◆63・降って来た……
「にゃ! ラヴァ、メイズ、ヴェルデ、ヴィヴィ、リーラ! 今日も存分に戯れて来るが良い!」
うん、増えてます。ヴィヴィが橙色で、リーラが紫色である。うちの子入れたら『レインボーわらび餅』が完成してしまったんですが……。
まぁ、なんて美味しそう……。
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◆スライム◆
軟体型粘性魔生物。思考能力が低く、攻撃性は皆無。
食べると内臓が溶ける可能性有り。
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ええ、食べません。食べませんとも。
日が暮れる頃までスライムと戯れて満足したらしいナツメさんは、「また来る!」と言って帰って行き、私もホームに戻ってご飯を食べて、お風呂に入ってと、お休み準備を調えて眠りに就いた。
そんな真夜中頃。
ドサドサッ――。
「……んぇ?」
気持ち良く就寝中だった私の耳に、何かが落ちたような物音が聞こえて目が覚めた……が、その後は静かなものだったので寝直した。
翌朝、いつもより早く目覚めてしまった私は、窓扉を開けて外の様子が目に入った瞬間、白目を剥いた。
「ぐほらぁ……」
見えたのは結界の上に血溜まりを作って倒れている二人の人間らしきシルエットだった。
――え? 殺人現場……?
ひぃん。ヤメテ。ホント、ヤメテ。これ、何ホラー? てか、何で結界の上に……っは! まさか結界にぶつかって血塗れに……?
――え? 犯人、私?
噓でしょ! 救急s……は、ない! 警さt……も、ない! どこに連絡……。
「…………」
泣きそうなのを堪えに堪えて、トンデモナイ顔になっているであろう自分に自問自答する。
――生存確認する?
防御魔法掛けて行けば大丈夫! きっと大丈夫! 防御魔法を掛けて、浮遊魔法を使い、恐る恐る結界の上に出たら、庭で拾った木の棒で、手前に倒れている人をツンツンしてみる。
――反応なし。
恐る恐る、手を鼻の近くに持って行き、息を確認してみる。
――多分、息はしてる?
とりあえず二人に〈ハイ・ヒール〉を掛けてみる。
――反応なし。
ここからどうすれば……。運ぶの? どこに?
一度結界の下に降りて、土魔法で簡易小屋を作り、中に人を寝かせられるくらいの台を作った。
そもそも、あの二人って知り合い? それとも二人で攻撃し合ってたとかないよね? …………どうしよう、離して寝かせた方がいいかな?
とりあえず作ったホーム内を区切って、出入り口はそれぞれに1つずつ用意し、二人が目覚めても、お互いの姿がすぐには視界に入らないようにしておく。
二人に〈クリーン〉を掛けて、浮遊魔法で一人ずつ運んだら、念の為に二人のお腹周りを石の台に固定する形で土魔法を使い、拘束しておく。二人共意識がないけど〈ハイ・ヒール〉も掛けたので、そのうち起きるだろうし。
一応〈鑑定〉もしておこう。
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◆アルベルト・ハウゼン(19)◆
【称号】金竜の寵児
【加護】金竜の加護
【MP】1,500/56,500
【スキル】剣術
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――ん? 何か変な表示が見え……
……てな~い! 即座に鑑定画面を閉じて、もう一度〈鑑定〉し直す。
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◆アルベルト・ハウゼン(19)◆
【称号】金竜の寵児
【加護】金竜の加護
【MP】1,500/56,500
【スキル】剣術
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「………………」
その後も何度か鑑定画面を閉じたり、開いたりを繰り返してみたものの、表示内容が変わることはなかった……。
――ゼロ距離ロケットパンチを喰らった気分である。
ちょっと! なんでお竜様の加護持ちさんがここに? 加護持ってる人は丈夫になるとか何とか言ってなかったっけ? めっちゃ血塗れの瀕死状態でしたけど⁉ てか、55,000MPどこ行った⁉ 何にそんな魔力使ったの⁉
色々気になるけど、こうなって来ると、もう一人の素性も気になってしまう。この人のことは、あとでナツメさんたちに相談するのがいいかもしれない。
私は移動して、もう一人の意識不明者も〈鑑定〉してみた。
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◆ルーファス・ランドリア(17)◆
【MP】300/30,300
【スキル】俊敏・気配遮断
状態:強制隷属
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――ええ~……。
こっちはこっちで何かヤバい表示が出てるんですけど。こんな表示初めて見たよ。強制隷属ってどういうこと? 誰かに隷属させられてるってこと? まさか、さっきの加護持ちさんとか? 加護持ちさんの方は拘束を解いた方が良いかと思ってたんだけど、一応そのままにしておこうかな。
てか、この人も30,000MPどこ行った⁉ ホント、何がどうなってこんな所に……。そういえば、夜中に物音がした気がするけど、まさかこの人たちが上から落ちてきた音だったとか? 空から降ってきた?
何にせよ、この人たちが目覚めないと分からないことだらけだけど、一人で対峙するのも怖いんですけど。
今日はソウさん来るだろうか……と考えている時に、簡易小屋の外から聞こえてきたのは、ソウさんでもナツメさんでもない声だった。
「みゃ! 新しいのが建ってるな。食糧庫か?」
「セキさん、おはよう」
「おう! おはよう! 随分早起きだな」
「セキさんこそ」
「うみゃい鹿肉を食べる夢を見てな、鹿肉が食べたくなったから、いみゃから獲りに行こうと思ってな」
「そうなんだ。ねぇ、セキさん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「みゃ? どうした?」
「うん、金竜様の加護を持ってる人と、強制隷属させられているらしい人が結界の上に倒れてたのを見つけてね。一応、手当と拘束をしてこの中に運んだんだけど、どうしていいか分からなくて」
「金竜様の加護持ち? 何でそんなのがここに……どいつだ?」
セキさんに促されて、加護持ちさんの所に案内する。
「う~む……、確かに金竜様の気配を感じるな。普通の人間には判らないハズなんだがよく判ったな?」
「あ、うん、スキルで見たの」
「スキルか。リリアンヌのスキルはどれもこれも人にはあみゃり見せないことだ」
「うん、気を付ける」
「うむ。しかし、金竜様の加護持ちであれば、金竜様の管理する大陸にいるのが普通なんだが……。何にせよ、加護持ちであろうと我達は基本的に人には干渉しないから、こ奴がどうなろうとどうでもいいんだが、一応報告だけしておくか」
「え? 私も人のハズなんだけど……」
「リリアンヌは『来訪者』だから、ちょっと別だな。あとは、同じ加護持ちでも、白竜様の加護持ちであれば多少の手助けくらいはするかもしれんが、今は白竜様の加護持ちはいないしな」
どうやら猫妖精たちは、人には淡泊な存在だったらしい。それに、どのお竜様の加護持ちかでも対応が変わったりするんだね。基準は良く判らないけど。
「でもこの人、加護持ちってことは、妖精が見えるってことだよね?」
「みゃ、そうだな。加護持ちならピクシー族は懐くだろうな。ただ、我たちはこ奴よりリリアンヌを優先する。こ奴をどうするかはリリアンヌが決めれば良い」
何か責任重大なことを言われた気が……。
「と、とりあえず、この人に事情を聞いてから考えるよ」
「そうか」
「もう一人の強制隷属状態の人はどうすれば……」
「それこそ、我たちにはどうでもいいな。そ奴もリリアンヌが好きにすればいい」
「あ、うん……。でも強制隷属って解除したりできるの?」
「リリアンヌならできると思うぞ。解除したいならすればいいが、リリアンヌの身の安全が優先だ。解除するかどうかは慎重に決めることだな」
「うん、わかった」
結局、突如現れた二人のことは、私がどうにかしないといけないようだ。まずは二人が起きてからだね。せめて二人と話す時に誰か一緒にいてくれないだろうか……。