◆55・アニッチョーリ!
私とソウさんのリクエストで串焼き肉を買いに行く。とは言っても、私はずっと抱っこされたままだけど。猫妖精達はこの街によく来ているらしく、おススメの串焼き肉屋に連れていってくれるそうだ。わくわく♪
お肉の焼けるいい匂いが漂ってきて、その方向を見るとリック・マッチョーリさんがいた。
そういえば、ギルドから出て行ったのを見届けた後は見かけなかったので、用事が済んで帰ったんだと思ってた。あの連れ出された2人がどうなったは分からないが、きっと兄マッチョーリさんにお説教でもされたのだと思う。
「あら、さっきの。さっきは助かったわ、ありがとう」
クロが兄ッチョーリさんに、ギルドでのお礼を伝えるために話しかけていた。
「いや、大した事はしていない。アイツ等は最近この街に居着いたみたいだが元は流れ者だ。この街を拠点にしているヤツ等は『赤き竜』の目があるから、ああいった事をするヤツはほとんどいないんだがな」
「赤き竜?」
「……もしかして知らないか? この街を拠点にしているA級冒険者のパーティーだ。結構、有名なパーティーだと思っていたんだが」
「ああ、私は遠くから遊びに来てるだけだから、この辺りの事はあんまり知らないわ」
「そうか。そういえば見かけない顔だな。俺はリック。弟は護衛任務で今はこの街にいないが、さっき言った『赤き竜』に所属している。何か困った事があれば俺や弟達に声を掛けてくれて構わない。俺達は街の自警団にも所属しているからな」
――わお! 兄ッチョーリの弟さんて、ニック・マッチョーリさんでしょ!? やっぱりA級冒険者だったんだ!
クロと兄ッチョーリさんの話に聞き耳を立てながら、心の中でニック・マッチョーリさんを思い浮かべようとして、唐揚げしか思い浮かばなかった。パーティーって事は、多分あの時見たミルマン兄さんやもう一人の魔法使いっぽい人と大剣の人もメンバーなのかもしれない。この街を拠点にしているなら、いつか会う事もあるかもしれないなぁ――。
クロと兄ッチョーリさんが会話をしている間に、私とソウさんは串焼き肉を1本ずつ購入した。結構大きいけど食べきれるかな? 無理だったら〈アイテムボックス〉に入れればいいか。
串焼き肉を片手にクロ達と合流し、私はナツメさん抱っこにバトンタッチされた。クロと兄ッチョーリさんの会話も終わったようだ。
それにしても、パーティー名が『赤き竜』とは……。本物の白き竜様に会ってしまっただけに『なんてチャレンジャーなネーミングだ!』と思ってしまうね。
「本物の赤き竜様は、パーティー名に使われてたりする事を知ったら怒ったりしない?」
「ん? 赤き竜はいないですから、問題ないと思いますよ」
――え!? 赤き竜様はいないの!?
「そうなんだ。でも竜って白竜様だけじゃないんだよね?」
「ええ、いるのは白竜様・金竜様・黒竜様・銀竜様・青竜様の5体ですね」
「5体だけ?」
「そうですよ。まぁ、竜族はほぼ不死の存在ですから、数は少なくても問題はないのでしょう」
「なるほど……」
そういえば、白竜様は『大陸管理者様』だったけど、他のお竜様も管理者様なんだろうか? 何となく街中ではそういう話は避けた方がいいかと、今は聞くのを止めておく。
会いたい訳ではないんだけど、やっぱり伝説の存在とかは気になるよね。他のお竜様も人の姿になれるんだろうか? 本来のドラゴン姿もちょっと見てみたい。でも見れるなら遠くからこっそり見たいよね。気付いたら膝の上とか、二度と御免でござる――。
お竜様の話は一旦横に置いておくとして、串焼き肉を食べる。塩を振って焼いただけのお肉だけど、ジューシーで美味しい。これ何のお肉だろ。あ!〈鑑定〉しようかな。
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◆レッサーラビットの串焼き肉◆
ダンによって調理されたレッサーラビットの肉を木の串に刺した物。
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レッサーラビットのお肉ね。あの角生えウサギとは別のウサ肉か。てか、ダンって串焼き肉屋の店主さんかな? 調理した人の名前まで判るのか。鑑定画面を閉じて、お肉をもぐもぐする。
いつの間にか飲み物片手に傍に来ていたソウさんに、時々果実水を飲まされ、口元を拭われたりと、お世話されながら串焼き肉を食べきった。かなりお腹いっぱいである。気を付けないと、寝てしまいそうだ。
「ねぇ、食べ終わったなら店を見て回りましょ!」
クロの言葉に従って、その後は大通りの店を見て回った。私は小さな木彫りの置物を数個と髪飾りをひとつ買った。クロはかなり爆買いしてるけど、人型の時しか使えないような物が多い。
「クロ、それ人型の時にしか使えなさそうだけどいいの?」
「いいのよ。帰ったら人型でいる時間も多くなるし」
「そうなんだ」
クロの買い物にも付き合いながら、途中で森にいる猫妖精達へのお土産も買い、初めての街体験を大いに楽しんだのだった――。