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◇87・レイの真実/side:レイ


 僕の名前は白山玲生(しろやまれお)。まぁ、この名前を名乗ることはもうないだろうけど。

 今の僕が『レイ』を名乗るのは、叔父がそう呼んでいたからだ。



 普通にレオと呼んでくれればいいのに「お前の顔はどう見ても『レイ顔』だろうが! レオなんて雄々しい名前は似合わん!」というふざけた理由で、ずっと『レイ』と呼ばれていた。

 


 名前にこだわりがあったわけでもないし、叔父がそういう人だと痛いほど知っていたので、特に反論することもなくそのままにしておいた。



 僕と叔父が、あの女に巻き込まれてこの世界に来た時、僕を『レオ』と呼ぶ人はいなくなった。共に来た叔父は相変わらず僕をレイと呼んでいたし、レオという名の僕をなぜレイと呼ぶのかを誰かに聞かれても答えるのが面倒だなと、そのまま『レイ』を名乗ったのだ。



 そもそも僕と叔父・香川慎太郎(かがわしんたろう)がこの世界に来たのは、事故だった。

 


 そして二百年前にこの世界に現れた『来訪者・菊川雛(きくかわひな)』も、実を言うと本来の『来訪者』とは言えない。



 来訪者がこの世界にやってくる理由は、竜族しか知り得ないし、それが漏らされることもない。



 竜族ではない僕が知ってしまったのは、今の僕の身体のほとんどが、白竜・アルバスデルウィンダヴァルの肉体を使って修復されたことにより、アルバスの意志でアルバスと同化することも可能な状態になったことが原因だろう。



 純粋な竜族ではないけれど、肉体のほとんどが竜族のものであるため、この世界には『半竜族』として認識されてしまったのかもしれない。



 だからこそ、リリアンヌが『魂だけの来訪者』になってしまった可能性が高いと言えるだろう。



 竜族は元地球人の魂の集合体だ。前世でどこの国のどんな人物であったか、地球がどんな世界であったかはハッキリ覚えていないし、自我の残っている魂はひとつもなく、ただ元は地球に存在した魂で、自分たちはそれらの魂の寄り集まりだということだけは認識している。



 竜族たちの今の性格や趣味嗜好は、この世界に真っ新な状態で生まれた時から徐々に形成されたもので、前世が影響しているというわけでもない。



 ただ、前世の自我も記憶もない状態であっても、魂に刻まれた『大切な人』を無意識に引き寄せているらしく、それがこの世界における『来訪者』の正体だ。



 来訪者は若い地球人の姿で現れるため、生きたままこの世界に転移してきていると思われているが、実は元の世界で死を迎えたあとに、肉体年齢と記憶を戻された状態で転移してきているのだ。

 


 つまり、一度死んで若い姿に転生したあとに、この世界に転移しているということだ。



 訪れた来訪者が誰の、どの魂の『大切な人』であったかは誰にもわからない。だけど、来訪者が竜族の誰かの大切な人であったことは間違いないと竜族は知っているがゆえに、竜族は『来訪者』を求め、大切に思うのだ。



 本来であれば、誰の大切な人かはわからない来訪者。でも僕は完全な竜族ではなく、記憶も自我も白山玲生のままだ。まぁ、顔も肉体もアルバスが混じったことで大分変わってしまったけれど……。



 そんな『半竜』の僕が引き寄せてしまったのが、『魂だけの梅村花』であり、今のリリアンヌだ。



 前世で彼女と恋人であったとか、家族であったとか、そういうわけではない。

 言うなれば、僕の一方的な片恋だ。



 彼女とは同じ会社で働いていて、知り合ったのは彼女が二十八歳、僕が二十九歳の時だ。その時にはすでに彼女には彼氏がいたし、僕も彼女に恋愛感情があったわけではない。彼女は僕の部下で、飲み会以外ではプライベートな話をすることもない、そんな関係だった。



 そんな関係が変わったのは、彼女が三十三歳の時に結婚することになったかと思えば、結婚の直前でその彼氏の浮気が原因で別れたあとのことだ。浮気男と別れたあとの彼女は「結婚? いや、恋愛なんてもういらんっ!」と言って、おひとり様を満喫して生きることにしたらしい。



 そんな彼女と時々プライベートで食事に行ったり、飲みに行ったりする機会が増え、徐々に僕が彼女に惹かれていったのだ。ただ、彼女には本当に恋愛をする気がなさそうだったので、僕も自分の思いを伝えることは控えていた。友人としてでも関わりが持てれば、それでいいと思っていたのだ。


 

 僕と彼女がプライベートでも付き合いだしたころ、彼女の元彼の浮気相手が、なぜか僕にすり寄るようになってきた。「なんだこいつ」と思って観察していたら、どうもこの女は、梅村の元彼が好きだったわけでも、僕が好きなわけでもなく、『梅村花のものが欲しい』性質なのだと気付いた。



 その女は僕や梅村、梅村の元彼と同じ会社で働く後輩であったけど、部署も違えば、接点らしい接点もない。梅村はその女のことを元彼の浮気相手としてしか認識していなかったし、僕だってあの女が近付いてくるまで、存在すら認識していなかったのだ。



 あの女がどうして、梅村に変な執着心を抱いていたのかは分からないままだったが、梅村があの女のせいで死んだことは知っている。



 あの女が直接手を下したわけではないけれど、あの女に梅村のあることないこと……いや、ないことないことを吹き込まれたアホ男が暴走した結果、そのアホ男に梅村が殺されたのだ。



 ケット・シーたちに聞いた話からするに、梅村自身は「寝て起きたらこの世界のリリアンヌになっていた」という認識のようだけど、殺された記憶がないならそれでいい。恐らく、実際に寝ている間に殺されて、自分が死んだことに気付かないままこの世界で転生したのだろう。



 直接手を下した男は逮捕されたが、あの男を唆したあの女は野放し状態であり、僕はどうにかあの女にも罪を償わせようと、刑事であった叔父の香川慎太郎に相談した。そして、二人であの女の調査をしようとした矢先に、あの女がこの世界へと転移する瞬間に遭遇した結果、あの女、菊川雛に巻き込まれる形で、僕と叔父はこの世界に来てしまったというわけだ。



 あの女は死んでこの世界に来たわけでない。おそらくこの世界にいた人間に召喚されたのだろう。どうやってそれを成したのかは今でも分かっていないが、とにかく本来の来訪者とは違うのだ。



 まぁ、この世界に来た時に、僕と叔父だけが白竜の近くに飛ばされ、あの女がこの世界で最悪のやらかしをするまでは、あの女がこの世界に来ていたことにすら気付けなかったが、最終的にあの女は、ブチギレしたアルバスに国ごとふっ飛ばされて消滅したのだ。



 僕がアルバスを止めたのは、あの女とあの女を召喚した国のヤツ以外が、巻き込まれて消滅するのを止めたかっただけだ。あの女に関しては、むしろ僕が消滅させたかったと思うほどだったので、アルバスに消されたことを憐れむ気持ちは微塵もない。むしろせいせいしたとさえ思っている。


 

 そんなこんなで、僕と叔父はこの世界で生き、叔父は寿命で死んでしまったが、僕は半竜人になったことでほぼ不死の状態になってしまったのだ。そしてそんな純粋な竜族ではない僕の心が、無意識に梅村花を望んでしまったのだろう。そのせいで、梅村は魂だけの状態で転移し、リリアンヌとして転生するという、ちょっとイレギュラーな状態になってしまったのだと思われる。



 僕がこの世界に来るより先に死んでしまった彼女が、二百年経ってからこの世界に現れるという時間のズレの理由は分からないが、彼女の魂がこの世界に来たことには気付いていた。



 まぁ、彼女がどんな状態でどこにいるのかまでは、彼女を目にするまでは分からなかったけれど、リリアンヌに会った瞬間に気付いたのだ。彼女は僕が喚んでしまった『来訪者』だと。


 

 僕が白山玲生であったことを話すつもりはないし、転生した彼女がまだ幼いこともあるけれど、今もまだ恋愛なんてする気がなさそうな彼女に、思いを伝えることは今のところは考えていない。そう、今のところはね。



 とりあえず、目覚めた僕の視線の先で、何かを書いている彼女におはようの挨拶をしよう――。


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― 新着の感想 ―
普通に日本人としての倫理をもった状態で女性の家に上がり込んで寝顔を眺めたり、相手が何も知らないのをいい事に「だっこしてほしい」とかやってるのめちゃくちゃ気持ち悪いな
今さらですが・・・ ◆87・レイの真実 ◆ではなく◇では?
恋愛要素あって、よかった…!
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