◆65・うっかり存在を忘r…… □
ナツメさんの仮説が正しければ、ハウゼンさんたちはどこぞにあったかもしれない転移魔法陣をうっかり踏んでしまい、意図せず自身の魔力を大量消費して、うっかり海を越えた別大陸に来てしまったのかもしれない。うっかり八●衛もビックリのうっかりっぷりである。
それにしても、やっぱりあの黒髪少年と別の部屋にしておいて良かったかもしれない。黒髪君にも話を聞かないと何とも言えないけど、何らかの要因で黒髪君がハウゼンさんに襲撃をかました可能性が出てきてしまった。
私としては、黒髪君の隷属状態が気になるけども。襲撃したのが黒髪君であっても、自分の意思かどうかも判らないし、襲撃理由とかも気になる。
ハウゼンさんが金竜様の加護持ちであっても、そもそも金竜様がどんな人……お竜様か判らないし、今の時点では判断材料が少な過ぎるよね。まぁ、人格的に問題がある人だったら加護をもらえたりはしないと思うけど。
作った部屋の入り口からナツメさんと共に覗き込むような形で、会話が続く。
「転移魔法陣が本当にあったとしても、誰かが踏むような所にそんな物があったとは思えないのだが……」
「にゃ? そうだにゃ……、陣は書いたものの、発動する魔力が足りにゃさ過ぎて発動しにゃかったものを失敗作として放置していたとか、別の誰かが使うつもりでいた所にお前が割り込んでしまったとか……あるいは、別の魔法陣だったものがにゃんらかの要因で転移魔法として変質したのかもしれにゃいにゃ。にゃんにせよ、原因はここでいくら考えても判らにゃいし、既にここに転移して来てしまっていることが事実だ」
「それは……そうだが、ここが別の大陸であることもまだ信じられないのだが……」
――まぁ、気持ちは解る。寝て起きたら別の世界だったこととかあるからね。
「う~ん……でもどうやって帰るんです? 自分で転移できたりしますか?」
「いや、転移魔法なんて無理だ」
――ですよね~。
チラリと転移できちゃうナツメさんを見るが、シレッとした顔をしている。多分、ナツメさんたちがこの人を連れて転移する気はないんだろうな……。加護持ちだと解っても、ずっとおすまし顔対応だ。私への対応と違い過ぎる気がするけど、『加護持ち』と『来訪者』はそれ程違うものなんだろうか?
「どう帰るかはともかく、しばらくは安静にしてた方が良いと思いますよ」
「しかし、私はすぐにでも帰りたい。ここが本当に別大陸だと言うなら、海を渡らねばならない。飛行型の騎獣がいればいいのだが……。なければ船を探さねばならないし、ここでゆっくりしている訳にはいかないのだ」
「はぁ……」
「ここから一番近い村か、町に行くにはどれくらいかかりそうか分かるか?」
「いえ……」
――普通に移動した記憶ないからなぁ……。
『どのくらいかかる』って、馬車計算? 徒歩計算? 私、大体飛ぶか、ソウさんに転移してもらってるから、一般的な移動方法が良く分からないんだけど。飛行型騎獣って何ぞや?
「僕たちが飛ばしてあげようか?」
「うんうん、私たちならできるよ!」
「え?」
「……飛ばす……とは?」
移動方法に関して、考え事をしていると、ピクシー族が会話に入ってきた。
「『えいっ!』って、飛ばしてあげるよ?」
「うんうん、『それっ!』でもいいよ」
『えいっ!』でも『それっ!』でも、嫌な予感しかしないよね……。
「……いや、えっと、具体的な方法を教えてほしいのだが」
「ぐたいてき?」
「ぐたいてきって何?」
「……はぁ、やめておけ。ピクシー族に頼むと、どこに飛ばされるか分らにゃいぞ。案外、ここに来た理由もピクシー族に飛ばされたのではにゃいか?」
「え……」
「は……?」
――あら? 『妖精の悪戯』とか言う、ファンタジーあるあるだったりするのだろうか?
ん? でもピクシー族の仕業なら、大量消費された魔力の謎が再浮上するんですけど。でも、ハウゼンさんが魔力消費していることを、私が知っていることは言えないから、「魔力減ってますよね?」とか聞けないし。
「まぁ、ピクシー族が関わっているかどうかも結局は分からにゃいことだ。とにかく、転移に関してピクシー族を当てにするのだけはおススメしにゃいにゃ」
「あ、ああ」
「失礼な! 僕たちちゃんと飛ばせるよ!」
「そうよ! そうよ!」
「にゃ……、どこに飛ぶかは運任せであろう?」
「それは着いてからのお楽しみ!」
「お楽しみ~!」
――あ、これアカンやつや……。
「じゃあ、とりあえず徒歩移動? 魔法で飛んだりとかできます?」
「いや……、飛行魔法は超級魔法だ。私にはまだ使えない……」
――……え? 超級魔法?
あんれぇ~? 〈俺は飛べる!〉とか言ってめっちゃ飛んでましたけども……。これもダンマリ案件かなと考えていると、すぐ後ろから声が聞こえた。
「おみゃえたち、そこで何してるんだ? 覗きか?」
「にゃ? セキ、吾輩たちは覗きではにゃい。会話しているのだ」
「なんだ、加護持ちが起きたか」
「にゃ⁉ にゃぜ加護持ちのことを……」
「ん? 狩りのみゃえに一度来たからな」
「にゃ……知ってて狩りに行ったのか?」
「当然だ。加護持ちより鹿肉だ」
「な……、増えた……」
ハウゼンさんは、セキさんが現れたことに驚いているみたいだけど、ナツメさんとセキさんは、ボソボソ小声で話し合っている。『加護持ちより鹿肉』て……。ブレない肉食妖精である。
「起きたのなら、さっさと送り返せばいいんじゃないか?」
「しかし……、どうもあ奴、自分が加護持ちだと気づいていにゃい気もするのだが。ピクシー族はともかく、ケット・シー族の存在を知らにゃかったみたいだ」
「…………加護持ちになったばかりか?」
「かもしれにゃいにゃ」
「なら、みゃだ肉体が転移に耐えられないか……」
ん? ちょっと聞き捨てならないワードがあったんですが?
「肉体が転移に耐えられないってどういうこと?」
「にゃ? 亜空間にゃいを移動するのだから、普通の人間だと体に負荷がかかる。加護持ちであれば、徐々に丈夫にゃ肉体ににゃるから、転移しても大丈夫にゃんだが、あ奴は加護持ちににゃったばかりみたいだから、安易に転移できにゃいにゃ」
「……じゃあ、二人が血塗れで倒れてたのは、転移による負荷が原因ってこと?」
「かもな」
「その可能性は高いにゃ」
「…………え? 私は? 何回も転移したけど……」
「リリアンヌは大抵、身体に防御魔法を張っているだろ?」
「あ……、うん」
「リリアンヌの魔法は出来がいいからにゃ、転移しても大丈夫だ」
「…………」
場合によっては、スプラッターリリたんになっていた可能性が……。
「転移する時に注意しておいてほしかった……」
「にゃ? 防御魔法を張っていにゃければ注意しただろうが、大体ずっと魔法をかけたままじゃにゃいか」
「ソウデスネ……。あ、でもあの人を転移させたいなら、私が防御魔法をかければいいんじゃない?」
「いや、リリアンヌの魔法はできるだけ使わにゃい方が良い。コッソリかけても、調べられる可能性がにゃい訳じゃにゃいからにゃ」
「じゃあ、どうするの?」
「みゃ、自力で帰らせるしかないな」
「帰る途中で加護持ちさんに何かあったら、金竜様とかに怒られない?」
「怒られる筋合いはないが、付き添いくらいは用意するさ」
竜族とケット・シー族の関係性がイマイチ分からないな。『様』呼びしてるから竜族の方が上位存在だと思うんだけど、下に付いてる感じじゃないし……。
あれかな? 『別会社の社長さん』みたいな感じかな? んで、白竜様が『自社の社長さん』って感じなのかもしれない。
「お、おい?」