◆64・MPの行方
誰でもわかる前回のあらすじ!
―――――『リリたん、血塗れ人間を発見する!』
さてさて、現在、結界の上で倒れていた人間二人の経過観察中でござる。
セキさんは「もうすぐナツメも来るだろうし、それみゃではあの人間共にはあみゃり近付くな」と言って鹿狩りのために去って行った。狩りが終わったらまた来るらしい。
セキさんが去ったあと、一旦ホームに戻って着替えと朝食を済まし、ナツメさんが来るのを待ちながら、保護した二人を順番に入り口から覗いて、様子を確認する。
一人は金竜様の加護持ち、アルベルト・ハウゼンさん。金髪で、中々逞しい体つきのお兄さんだ。目の色は判らん。寝てるからね。
もう一人は黒髪で、ちょっと華奢な体つきのルーファス・ランドリアさん。目の色は判らん。寝てるからね。
しばらくすると、ハウゼンさんの方に少しずつピクシー族が集り始めた。
「ねぇねぇ、加護持ち!」
「ホント! キラキラ!」
「寝てるの? 起きて!」
こんな感じで、ハウゼンさんの周りをピクシー族が飛び回り、騒いでいる。
――ぶっちゃけ、寝てる時に騒がれたら嫌だと思うな。
「その人怪我人だから、自然に目が覚めるまでは静かに寝かせておいてあげて」
「ケガしてないよ?」
「さっき〈ハイ・ヒール〉したからね。でもすごい出血してたから、血は足りてないと思う」
「血、飲ませる?」
「やめてあげて。飲んでも血は増えないからね」
騒がしいピクシー族を宥めながら、二人にお布団を用意した方が良いかと考えていると……
「う……」
呻き声と共に、ハウゼンさんが険しい顔付きで目を開けた。
――わ! 起きちゃった!
ナツメさんはまだ来てないけど、ピクシー族はわらわらいるし、大丈夫かな……と、入り口付近から覗くように様子を窺う。
「ここは……」
自分の状況を確認するように視線を彷徨わせながら、お腹周りの拘束に気付いて、険しい顔を更に険しくしたハウゼンさんが、入り口から覗く私の存在に気付いたらしい瞬間に、ハウゼンさんの周りに、一斉にピクシー族が集まり、思い思いに口を開き始めた。
「起きた! キラキラ!」
「もう元気? 血、いらない?」
「起きた!」
「遊ぶ?」
「遊ぼ!」
ピクシー族の勢いに、困惑100パーセントの顔で、ピクシー族に静かにしててほしいと言ったハウゼンさんは、再度私の方に視線を向けて話しかけてきた。
「君、できれば大人の人と話がしたい。呼んできてもらえるだろうか?」
「…………この辺りには、人間は私しかいないですけど……」
――まぁ、隣に貴方と一緒に現れた黒髪少年はいるけどさ。
「…………は? 君しかいない?」
――妖精はいっぱいいるけどね。
「僕たちはいるよ!」
「遊ばないの?」
「あ、おい、ちょっと……」
――うん、集られてますね。
「それより、ここに君しかいないとはどういうことだ? この拘束は君がしたということか?」
「あ~……、はい、どんな人か判らないので、一応拘束させてもらいました」
「……これはどうやって? 魔法でもない限り、こんな風にはならないと思うのだが」
――え? 魔法でしましたけど?
なんかマズかっただろうか? 幼女が魔法使うのはおかしかった?
「にゃ? リリアンヌ? にゃにしてるんだ? これはにゃんの部屋だ?」
どう答えようか迷っていると、後ろからナツメさんの声がして、私に話しかけながらハウゼンさんのいる部屋の中を覗き込んできた。
「あ……」
「なっ……⁉ …………っ! 魔獣か!」
「いや……「君! 早く逃げるんだ!」」
「………………」
「人間?」
「喋っ……⁉」
「魔獣じゃないです」
「にゃ? ま、まさか吾輩を魔獣呼ばわりしているのか⁉」
ナツメさんは尻尾を地面にタシタシして、ご立腹のようである。
「魔獣じゃない……?」
「にゃんだ、貴様は! 大体、にゃぜここに人間がいる!」
――私もここにいる人間ですけどね……。
「この人、血塗れでうちの庭の……上? に倒れてたんだよね」
「にゃ?」
「っ! そう言えば……ん? 傷がない……どころか、どこも痛くないな……」
――あ……、〈ハイ・ヒール〉したことは黙っていた方がいいかな。
「人間! にゃぜここに来たのだ」
「……それは私にも分からない。そもそも、ここが何処か分からないし、私は騎士団寮に戻る途中で襲われ、交戦していたハズなんだが……。突然、目が眩むような光を浴びたと思ったら、いつの間にかこの状態になっていて……」
――え~? もしかして、交戦してた相手って黒髪くんだろうか?
「アルベルトを怒らないで!」
「キラキラなの! 怒らないで!」
「にゃ? そもそもお前たちがにゃぜここに……。にゃ? そう言えばこの人間、吾輩が見えて……」
ピクシー族がまた騒ぎ出し、ナツメさんがハウゼンさんをジッと見つめたかと思うと「にゃっ……金竜様の気配……」と、ボソボソ呟いていた。
「なぁ……、私も聞きたいのだが、君が魔獣じゃないなら、一体何なんだ?」
「にゃ? 吾輩はケット・シー族。そこにいるピクシー族と同じ妖精だ」
「妖精? 随分と見た目に違いがあるのだな」
「おにゃじ妖精でも種族が違うのだから、当然だにゃ」
「……そうなのか」
――まぁ、どう見ても猫だからね。妖精と言われて、ちょっと困惑する気持ちは解る。
「ん? もしかして君も妖精なのか?」
――私の方を見て、珍発言しないでほしいんですけど。さっき、人間だって言ったべや。
「人間です」
「この辺りに、君以外の人間がいないと言っていたから……君ももしかして妖精なのかと思ったのだが……」
「人間です」
「そうか……。できれば拘束を解いてもらいたい。私は聖騎士団の第五部隊に所属しているアルベルト・ハウゼンだ。君に危害を加えるつもりはないし、すぐにでも出て行く。君に保護者が必要なら、保護してくれる人を探してもいい」
「聖騎士団?」
「ああ、そうだ。レギドールの民ならば、聖騎士団は知っているだろう?」
――うん、知らん。
「いえ、そもそもレギドール? が分からないんですけど……」
「ん? 自分の国の名前も知らなかったのか?」
「…………あの、ここレギドール国じゃないですよ?」
「……は? レギドールじゃ……ない?」
「カレッタ国ですね」
「カレッタ?」
「にゃ、レギドールはパドラ大陸で金竜様を崇拝している国だにゃ」
――うん? パドラ大陸ってクロたちのいる大陸なのでは?
「……どういうことだ。カレッタなんて国、聞いたことがないのだが?」
「あ~、どうも大陸が違うようです」
「大陸が違う……?」
「どうやって来たんです?」
「……国を出た覚えはないし、大陸が違うと言われても、信じられないのだが」
「そう言えば、目が眩むようにゃ光を浴びたと言っていたが、転移魔法陣でも踏んだか?」
「……転移魔法陣?」
「分からない。転移魔法陣なんて、実際に存在するのか?」
「にゃ、あるぞ。まぁ、大量に魔力消費するから効率は悪いし、使える人間はそうそうにいにゃいだろうがにゃ」
――あ……、行方不明の55,000MPの謎が解けたかもしれない。