◆56・最高の目覚め
初めての街へのお出かけを堪能し、帰りもサクッと転移で森へと連れて帰ってきてもらった私は、猫妖精達に買ってきたお土産を分けていた。買って来たのは、ナツメさんが食べていたプレッツェルみたいな焼き菓子と、ぶどうだ。分けやすいからね。
いつもの猫妖精達に混じって、お鹿様がぶどうを食べていた。ナツメさんによると、ホーム前に広がるこの泉は元々、フォレストホーンディアの縄張りのような物で、定期的に周辺を巡回しているのだとか。ちなみにこの泉の名前は「ルースの泉」だそうだ。
猫妖精達とお鹿様が平和なもぐもぐ集会をしているのを横目に、私は元々の予定でもあったドア作りを進める事にした。ナツメさんもまたこっそりプレッツェルを齧っていたが、ドア作りはちゃんと手伝ってくれるらしい。
今は人型ではなく獣人型だけど、それで作業するんだろうかと思いつつ、材料を〈アイテムボックス〉から出して並べたら、「にゃんだ、もう組み立てるだけじゃにゃいか」と言って、亜空間からマイ工具を出したナツメさんによって、あっという間にドアになった。
え? 私、何もしてない……。
まぁ、いいかと、ついでに窓扉も欲しいと話したら、これもあっと言う間に作ってくれた。匠か……。ナツメ親方の手によって、ホームが俄然ホームらしくなり、ちょっと感動である。
てか、ファンタジー生物である妖精がマイ工具持ってるとか、シュール過ぎて妖精の定義に更なる疑問を抱く事になったけど、とにかく作ってくれてありがとうね。親方!
ドアの事はこれでいいとして、この際だから『マジックバッグ』の作り方も聞いておこうと思う。
「にゃ? マジックバッグ? 好きにゃ袋とかに、どのくらい入れたいかイメージしにゃがら、亜空間魔法を付与するだけだ」
そう言われて、お出かけ前に交換したばかりのポシェットで試したら、アッサリ出来た。え~? こんな簡単に出来てしまっていいの……?
「リリアンヌ。前も言ったが亜空間魔法が使える事は、他の人間には知られにゃいように気を付けるんだぞ」
「あ! はい!」
そうだった。気を付けないとね。まぁ、また街に行く時はこのポシェットを使おう。一応、無限容量にはせずに、10畳の部屋いっぱい分ぐらいとイメージして付与したのだ。これでも、かなりの量が入りそうだけど、外で使うなら限度がある物の方がいいだろう。
そうこうしている内に日が暮れてきたので、物作りは終了して晩ご飯の用意をする事にした。晩ご飯のメニューを考えながらホームに戻ろうとしたら、クロに「明日はスライムを見に行くわよ」と言われて、ちょっと浮かれてしまった。
――スッライム♪ スッライム♪
この世界のスライムはどんなんだろうなぁ。やっぱり水色? それとも透明? 流石にメタルとかはないと思うんだけど。テイム出来るといいなぁ……なんて、スライムの事を考えながら晩ご飯を用意したら、天津飯になってしまった。
別にスライムを食べたい訳じゃないのに、スライムっぽい形のヤツを無意識に作ってしまったらしい……。まぁ、普通に美味しかったけども。
そうして、ご飯とお風呂を済ませてさっさと寝る事にした私は、翌朝、日が昇る前に目が覚めてしまったのである。
――これ、アレだ。楽しみ過ぎてすっごい早くに目が覚めたものの、早起きし過ぎたせいで、行く直前位にめっちゃ眠くなるヤツ。しかもここで二度寝したら、遅刻寸前まで寝てしまうパターンな気がする……。寝たら起きれない気がするから、起きてお弁当でも作ろう。
二度寝防止の為にせっせと料理を作り出し、ついでにこの前のリベンジのように、唐揚げも大量に作った。後は、卵焼きとかぼちゃの煮物、きのことブロッコリーの炒め物にジャーマンポテト、煮豆サラダと人参のしりしり。
手持ちの材料で作れるだけ作り、猫妖精達と食べる分を取り分けたら、残りは保存用として〈アイテムボックス〉に仕舞っておく。作り置き料理は少しずつ増やしていきたいところだ。
お弁当を、作ったばかりのマジックバッグに仕舞い、いつものお出かけスタイルに着替えたら、クロ達がいないか確かめるために外に出てみる事にした。
すると、ホーム前にデカ猫組が勢揃いしている上に、チビ猫達も大量にいた。
――え!? もしかしてずっといた?
私が寝ている時間は、みんなもケット・シー族の領域に帰る事が多いって言ってたのに……。まぁ、みんなまだ寝てるし、私もここで二度寝しちゃおうかな……。ここでなら、ちょっと寝過ごしてしまっても、誰かが起こしてくれるだろうし。
永久封印かと思われたウサギ型寝袋を出し、ホーム前の〈ゴロニャンエリア〉にまで出たら、お休み中の猫妖精に混じってちょっとお休みする事にした――。
「リリアンヌ!」
「リリアンヌ、そろそろ起きて」
「リリアンヌ~!」
複数の私を呼ぶ声が聞こえて、目を開けると、獣人型の猫妖精に囲まれていた。
「もふもふ天国……」
目覚めると、そこはもふの桃源郷であった――。