◆41・ついでとは…。
ナツメさん達と会話をしていると〈ゴロニャンエリア〉でお休み中だったシロさんがむくりと起きてやって来た。白いツヤツヤ毛並みに、アクアとトパーズの色をしたオッドアイさんである。
「小さい人間……アナタ、リリアンヌ?」
「あ、初めまして、リリアンヌです」
「ん、シロは『シロ』……」
「はい、よろしくお願いします。シロさん」
「ん、シロでいい」
「あ、はい……」
「私もクロでいいわよ。堅苦しい喋り方も要らないわ」
「う……、はい」
なんとなく、仕事をしてた頃の癖で、いきなり呼び捨てとか、タメ口とか難しいんだよね。まぁ、相手がデッカイ猫だと思えば何とか……。
「が、頑張る……」
「え? 何を頑張るの?」
「意識しないと、また敬語とか使っちゃうもんで……」
「普通逆じゃないかしら?」
「そうですかね?」
「……。敬語になってるわね……」
「…………」
「吾輩も『ニャツメ』でいいと言ったのに、変わらにゃいしにゃ」
「うぅ……、何となくナツメさんは『ナツメさん』って呼ぶ方がしっくり来るというか……」
「まぁ、好きにするとイイにゃ」
「うん」
クロさん……クロ達とそんな会話をしていると、いつの間にかシロさ……シロがまた〈ゴロニャンエリア〉でお休みしていた。私がじっとシロを見ていたからか……
「シロはいつもあんな感じよ。喋ったと思ったら、次の瞬間には寝てるなんてよくある事よ」
「そうなんだ……」
「あの子のペースに合わせてたら調子が狂うだけだから、基本的には放っておけばいいわ」
「んにゃ、んにゃ」
「あぁ、うん」
クロがそんな事を言い、ナツメさんもうんうんと首を縦に振って同意していた。シロは超マイペースなタイプのようである。まぁ、猫ってそんな感じだよね。………妖精だっけ? もう、猫でいいよね。
「ところで、お前たちはにゃぜここに来たのだ?」
「あら、そんなのリリアンヌを見に来たからに決まってるじゃない」
「え? そうなの?」
「そうよぉ~。魂だけの来訪者なんて珍しいもの。しかも、その身体を乗っ取ったわけでもなく、その身体の持ち主として産まれてきたんでしょ?」
「そうですね……。前の世界の記憶が戻ったのは数日前だけど、記憶が戻ったというより、前の人生の続きとして目覚めて、リリアンヌのそれまでの記憶が当然のように融合した感じかな? どっちの人生の記憶にも違和感がないから、身体を乗っ取ったわけではないと思うけど」
「記憶が戻ったの、数日前なの?」
「そうにゃのか!?」
「はい、3日くらい前かな」
「思った以上に最近なのね」
「やはり、自分で気付いていにゃい可能性もあったのではにゃいか……」
「な……、でも、記憶は戻ってたんだからいいじゃない」
ナツメさんとクロがまた言い合いを始めかけたので、「まぁまぁ」と二人を宥めていると、
「ところで、貴方たちどこ行ってたのよ」
――と、今度はクロが急な話題転換を仕掛けてきた。
「森に木を採りに。ついでに他にも色々獲ってきたけど」
「んにゃ! そうだ! 獲ってきた物をリリアンヌに渡そう。リリアンヌは自分で解体できるのか?」
「あ、うん、スキルで出来るよ」
「にゃんと……。リリアンヌ、そのスキルの事も、人間には隠しておくのだぞ」
「うん、そのつもり」
「にゃらいい」
「解体って……、何獲ってきたのよ……」
クロにちょっぴり胡乱な眼を向けられながら、ナツメさんが亜空間から赤、黒、茶色の熊3頭と、黒くてデッカイ猪1頭、黒い角生えウサギ4羽、コカトリス7羽を出してきた……。
「え? こんなに?」
「んにゃ! 昨日、皆でリリアンヌのコカトリスを食べてしまったからにゃ。それに黒兎は小さいが毛並みが良いから、ついでに獲ってきたのだ!」
――ついでの量が多い……。
最初は熊を3色、1頭ずつ獲るとか言ってた時点で「多くない?」って思ってたのに、ついでの方が多いってどういう事よ……。
「よくこれだけ獲ってきたね」
「にゃ? これでも加減して、少にゃい方だにゃ」
「加減とは……」
「あらぁ、ブラックボアもあるじゃない。それ、すっごく美味しいらしいわよ」
「あ、そういえば、ナツメさんもそんな事言ってたような……」
「んにゃ! 人間の街では高値で売れるらしいにゃ。食べれる分だけ取って、残りを売ってもいいぞ。どうする?」
「う~ん、そうだね、かなり大きいし、半分くらいは売ってもいいかなぁ」
「にゃら、半分は売りに行くか。また食べたくにゃったら獲りに行けばいいしにゃ」
「売りに行くって、人間の街に行くの?」
「そうだにゃ。リリアンヌも行くか?」
「え? いいの?」
「うむ、物を売る時は人型で行くから、リリアンヌが一緒でも大丈夫だぞ」
やった~! 保護者付きなら街にも入れる!
「他にもにゃにか売るか?」
「え? いや、スキルで《換金》も出来るから、特に売る物はないけど」
「にゃに!? スキルで《換金》とはどういう事だ!」
「えっと、亜空間魔法みたいなスキルがあるのは言ったと思うけど、そこに入れた物を解体したり、換金したり出来るの」
「にゃんと……」
「何そのスキル……。そんな便利過ぎるスキルってあるの?」
「うん……」
クロの胡乱な眼が、今度は私に向けられた……。
「にゃら、街に売りに行かにゃくてもいいという事か?」
「う~ん、それはそうなんだけど、街には行ってみたいし、街で売るのと、スキルで《換金》した時の差額とかは知りたいかな」
「ああ、にゃら、まずコカトリスで比べてみればいいんじゃにゃいか?」
「あ、そうだね」
こうして私は、ナツメさんと街に行く約束をしたのである。やっほい!――