◆47・やっぱり灰は集めなくていいです。
「ラダ、そんな乱暴にしてはいけないよ」
おラダ様に物理的強制ドライアイを喰らっていた私は、再びお竜様の膝上に舞い戻っていた。今度は精神的天然ウェットアイになりそうである。
「涙が出ちゃったね」
そう言ってまたしても、お竜様がどこからともなく取り出したハンカチで、涙を拭われる。そうだよね……。きっとお竜様も亜空間魔法とか、転移とか出来ちゃうんだろう。
「もっ、申し訳ございません!」
「うん、それは僕ではなく、この子に言いなさい」
「リリアンヌ! すまない!」
「イイエ、オキニナサラズ」
――むしろ、今の状態の方が泣ける。
だけど、ずっとロボ語を話してるわけにもいかない。
「リリアンヌ、お肉まだ食べるかい?」
「いえ、あの……、私まだ、ご挨拶してなくて……」
「ん? ああ、気にしなくていいのに。でも、折角だから改めて自己紹介でもしようか。僕はアルバスデルウィンダヴァル。僕の名は文字にしてはいけないから、文字を書けても書いちゃダメだよ? 多くの者は僕を『白竜』と呼ぶから、白竜と呼んでくれて構わない。もちろん、君なら名前で呼んでくれてもいいけど」
にこにこ眩しい笑顔でお竜様が自己紹介してくれたんだけど、名前が長すぎてアルバスなんちゃらダ……ル……しか分からんかった……。
てか、さっき〈鑑定〉で個体名の部分が伏字になってたのって、文字にしちゃいけないからだったのかな? 個体名とかいつから表示されるようになったの? 前から? それはさておき、何で文字にしちゃいけないのか分かんないけど、そういう存在の真名は知られてはいけない系の話だって色々あったわけだし、そんな感じなんだろう、多分。知らんけど……。
でも、それなら名前は知らなくても良かったんだけど、何故名乗られちゃったのかな。
「えっと……、先生、私はリリアンヌです」
「先生?」
――あっ! やべっ! 完全にアルバス・ダ〇ブルドアで覚えちゃった……。
「間違えました……。白竜様……」
「うん、何と間違えられたのか気になるけど、まぁ、いいか。そっちの二人はラキとラダ。ガルーダ族の双子だよ。ガルーダ族は他にもいるけど、僕によく付いているのはこの二人」
「…………。ラキです」
「ラダだ!」
「リリアンヌです」
「知ってるぞ!」
あ、ですよね。名乗る前から名前呼ばれてたし。でも他に言う事ないんだよね。
「さぁ、自己紹介も終わったし、お肉食べる?」
名前しか言ってないけど、いいか……。
「あ、はい。あの、降ろしてください。自分で座れます」
「うん? 知ってるよ? でも、僕が食べさせてあげるから降りなくていいよ」
「…………」
「はい、どうぞ」
結局、私は白竜様の膝から降ろしてはもらえないらしい。私は、白竜様に差し出されたお肉をもぐもぐする事にした……。
――私は、雛鳥。口を開けて、差し出されたご飯を食べるのよ……ぴよぴよ。
「リリアンヌ、野菜も焼けましたよ」
そう言って、ソウさんが新たに野菜を持ってきてくれた。
――ソウさん! 助けっ……
「白竜様、ここに置いておきますから、よろしくお願いしますね」
「はいは~い」
「…………」
助けを求める前に、白竜様によろしくお願いされた上に、さっさと立ち去られてしまった。てか、白竜様に何お願いしてんですかっ!
――たった今、ソウ氏は「頼れる男NO.1」の座から転がり落ちましたぞ! クイクイッ!
エアー眼鏡をクイクイしながら、ソウさんの後姿をちょっぴり恨みがましく見つめてみたが、なんの効果も無かった。
うん、まぁ、そうだよね……。
その後も、白竜様の膝上で給餌され続けた私は、事もあろうに、途中でそのまま寝落ちしたのである――。
「あ、起きた?」
「ほぇ?」
――眩しっ!
寝起きバルス……。起きてすぐ死ぬとか……、誰か、私の灰を集めてくれたまえ……。
「ふふっ」
眩しい人に微笑まれながら、口元をハンカチで拭われた……。
「…………」
――!!!!!
――まさかっ!
「よだれ……」
「ふふっ、ちゃんと拭いたから大丈夫だよ?」
――誰かもう一回、私を灰にしてくれたまえ……。
ちょっとぉぉぉ~! 食べながら寝落ちしたのもヤバいけど、よだれとか……よだれとか……! んなもん、焼き肉のタレより数万倍アウトでしょうがっっっ! え? 寝起きのシャインアタックはそういう事? 滅されよ!って事? どうぞ滅してください! 神様! お竜様! 今ならお鳥様アタックも甘んじて受け入れまする!
「ふふっ、お鳥様アタックって何?」
――へ?
「シャインアタック?も気になるけど、『滅してください』とか言っちゃダメだよ?」
――出てた……。全部、口に出てた……。え? 心読まれたわけじゃないよね?
「うん、流石に心を読むのは難しいかな? ふふっ」
――ぴぎぃ……!!!!!(白目)