◆70・めんどくさくなると開き直るタイプです。
人外容疑をかけてくる二人に、改めて人間であることを伝えたら……
「大人のような言動で、こんな森の中で平然と暮らす人間の五歳児などいるわけがない」
ハウゼンさんにそう力説され、それを聞いたルー兄が納得顔でハウゼンさんの言を信じるようになった挙句、時々、生温い視線を送られるようになってしまった……。
人間であると言えば言うほど、二人に菩薩顔を向けられるので、二人に人間アピールすることを静かに諦めたリリアンヌです。こんにちは。
私の人外説はさておき、今後のことを話しましょうかね。
ハウゼンさんは、『ユキマルさん』のお迎えが来たら、すぐにでもレギドールへ戻る旅路に出るつもりで、ルー兄もそれに同行することにしたらしい。
ルー兄は、ハウゼンさんに対して罪悪感や後ろめたさを感じているようで、どことなく一歩引いた接し方をしていて、レギドールへ戻る旅路に自分が同行してもいいのか迷っていたけど、祖国で今も強制隷属魔法にかけられている子たちを助けたい気持ちが勝り、同行を願ったようだ。
二人の予定は承知したけど、君らまだフラフラだから、お迎えが来たところで数十日は動けないと思うんだけど、どうすんだい?
「這ってでも戻る」
「多少の無茶なら慣れてる。平気だ」
「フラフラしながら戻るより、体調整えてから動いた方が早いと思う」
「「…………」」
「それにまだ、お迎えも来てないしね。お迎えの人がいた方が、帰り道も分かりやすいだろうし、二人共しばらく大人しく寝ててください」
二人を布団に戻し、私は私でやることやりましょうかね。
ハウゼンさんとルー兄が使えるおトイレとお風呂場はOKでしょ。あとは……服? 着替えとかいるよね?
〈交換ショップ〉で適当に交換しようと見てみたら、異世界産の服より、地球産の服の方が安い……。どうしようかな。明らかに手触りとか違うだろうけど、スキルは見せてないし、いいか……。
どうせ人間だとも思われてないし、逆に堂々と『これが普通ですよね?』って顔しとけば大丈夫な気がする。うん、そうしよう。
後は、洗面用具とタオルとかがあればいいかな。歯ブラシとかも『この森では普通にありますよ』って顔してればOKだ。うんうん。森に店なんてないけどな。
それから、旅に出るならマジックバッグもあった方がいいかね。やっぱり、旅に出る時は異世界仕様の方がいいよね。丈夫そうなヤツを二つ買って、マジッグバッグにしておく。
ついでに刺繍でも入れておこうかな。ここはやっぱり、猫のマークと肉球のマークをワンポイントっぽく入れておこう。ついでに自分のポシェットにも猫と肉球の刺繍いれとこ。いいね、最高に猫だぜ。
そんなことをしている内に日が暮れだしたので、晩ご飯の用意を始めることにする。今日の晩御飯はカレーにするって決めてたんだ。貧血二人組には豆とほうれん草のカレーだ。肉食猫妖精にはタンドリーチキンも作る。
ご飯の用意をしていると、散っていた猫妖精たちが匂いに釣られたのか、庭でニャーニャー騒ぎ始め、入り口のドアを少し開けてこちらを覗いている。
「リリアンヌ~、いい匂いにゃん!」
「にゃ~、僕たちの分もある~?」
「あるよ~。でもまだだから、もうちょっと待ってて」
「わかったにゃん」
「待ってるにゃ~」
「わがっ、吾輩は大盛りがいいにゃ」
「はいはい、いっぱい作るから待ってて」
「にゃ!」
私はいつから給食のおばちゃんになったんだか……。まぁいいや。カレーはもう一種類作ろうかな。チキンもあるし、豆とほうれん草のカレーにはミンチにした猪肉も入れてるから、シーフードにしようかな。うん、エビ食べたい。
米も鍋で炊く回数を重ねるうちに、うまく炊けるようになってきた。ナンでもいいけど、やっぱライスだよね。せっせとカレーを作り、カレーのトッピングにもなるモリモリ温野菜サラダも用意する。あ~、美味しそう。
できた料理を、キャンプスペースに持って行く。猫妖精たちはすでにベンチで待ち構えていた。君ら、相変わらずだね。いつの間にかソウさんも混じってるし……。ご丁寧に〈ライトボール〉でベンチ回りはライトアップ済みである。これから寒くなりそうだし、屋内スペースも作ろうかな……。
タンドリーチキンを並べ、カレーがほしい子には盛り付けて配っていく。貧血二人組には、あとで部屋に持って行こうと思っていたけど、またもやハウゼンさんはピクシー族に引っ張られ、ルー兄はチビ猫妖精にまとわりつかれながら連れて来られたようである……。
ここまで来るだけでも必死な顔だから、旅とかまだまだ無理だな。いっぱい食べて血を作りなはれ……。
食べる準備ができたら、みんなでいただきます。
「にゃ! 吾輩はそっちも食べたいにゃ」
「それ食べてからね」
「この『しぃふうどかれぇ』はいいですね、美味しいです」
「我はこの『にゃんどりーちきん』とやらが気に入ったぞ」
「タンドリーチキンね」
「相変わらず、慣れない光景だ……」
「うまいにゃん」
「おいしいにゃ~」
「あれ? スライムたち、サラダもう全部食べちゃったの?」
「うまっ……、こんな……うま、うまいのっ、初めて……たべっ……」
「え!? ルー兄、泣いてる?」
思った以上に涙もろいルー兄にちょっとビックリしながらも、相変わらず騒がしい食事の時間は進み、用意したご飯はスッカラカンになった。貧血組はそんなに食べられないかもと思っていたのに、カレーを二種とも食べ、タンドリーチキンにもガッツいていた。まぁ、食欲あるならいいや。
食事のあとは、貧血組に用意した着替えやらなんやらを渡し、なんとも言えない顔をされながらも、深くはツッコまれなかった。やはり、堂々と渡したのが良かったのだろう。
ルー兄はお金の心配をしていたけど、そのうち元気になったら、狩りか採集のお手伝いでもしてくれればいい。そんな話をしていたら、ハウゼンさんも、国に戻ればお金はあるけど、手持ちがないので、狩りの手伝いならすると言ってきたので、その話を受けることにした。
別に払ってくれなくてもいいんだけど、気にしそうだからね。異世界ウサギ一匹でも獲れれば充分だし。
それからハウゼンさんが、国に戻る前に剣を手に入れたいと言ってきた。
「あ、そういえば……」
実は二人を回収した時に、落ちてた武器も回収してたんだよね。
「もう少し動けるようになったら、お返ししますね」
「……鍛錬もしたいのだが」
「うん、だからもう少し動けるようになったら、お返ししますね」
「…………わかった」
まともに立てないのに、鍛錬とか何言ってんだか……。
ちょっと脳筋ぽいハウゼンさんとか、この前一瞬で去って行ったライマルさんとか見てると、なんとなく金竜様から体育会系の臭いがプンプンしちゃうんだけど……。暑苦しい感じの竜とか、ちょっと嫌だなぁ……。金竜様は普通の人……竜であって欲しい。
会うつもりは全くないけど、やっぱり『竜』には格好良くいてほしいと思っちゃうのが人の性ではなかろうか。