◆66・声に出して言うのはちょっと気が引ける □
うっかりハウゼンさんの存在を忘れて、3人で話し込んでいた……いや、ハウゼンさんの話をしていたので、忘れてた訳じゃないね。ハウゼンさんより、黒髪君の方が放置してるしね。
「ところで、付き添いって?」
「パドラ大陸の方から、誰ぞを用意して貰うさ」
「にゃ、向こうには知らせたのか?」
「使いは出した。その内、向こうから来るんじゃないか?」
「お、おい……このまま放って置かれると困るのだが」
「お前の事をはにゃし合っているのだ」
「あ、ああ、それで? 出来れば、早くこの拘束を解いて欲しいんだが……」
あ~……拘束ね。解いてもいいんだけど、黒髪君との接触は避けたいし、どうしようかな。
「そういえば、ここに来る前に襲われたって言ってましたけど、どうして襲われたか分かります?」
「子供に話す事ではない……」
あ~……、ね。リリたん、見た目は幼女だもんね。
「どうやら、こ奴は自分の立場を理解していにゃいらしい」
「使いが来るみゃでこのみゃみゃにしておけ」
「なっ……」
あらら、お猫様組が何やら不穏な空気を発し始めたよ……。
「う~ん……、でも一応、病み上がりというか……、今も失血状態な気がするし、あの状態のままにしておくのは、ちょっと忍びないかな。まぁ、ウロウロされるのは困るけど」
「にゃら、足枷を付ければいい」
「足枷かぁ……」
「私は! すぐにでも帰らなければならないんだ!」
「「「…………」」」
私達三人にジト目を向けられたハウゼンさんが、ちょっとたじろいだ。
「そうは言われても、血はすぐには増えないですし……。何をそんなに急いでるんですか?」
「それはっ……」
なるほど、やっぱり話すつもりはなさそうだ。
「みゃ、もう外に放り出してやれ」
「にゃ、それがいいにゃ」
「付き添いの話は……」
「「知らん」」
あ~あ~、二人共、しっぽを地面にバシンバシン叩きつけちゃって……。
埃舞ってるから、ちょっと抑えて貰っていいですか?
ご機嫌がすっかり斜め四十五度になったお猫様二匹の提案で、ハウゼンさんは外に放り出された……のだが……
「……は? 森……? ま、町はどっちに……」
うん、ここ、森のど真ん中だからね。普通に歩いても、森から出るのに何日かかるか分かんないのに、今のハウゼンはフラッフラなので、途中で行き倒れてもおかしくないと思うな。
「しょ……食料や水を分けて貰えないだろうか……」
「いいですけど、もう少し待ってれば、ケット・シーの出した使いの返事か、お迎えが来るかもしれないですよ」
「迎え? 一体誰が来るというんだ」
「さぁ、それは私も知らないですけど、そんな状態で一人で帰るよりは確実性が上がると思いますけど」
「…………君は……一体いくつだ?」
「何ですか? 急に……」
「話し方が子供らしくない。それに、対応も……なんだか……」
「…………」
中身は君の倍くらいの年齢ですけど? 今世分も足したらそれ以上ですけど何か? この小童が! ……いいね、「この小童が!」って、ちょっと言ってみたかったんだよね。まぁ、口に出して言ってないけどさ。
結局、ハウゼン小僧は、暫くここに滞在する事になった。……というか、思った以上に歩けなかったらしい。思いっきり、ぐるぐるバットした後みたいになってたからね。
ナツメさんとセキさんはブーブー言って、不機嫌オーラ丸出しだけど、私が滞在許可を出したので、渋々納得してやるよ……って感じらしい。
しかし、そうなると、黒髪少年とかち合わないようにしないと……。何度か黒髪君の様子も覗きに行ったけど、まだ目を覚ます気配はなかった。
ハウゼンさんが起きてるのは、やはり多少なりとも、加護の影響があるのかもしれない。
とりあえず、ハウゼンさんの拘束は解いたものの、あんまり動き回らないようにと言い聞かせて、新たに用意した布団に寝かせている。土魔法で作った台の上に、すのこと布団を乗せただけだけど、寝心地は良くなったハズである。
意識のない黒髪君の方にも、同じ寝床を用意して、ついでに黒髪君の部屋に、ハウゼンさんが入れないように結界も張っておいた。
さて…………。
私は今、猛烈にお腹が空いている。
ハウゼンさんにも何か用意した方がいいと思うけど……、やっぱりレバーとか? まだ早い? 別に胃が弱ってるわけじゃなさそうだから大丈夫かな?
貧血に良さげなのって、レバー以外だと赤身の魚とか? ほうれん草? 鉄分取れそうなヤツ……だよね? レーズンとか……? 後は分かんないな。とりあえず、スタミナ料理っぽいヤツでいいか。バランス良く食べてればきっと大丈夫さ。
まずは、ほうれん草とベーコンを炒めて、ふわふわ卵を混ぜたヤツでしょ。
赤身の魚……鮭でいいのか?(※鮭は白身魚です)
マグロとかの方が良さげな気もするけど……、マグロのカツとかもいいな。まぁいいか、やっぱ鮭かな。鮭……鮭……鮭……と来れば、やっぱりしめじかな。鮭としめじと……玉ねぎのバターソテー……いや、グラタンの方がいい? パスタも捨てがたい。
結局、自分が食べたいメニューを考え始めてしまっている事に気付かず、お昼ご飯を作り始めると、ご飯の匂いを嗅ぎつけて、ナツメさんとセキさんが、私の後ろをウロウロし始めた。
他の子は、家の中にはあんまり入らないようにしてくれてるのに、君らは遠慮しなくなって来たよね。まぁ、いいんだけど、二人は特にデカいから、圧迫感がさ……。そんなに広く作ってないから、部屋の中がミチミチしてるんですけど。せめて獣人型になって欲しい……。
「みゃ、さっき獲った鹿肉も使うか?」
「それはいいにゃ! 鹿肉の『すてーき』とやらはどうだ?」
「みゃ、あれはいいな、分厚いやつがいい」
「…………」
重い……。グラタン食べたら、ステーキなんて無理なんですけど。……いや、私は食べなくていいのか。でも、この鹿肉が美味しい事を知っている私としては、ちょっと食べたい。サイコロステーキにすれば二切れくらいは食べれるかな……。猫妖精達の分は、分厚いステーキにすればいいか。
「味付けは? いろいろ?」
「みゃ! いろいろだ!」
「吾輩はあの、つぶつぶが入ってるヤツがいいにゃ」
……つぶつぶ?
「玉ねぎのやつ? 大根の方?」
「にゃ? ちょっと甘めのやつだ」
「玉ねぎかな」
騒がしいお猫様と戯れながら、ちょいちょい魔法を使って料理をする。リリたん、ちっさいからね……一人分ならまだしも、量を作るようになってからは、浮遊魔法を駆使しまくりである。でっかいフライパンを振るなんて、普通には出来ないからね。
料理の下準備が出来たら、庭先に作った窯がある場所に移動する。作ったというか、ナツメさん達に作って貰ったのだ。なんだかんで、猫妖精達も一緒に食事をする事が増えたので、お肉を焼くスペースとかもあって、ちょっとしたキャンプ場のようになっている。
そんな調理場に移動して、まずは窯にグラタンを入れる。お次は、切り分けて塩胡椒をした鹿肉を、焼肉スペースで焼き始める。
肉を焼き始めると、いつの間にか来ていた猫妖精達が、食べる気マンマンでベンチに整列して座り始めた。それに混じってピクシー族も整列を始め、庭をぽよぽよしていたスライム達まで並び始めた……。
完全に林間学校……。
カレー作れば良かったかな。