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◇91・依頼/side:スチュアート・ミルマン


「調査依頼ですか?」



 カレッタ一の商会とも言われるターリス商会の巡回商隊に、護衛としてシフ王国まで付き従い、しばらくシフ王国で活動を続ける商隊とは、そこで依頼完了として別れた。



 シフ王国では個人的な依頼として解読依頼も熟し、その後はパーティーメンバーと共に騎獣を使って、活動拠点にしているカレッタ王国のテーレへと帰ってきたが、休息もそこそこに、依頼完了報告のためにギルドを訪ねれば、ギルド長から新たな依頼を持ち掛けられた。



 パーティーメンバーは、ギルド長への報告となるといつも逃げ出すので、この場にはいない。



 パーティーを組んだばかりの頃は、やめてくれと言ってもやたら礼儀正しかったくせに、今では面倒な交渉事は全て私に任せ……押し付けてくるのだ。



 国や貴族からの依頼であれば、侯爵家出身の私が前に出る方が良いことは承知しているが、ニックだって貴族の生まれであるのに「男爵家の四男なんて、ほぼ平民だ。スチューに任せる」しか言わないし、平民出身だったライアンとハリーも、A級冒険者となったことで準男爵に叙されたというのに「心は平民なんで」とか、意味の解らない理由で逃げ出す始末だ。



 大体、パーティーリーダーはライアンであるというのに、「ギルド長の相手をするのが面倒」という理由で逃げるのは如何なものかと思う。

 


「ああ、マギリアの奴らがきな臭い動きをしてるって話があってな」

「マギリアがきな臭いのは常のことじゃないですか」

「そうなんだがよ、どうやら、かなりの人数が帝国側に集まってるらしくてな、本格的に戦争準備してんじゃないかって話だ。うちとはティングレー山脈を挟んでっから、そっからこっちに来るなんてことはないだろうがよ、帝国と開戦なんてことになったら、カレッタにもそれなりの影響が出るだろうしな」

「まぁ、そうですね。どうしてあんなに帝国に張り合いたがるのか、到底理解が及びませんが……」

「そりゃあ、三賢人がいるからだろうよ。昔は『魔法大国』として有名だったのに、今じゃ『魔力はあるのに、魔法がショボい』ってのが共通認識だしな。高魔力保持者ゆえに妖精すら見えるって評判の三賢人が気に喰わないんだろ」

「『魔法大国』だったのはマギリアになる前の国でしょうに。亡国の栄華を求める意味が解りませんね」



 マギリアという国ができたのは、二百年ほど前のことだ。それまでは『マドラス』という、名実ともに魔法大国と呼べる国が在ったという。



 そして、魔法大国と呼ばれる一方、「一夜にして滅んだ国」とも呼ばれている。

 諸説ある言い伝えでは「禁術が暴走して滅んだ」とか「聖女を巡って滅んだ」というものもあれば、「ドラゴンに滅ぼされた」なんてものもある。



 滅んだ理由はともかくとしても、数ある説の中で共通して多く伝わっていることは「文字通り、国が消滅した」というもので、国のほとんどが本当の更地になったという話は事実であるらしい。



 それゆえに、マドラス国にあったであろう歴史書、文献、魔法書……等等が消失し、マドラスについては、マドラス周辺国に残る資料か、言い伝えによるものが多く、正確な情報かどうかの精査も難しい状態だ。



 マドラスが消失したのち、新たに『マギリア』という国家が興ったが、何故かマギリアでは魔法が上手く発動しないという事象が発生した。原因は定かではないが、その事象を「マドラスの呪い」という者も多い。



「魔法がショボくても、魔道具製作に関してはかなりの技術があるんだしよぉ、魔法に固執しないで、魔道具研究に精を出してくれてりゃ、平和でいられるってのになぁ……」

「まぁ、魔道具が発展したのは、魔法が上手く使えないゆえですからね。あそこは魔塔によっての派閥争いも激しいですし、魔法に固執しているのは一部の者たちだけだとは思いますけど」

「その一部がやたらと帝国に好戦的で、最大派閥だからなぁ……」

「それで? 今回の調査は、その最大派閥とやらを中心に?」

「ああ、それに加えて魔獣の調査も頼みたいんだよ」

「……同時にですか?」

「何もあっちこっちに行けって話じゃなくてよ、その最大派閥の奴らがやたらと魔獣を集め始めてるらしいんだよ。それが事実なら、なんのために集めてるのかってな」

「魔獣をですか……。討伐しているわけではなく、生け捕りにしているということですか?」

「ああ、従魔にして戦争に使うつもりじゃないかって話もある」

「場合によっては、魔獣の討伐もしろということですか」

「まぁ、そういうこった」

「調査より討伐の方が得意ですから、それは構わないのですが、せめて一日くらいは休みが欲しかったですね……」

「それに関しちゃ、悪いと思ってるよ。だからよ、ホレ、特別手当だ」



 そう言って、目の前の机にポンと置かれたものに目を向ける。



「なんです? これ」

「これはな、なんと! 魔力総量が上がるっつう、アーティファクトだ!」

「…………は? それが事実なら、国宝級の代物ですよ」

「まぁまぁ、そんな胡乱な目を向けんじゃねぇよ。確かにこれが『装着式』だったら国宝にもなったかもしんねぇけどよ、残念ながら『使い捨て式』なんだわ」

「ああ、そうなんですね。使い捨て式に見えなかったので驚きました」



 アーティファクトは身に着けて使用するものもあれば、使い捨てるものもある。『装着式』と呼ばれる、身に着けるものであれば、それを身に着けている限り効果が持続する。



 一方、『使い捨て式』と呼ばれるものは、大抵、使用してから数刻程度で効果時間が切れるものだ。どんなに長くても、数日が限界とされている。



 ゆえに、効果内容が良いものであっても、効果時間に制限のある『使い捨て式』のアーティファクトには、『装着式』のアーティファクトほどの価値は付かないのである。



 眼前に置かれたものは、一見するとペンダントのようであり、『装着式』に見えるのだが、どうやら『使い捨て式』だったらしい。



「ペンダントではないのですね」

「ああ、このチェーンを引っこ抜いて使うんだとよ」



 どうやら、使う直前まで首に掛けておける仕様のようである。



「これ、いただいて良いんですよね?」

「おうよ」



 使い捨てであろうと、一時的に魔力総量が上げられるのは、いざという時に非常に助かるものだ。くれると言うのなら、遠慮なくもらっておくことにする。



「ライアンたちにも特別手当は用意してるんだけどよ、ほしけりゃ自分で取りに来いっつっとけ」

「言っておきます」



 逃げずに最初から来ておけば良かったものを……。おそらく、ライアンたちは、あとでギルド長に相当面倒な絡まれ方をするであろう。



 ギルド長の部屋を出て、ギルドに併設されている食堂に足を運ぶ。



「スチュー! 終わったのか?」

「ギルド長が『渡すものがあるから、自分で取りに来い』と言っていましたよ」

「え……、それって俺たちみんな?」

「ええ、あとで三人で行ってきてください」

「……わかった」

「「うぇ~……」」

「逃げるからですよ」

「……食べ終わったら行ってくるよ。スチューは? 何か頼む?」

「そうですね……。あなたたちがギルド長の所から戻ったら、新たな依頼の準備をするので、今のうちに食べておきます」

「え? もう依頼?」

「ええ、詳しい話はホームで」

「了解」

「皆はもう頼んだのですか?」

「「まだ~」」

「料理はまだだ。酒はスチューの姿が見えた時に頼んだ」

「私のも?」

「もちろん」



 面倒事を押し付ける割に、律義に食事するのを待っていたりするのだから、憎めないというか、なんというか……。



 口に出して言うつもりはないが、やはり私は、このメンバーといるのが心地好く、共にある時間が好きなのだろうと思うのであった――。


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