◆42・ソウさん!
ナツメさんと街に行く話をしていると……
「私も行こうかしら……」
――と、クロが言った。
「にゃ? 帰らにゃくていいのか? 街には、今日行く訳ではにゃいぞ?」
「少しくらい帰りが遅れても平気よ。最悪、シロだけ先に帰らせるし」
「お前もにゃかにゃか、自分本位だにゃ」
「貴方に言われたくないんだけど」
「にゃに!?」
「ちょっと、二人共、落ち着いて!」
またもや言い争いが始まりそうな予感に、宥めに入ろうとしたところで、知った声が割り込んできた。
「貴方達、またケンカですか? 幼子の前でみっともない……」
「な!? みっともないですって?」
「にゃ! ソウ! 吾輩は事実を言っただけにゃのに、クロがケンカを売ってくるのだ」
「はいはい、ケンカするなら二人でいる時にしてください」
「……~っ」
「……っっ」
やって来たソウさんに適当にあしらわれ、道端で配られたティッシュの中の広告を見るような視線を送られたナツメさんとクロは沈黙した。多分、口で勝てない相手なのだろう。これ以上言っても分が悪くなるだけ……みたいな空気がビシバシ漂っていた。
――ソウさん、強し!
「ソウさん、こんにちは」
「はい、こんにちは、リリアンヌ」
「セキさんは?」
「そこで寝てますよ」
いつの間にか来ていたセキさんは、既に〈ゴロニャンエリア〉でお休みだった……。セキさんもシロに負けず劣らずのマイペースっぷりである。
「で? この魔獣の山は何です?」
「にゃ! それはリリアンヌに獲ってきた物だ。毛皮が欲しいらしい。ついでに肉も獲れるしにゃ」
「なるほど」
「リリアンヌ! 全部リリアンヌの物だから、スキルに仕舞っておくといい」
「え? 毛皮とお肉を少し分けてもらえるだけでいいんだけど」
「にゃ? 換金も出来るにゃら要らにゃい部分はお金にしておけばいい」
「それじゃあ、そのお金渡すけど」
「にゃぜだ? いらにゃいぞ?」
「でも、ナツメさんが獲ってきた物だし……」
「リリアンヌ、遠慮せずに貰っておきなさい」
「そうよぉ~。貰える物は貰っておきなさいな」
ナツメさんが獲ってきた物を全部くれようとしている事に若干戸惑っていると、ソウさんとクロにも貰っておけと言われてしまった。
「吾輩たちはお金も毛皮も肉も特に欲しい訳でもにゃいからにゃ」
「ええ、獲ってきた物を無駄にしないためにも貰っておきなさい」
「……そういう事なら遠慮なく。ありがとう!」
「うむうむ。お金は街に行った時にでも使うといい」
「あ、私、ブラックボアのお肉はちょっと食べてみたいわ」
「にゃ!? これはリリアンヌに獲って来た物だぞ! 図々しい!」
「何よ! こんなに大きいんだからちょっとくらい貰ってもいいでしょ!」
「そういう問題じゃにゃいにゃ!」
「あ、ちょっと! 二人共! お肉は分けよう! ね?」
「リリアンヌ! クロに分けてやる必要にゃんてにゃいぞ!」
「リリアンヌがいいって言ってるのに、なんてケチくさいのかしら! 狭量が過ぎるわよ!」
ええ~!? また? 何でこんなにすぐケンカするの!?
「二人共、うるさいですよ」
「……っ!」
「……~っ!?」
大きな声を出したわけでもないのに、毎日些細な事でケンカする子供に静かにブチギレた母ちゃんみたいなソウさんの一言に、ナツメさんとクロは沈黙した。二人共、しっぽが凄い事になってるよ?
――やはりソウさん、強し!
「それで? 街に行くとか言ってましたけど、リリアンヌを街に連れていくのですか?」
「にゃ! リリアンヌは街に行ってみたいらしいのだ」
「そうですか。ならその時は私も一緒に行きましょう」
――わ、頼もしい。何か、安心感がグッと上がった気がする。
「お願いします!」
ソウさんの申し出にすかさず、よろしくお願いした。
「ええ……、貴方も行くの?」
「何か問題でも?」
「別に、問題はないけど……」
「嫌にゃら来にゃくていいぞ!」
「嫌なんて言ってないでしょ!」
「ケンカするなら今すぐ帰っていいですよ。街にも、私がリリアンヌを連れていきますし」
「それは……っ!」
「~~っ……ケンカしないわ」
またしても言い争いかけた二人に、ソウさんの冷たい視線が……。ソウさんの目が、ほとんど虚空になりかけてるよ? もういい加減、学習しようよ、二人共……。
「ところで、リリアンヌは身分証か何かを持っていますか?」
「え!? 持ってないです……」
「そうですか。ならリリアンヌはギルド証を作ってもいいかもしれませんね。私達は人に見えない猫型で出入りする事が多いですけど、リリアンヌは人ですし。街に出入りするなら、身分証の類はあった方がいいでしょう。冒険者ギルド、商業ギルド、魔法師ギルド、薬師ギルド……色々ありますが、冒険者ギルドが一番無難ですかね」
「5歳でも大丈夫ですか?」
「冒険者ギルドなら5歳から登録出来ますよ。依頼には街中でのお手伝いなんかもありますからね」
「なるほど!」
「確か、定期的に依頼を熟さないと、ギルド証が使えなくなるようですから、依頼を受ける時は一緒に街に行きましょう」
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
――頼れる男(?)NO.1はぶっちぎりでソウさんに決定である。
「にゃ……にゃんだか、吾輩を見る目と、ソウを見る目が違うようにゃ気が……」
――うん、ナツメさんはデッカイ弟みたいなデッカイ猫だからね。