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◇71・アルベルトの疑問/side:アルベルト


 所属する聖騎士団・第五部隊で、定期的に見回りをしている孤児院での異変に気付き、行方の分からなくなった子たちの捜索をする中で、とある枢機卿の噂を耳にすることになった。



 なんでもその枢機卿は、管理する孤児院に、毎月孤児たちのリストを提出することを義務付け、そのリストには必ずスキルと魔力量を記載させていると言う。



 理由としては『才あるものがいれば、引き取り育てるため』だとか。だが、かの枢機卿が孤児を引き取った記録はひとつもない。それなのに、孤児を集めているという噂も確かにあるのだ。



 事実はどうあれ、その枢機卿を調べてみる必要はあるだろうと、枢機卿の元へと向かう途中で、覆面の少年らしき男に襲われた。



 何者かと問うても何も答えを返さず、ただただ武器を向けられ、応戦していると、突然目も眩むような光に包まれ、全身に痛みを感じた時には意識が遠のいていた。



 目を覚ますと、石造りの部屋の中に腹を拘束される形で寝かされており、襲ってきた相手に捕まったのかと考えていると、ふと視線を感じてそちらに目を向ければ、ホワイトブロンドの髪にアメシストのような瞳の小さな少女がこちらを見ていた。質素な服が浮いて見えるほどの美少女だ。



 ……子供? 私は捕まったのではないのか? いや、拘束はされている。とにかく、人がいるなら話ができる相手を呼んで来てもらわねばと、その少女に話しかけようとしたところで、騒がしく妖精に囲まれてしまった。



 この妖精たちは私にしか見えていないようだが、こうも騒がれては話などできまいと、妖精たちに静かにしててほしいと頼み、再度、少女に視線を向けて『大人を呼んでほしい』と言えば、



「この辺りには、人間は私しかいないですけど……」と言われた。



 ――は? この子しかいない?



「ここに君しかいないとはどういうことだ? この拘束は君がしたということか?」

「あ~、はい、どんな人か判らないので、一応拘束させてもらいました」

「これはどうやって? 魔法でもない限り、こんな風にはならないと思うのだが」



 縄ではなく、石の台に直接繋がる形で拘束されているのだ。魔法以外でこんなことができるはずがないと、少々困惑していると、



「にゃ? リリアンヌ? にゃにしてるんだ? これはにゃんの部屋だ?」



 そんな声が聞こえたと思ったら、少女の横に、とてつもなく大きな猫型の魔獣らしきものがいた。


 

 少女を逃がさなければと焦っているのに、当の少女は逃げようともせずに突っ立っている。



 ――何をしているんだ!



「人間?」

「喋っ……⁉」

「魔獣じゃないです」

「にゃ? ま、まさか吾輩を魔獣呼ばわりしているのか⁉」



 一体どういうことだと話をしてみれば、小さい翅の生えた人間『ピクシー族』と同じ妖精だと言う。



 こんな妖精もいたのか……。どうみても大きい猫なのだが、魔獣ではないのか?



 それにしても、ここにいるのが皆妖精だと言うなら、この少女も妖精なのだろうか? この子も妖精が見えているようだし、本人が妖精ならそれも必然だろう。そう思って本人に聞けば、「人間です」と言うのだが、本当に人間なんだろうか?



 だが、話ができる存在であれば、身元を明かせば拘束を解いてもらえるかもしれない。この国にいるのであれば、聖騎士団の存在は知っているだろうし、本当に人間であるならば、子供一人しかいない所にはおいておけない。



 そうして話を進めると、どうやらここは祖国レギドール神皇国ではないという……。それどころか、大陸自体が違うという信じがたい話を聞かされた。



 だが、どうにかして帰らねばならない。消えた子供たちを放ってはおけないし、枢機卿が悪行を働いているのであれば、それも放ってはおけないのだ。



 そう気持ちが急くものの、身体は上手く動かせず、歩くこともままならない。挙句に、いざ外に出てみたら、どこからどうみても森の中であった。泉の前に石造りの建物が建っていることが不思議に見えるほどだ。



 戸惑いと困惑の中、不思議な少女に迎えが来るかもしれないと言われ、話を続けると、やはりどうも人間ではないような気がしてくる。年を聞けば五歳だと言うが、大人とこんな流暢に会話のできる子供なんているだろうか? 



 結局、うまく動けない私は少女に諭され、しばらくこの場で滞在させてもらうことになったのだが……。



 寝ているところをピクシー族に起こされ、急かすように引っ張られ、ふらつく身体で付いて行けば、目を疑うような光景が広がっていた。



 ケット・シー族とピクシー族、それからなぜか7色のスライムが整列して椅子に座り、机を囲んでいたのだ……。机には見たことのない食事が並び、あの少女が皆に食事を配っているところだった。



 私にも食事を振る舞ってくれたが、こんな美味な食事は食べたことがない。しかもこんな森の中でだ……。ありえない……。



 やはり彼女は妖精なのだろう。なぜか自分を人間だと思っているようだが、人間に憧れでもあるんだろうか? それとも人間の前では人間のフリをしなければいけないとでも思っているのだろうか? 彼女が人でなくても、私は彼女を害するつもりはないのだが……。



 そうして食事を続けていると、どこからともなく銀髪の青年と大きな黒猫が現れたが、なぜかすぐに帰ってしまった。騎士団への手紙を届けてくれると言うので手紙を託しはしたが、一体何だったのだろうか?



 食事のあとは、また寝ているように言われ、大人しく寝床に戻ることにした。ただ寝ているだけというのも、もどかしいのだが致し方ない。



 しばらくすると、私と共にここに飛ばされて来た人物がいると言われ、よくよく話を聞くと、ここに来る前に私に襲い掛かってきた人物だという。その人物は、私が調べようとしていたデルゴリア枢機卿によって〈強制隷属魔法〉にかけられていた孤児院出身の少年で、現在はその強制隷属魔法が解けているらしい。



 言っていることは子供のようだが、嘘を吐かないピクシー族が、周りでうんうんうなずいているので、この話に嘘はないということなのだろう。 



 そして、ルーファスという名の少年と話をすることになり、彼の話を聞けば、デルゴリア枢機卿は噂以上に非道なことをしているようで、ますます放ってはおけなくなった。



 しかし……、ルーファスにも妖精が見えていたようで驚いた。私以外に妖精が見える人間に、今まで会ったことがなかったのだ。自分にしか見えていないのは、自分がおかしいのかと悩んだことすらあったが、やはり妖精は幻ではなく実在していたということだ。



 そんな話をしていると、ルーファスがリリアンヌも妖精が見えていると言い出したが、それはそうだろう。彼女は妖精なのだから、仲間が見えるのは当然だ。



 彼女はその後も何度か「自分は人間だ」と言っていたが、そうだな……、彼女がそう思ってほしいなら、そういうことにしておいてもいいだろう。



 ルーファスたちとの会話を終え、また大人しく横になっていたのだが、しばらくすると、あの大きな黒と白の猫型妖精がやって来た。



「お前に言っておくことがある。お前たちがここにいることをリリアンヌが許しているから、吾輩たちもそのことに関してはにゃにも言わにゃいが、リリアンヌを害したり、リリアンヌの情報を漏らすことは許さにゃい」

「……ああ、彼女を害することなど決してない」

「リリアンヌの情報を漏らさないと誓え」

「わかった」

「誓いを破れば、いかに加護持ちであろうと、我等は裁きを下すぞ」

「承知した。……その、時折、『かごもち』と呼ばれることがあるのだが、どういう意味だろうか? ピクシー族に聞いてもよく解らないのだ」

「……雪丸に聞け」

「ゆきまる?」

「そのうち来るお前の迎えだ。はにゃしは終わりだ」



 結局、『かごもち』については解らなかったが、それに関してはいずれ聞く機会があるようだ。



 それよりもやはり、リリアンヌは妖精たちにとっても大事な存在ということか。元々、妖精の話は誰かに話すつもりはないのだが、誓いを守るのは騎士の務めだ。この森での出来事は、自分の心の中だけに留めておくこととしよう。



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