士が対応にあたっているようです」



 マギリアと国内貴族の動きを調査する指示を出し、報告書に目を通していると、耳を疑うような報告が上がってきた。



 野生の魔獣とテイムされた魔獣が、ともに群れを成すなどありえるのだろうか?



 現れた魔獣の群れに関しての話をするために、ルシウス兄上とともに、皇帝である父上の所へ向かうと、三賢人も揃っていた。



「魔獣の群れについては聞いたか?」

「はい、野生の魔獣とテイムされた魔獣がともに群れを成しているとか」

「報告では、すでにテイムされた魔獣が乗っ取られるようにして、テイム主の(めい)を聞かなくなるとの話だ。ならば、この魔獣の群れは人為的に発生したものと考えられる」

「そうですなぁ、テイムされた魔獣すら従わせる何らかの方法……、魔法か魔道具か、あるいはスキル……」

「少し前にサキオの婚約者であるアデラ・キャスリック嬢が襲撃された件に関して、襲撃犯が精神系の状態異常になっていたという話なのですが……、魔獣も同じように精神系の状態異常を引き起こしている可能性はあると思いますか?」



 関係があるかどうかは分からない。だけど、何かが引っ掛かる。そう思って、この場にいる人物たちに向かって問うてみた。



「まだ分からぬことではありますが、同じ者の仕業であると仮定するならば、明らかに帝国に対しての明確な敵意があると判断せざるを得ないでしょうね」

「ふむ……、まぁ、そうなると一番怪しいのはマギリアなんじゃが、儂は少し前にシフから攫われたという特異スキル保持者が気になるのぅ……」

「スキルの詳細は聞いていないからな。サキオを通じて、シフに確認すべきだな。もしもその特異スキル保持者が、精神に作用するようなスキルの持ち主であれば、その者による被害が出ているかもしれないという情報は共有した方が良いだろう」

「それに、今回の襲撃でも、シフでの襲撃でも『巨大な火の玉』に依る攻撃があったのよね?」

「同じ火の玉なのであれば、シフの襲撃とキャスリック嬢の襲撃は同じ者の手に依るもの……という可能性がありますね」


 

 可能性というか、ここにいる者は、間違いなくどちらもマギリアの仕業であると踏んでいるだろう。



「しかし、キャスリック嬢を襲撃したのは、なにゆえなのでしょうか」

「確か襲撃犯は、ダロイス家の私兵……。だけど、その兵は洗脳されたような状態だったのよね?」

「つまりダロイス家の仕業に見せかけたかった……とか?」



 ダロイス家というのは、父上の二人いる弟の内の一人、つまりは皇弟であるデイル叔父上が、公爵を務める家だ。しかし、ダロイス家は皇家とは良好な関係だ。そんなダロイス家の仕業に見せかける意図は……?



「兵たちの状態異常に気付かなければ、ダロイス家に疑いが掛けられていたことは間違いないじゃろうな。意図的であるなら、ダロイス家にも私怨があるということか?」

「どうでしょうか……。単にダロイス家も、帝国に於いて有力な公爵家であるから……という理由の可能性もありますし」

「ふむ。その辺りに関しては、推測の域を出ないだろう。まずは、魔獣の群れへの対応が先だ」

「確かに」

「ええ、そうね、そのために集まったのよね」

「現在、魔獣の群れはオスカトール方面からアールティの南、ザーケレーンを経由するような形で北上してきているようだ。近隣の騎士が対応に当たり、追ってトットリアからも人員が送られるだろう。しかし、魔獣も状態異常にされている可能性があるとすれば、それ相応の準備を調えた者が事に当たるのが望ましい。帝都からは、ロイド、お前に行ってもらいたい」

「承知いたしました」



 こうして、私たちは魔獣の群れに対応するべく、動き出したのである――。


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