◆40・新たな出会いと新事実
私とナツメさんがホーム前に戻ると、見知らぬ黒と白のデッカイ猫がいた。
「む? にゃぜ、あれらがここに……」
ナツメさんがそう呟きながら、デカ猫2匹に近寄っていく。私はナツメさんの背にしがみついたままだけど、ナツメさんがゆっくり歩いているので、辛うじて顔を上げている状態だ。
「お前たち、にゃぜいる?」
「あら、随分なご挨拶ね。私たちにアレの処分を押し付けてさっさと帰ったのはどこの誰かしら?」
「にゃ! アレはソウが、お前たちの方が適任だと……」
「確かにあの中には、私たちの大陸の者も混ざってはいたけど、全てではなかったでしょう? そもそも、この大陸で起こった不始末を私たちに押し付けるだなんて……」
金目で、黒いツヤツヤ毛並みのお姐さんぽいデカ猫様がナツメさんに厳しい目付きを向けながら、何かにご立腹されているようである。私、聞いててもいいんだろうか……。ちなみにデッカイ白猫さんは〈ゴロニャンエリア〉でお休み中である。
「にゃ、そ、それは……、そもそも事の発端は、その混じっていたお前たちの大陸の者であろうが」
「…………。それは……確かにそうだけど」
「にゃら、吾輩たちを責めるのは違うのではにゃいか?」
「……それとこれとは別ではないかしら? 確かに原因は我が大陸の者であっても、後始末を全部押し付けるのは別問題よ!」
「にゃ……」
――よく分からないけど、どうやらナツメさんの負けのようである。
「そ、それより! にゃぜここにいる!」
分が悪いと悟ったからか、急な話題転換を試みたようだ……。
「あら、そうだったわ……」
そう言ってデッカイ黒猫さんは、ナツメさんの背に乗ったままの私の方に近寄ってきた。
「初めまして、小さな来訪者さん。私はクロ。あそこで寝ている白いのは『シロ』よ」
「にゃ! おい! クロ! お前……」
ナツメさんが何か言ってるけど、自己紹介をされたので、私はナツメさんの背から降りて、ご挨拶することにした。
「初めまして。リリアンヌです」
「まぁ……、ホントに小さい。可愛いわね」
クロさんが私の顔に、デッカイ顔をスリスリと摺り寄せてきた。嬉しいけど、大きいので摺り寄せられる微かな衝撃だけで倒れそうなんですが……。おっとっととしながらも、クロさんに話しかける。
「クロさんとシロさんには名前があるんですね」
『クロ』と『シロ』なんて、私以上にそのまんまなネーミングである。覚えやすさはピカイチだけど。
「そうよぉ~。シンタロウに付けてもらったの」
「え? シンタロウ……って……日本人?」
「あら! 貴女、『ニホン』を知ってるの? ニホンはシンタロウの祖国なんですって」
「え、転生……いや、その名前なら転移? あの! そのシンタロウさんって今どこにいるんですか?」
「もう死んじゃったわ」
「え、そう……ですか……」
「そんな顔しないで。寿命よ。90近くまで生きていたんだから、人間にしては長生きだと思うわよ」
「そうなんですね……」
そっか、寿命か……。シンタロウさんが生きていたら、話してみたかった。多分、転移してきたと思われる同郷の人。まぁ、私はこの世界で生まれて、日本人の記憶があるだけだけど。
「あの……、シンタロウさんがどうして祖国からここに来たかとか、何か知ってますか?」
「どうやって来たのか、どうして来たのかは、私は聞いていないの。でも、シンタロウ以外にもこの世界には時々、別の世界からの『来訪者』が現れるの。貴方は魂だけで来ちゃったみたいだけど」
「え……?」
「おい! クロ!」
最初に言われた『来訪者さん』ってそういう意味? え? 私が転生者だって分かってるってこと? え? ナツメさんたちも?
「あら、何を驚いているの?」
「私に別の世界の記憶があるって、分かってたんですか?」
「そうねぇ。ナツメ達に聞いてない?」
「何も……」
「そうなの?」
「にゃ……、リリアンヌが来訪者にゃのは森鹿が呼びに来た時から知ってたにゃ。でも、リリアンヌは身体はこちらの人間だし、自分で言わにゃい限りは誰かに気付かれることもにゃいから、その辺はあんまり心配してにゃかったにゃ。それに、記憶がどれだけあるかも判らにゃかったから、わざわざはにゃして記憶を刺激するのは控えるつもりだったのだが……」
そう言ってナツメさんが、クロさんをギロリと睨んだ……。
「あ、あら……、それはごめんなさい。でも、この感じだと記憶は全部あるんじゃないかしら?」
クロさんがナツメさんの視線を避けるように、目をキョロキョロさせながら焦っている。
「はぁ、そうですね……。でも、死んだ記憶はないので全部かどうかは判らないですけど、記憶が途切れてるとかそういうことはないです」
「そうか……。まぁ、ここまで話してしまったにゃら、今更隠すこともにゃくにゃった。先も言ったが、リリアンヌは身体がこちらの者だから、自分で『来訪者』であることを言わにゃい限りは人間に気付かれることはにゃい。気付くのは吾輩たちケット・シー族か或いは、竜族、それから霊獣たちくらいか……。吾輩達が来訪者を害することは決してにゃいが、人間には悟られにゃいことが一番だ」
「そうね。人族は幾度となく現れた来訪者を利用しようとしてきたものね……」
「にゃ。時々と言っても来訪者が現れるのは数百年に一度あるかにゃいか程度にゃ。にゃのに、その数百年に1度の来訪に、欲深い者共が群がるのだ。あまつさえ、自分たちで喚び寄せようとする者すらいるのだ。リリアンヌは、自分が来訪者であることは、決して人間に悟られにゃいようにするんだぞ!」
「あ、はい! 気を付けます!」
自分に日本人の記憶があることは、元々誰かに話すつもりはなかったけど、意識して気を付けた方がいいかもしれない。まぁ、暫くは森に引きこもっているつもりではあるけど、いつ何が起こるか分からないしね。現に何の前触れもなく、寝て起きたら転生してた訳だし……。まぁ、おかげであの家からは出れた訳だけど。
人間、万事塞翁が馬である――。