◆38・見えるのは黒い毛だけ。
昨晩、ゴロゴロしている内に寝落ちてグッスリ眠った私は、起きて朝食を済ませた後、お出かけスタイルモードで、木を採りに行くべく外に出た。
今日も変わらずホーム周りには、妖精成分を感じた事のない猫妖精たちがニャンニャンしている。ソウさんと、セキさんはいないみたいだけど、ナツメさんはホーム前のゴロニャンエリアでヘソ天で寝ていた……。
可愛いけど、なんだかなぁ……妖精ではないよね。あれで、人型になるとイケメンとか詐欺である。
ヘソ天猫妖精たちを横目に、結界から出た所で声を掛けられた。
「にゃ! リリアンヌ、出かけるのか?」
「はい、木が欲しくて、採りに行こうかなって」
「にゃんの木が欲しいのだ?」
「何って言うか……ドアに出来る木材が欲しくて。木、採ってもいいですか?」
「にゃ、好きに採るといい。ドアにするにゃら、堅めの木がいいにゃ」
「堅め……」
「にゃ! 吾輩も行く。良さそうにゃのを見繕ってやろう」
「え! ホント!?」
「うむ。吾輩の背に乗るがいい!」
「え……」
「さぁ! 乗るがいい!」
「……あ、はい」
突然の提案に驚いていると、またしても顔面ドアップの圧を掛けられたので、さっさと折れる事にした。『モフモフに乗る』とか、ちょっと心が浮き立つものがあるのである。
気分は勿論、もの〇け姫なのだが、見た目は『巨猫に乗る幼女』。しかも、普通によじ登ろうとして届かなかったので、〈浮遊魔法〉でどうにかナツメさんの背に乗ったものの、掴まるところが無いので、背中にしがみつくスタイルだ。迫力は皆無である。むしろ、ただの珍光景である。
「行くにゃ!」
思った以上の情けなスタイルを嘆く間も無く、ナツメさんが走り出した。想像よりは遥かに乗り心地は良いんだけど、返事する前に走り出すのは止めて欲しい……。ただ、それを注意しようにも、ナツメさんの背にしがみつく事に必死な今は、喋るとか無理である。
モフモフの背に乗り、景色を堪能? いや、無理……。景色とか、ナツメさんの黒毛しか見えてないから。鞍も手綱も無く、動物(?)の背に乗るとか、普通に無理。あんなの、アニメや漫画の中でしか出来ない空想の産物である事が発覚した。太ももに力を入れて? いや、そもそも跨げる程の足の長さなんか無い。
ナツメさんに乗る前の『モフモフの背に乗るイメージ』はあくまでもイメージ……、夢は夢のままである。
ただただ、ナツメさんの黒毛に埋もれて、しがみついたまま過ごす事、暫く……。ナツメさんの動きが止まったようなので、ちょっとだけ顔を上げて周りを確認してみる。まぁ、見たところでどこか全く分からないんだけど。
「リリアンヌ! この木が良さそうだ」
ナツメさんがそう言うので、一度ナツメさんから降りて、ナツメさんが見ている木に近付いてみた。
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◆ホワイトナット
硬質で、衝撃に強い木材が取れる。
10~12月にホワイトナッツの実を落とす。
実は食用可。香ばしくて美味しい。
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おお! 硬質で衝撃に強いとな! ドアに打って付けだね。でもナッツの採れる木だけど、切っていいのかな……。
「ナツメさん、これ、木の実が採れる木だけど、切っていいの?」
「にゃ! 数本切ったところで問題にゃい。この木は、この森には沢山あるしにゃ」
「そっか。じゃあ、遠慮なく」
ん~、どうしよ……切った瞬間、木が倒れる前に〈アイテムボックス〉に仕舞えばいいかな。てか、エアカッターとかでズバッとイケるかな? とりあえず、やってみよう。
私は木だけがスパッと切れるイメージで〈エアカッター〉を使い、直後に〈アイテムボックス〉に《収納》した。
「出来た!」
「おお~! リリアンヌは亜空間持ちにゃのか?」
「え? ああ……亜空間というか、そういうスキルがあるんだけど」
「にゃるほど。魔法ではにゃくスキルか」
「ん? 魔法でも同じような事が出来るって事?」
「リリアンヌ程の魔力があれば出来るにゃ。袋にそういう魔法を付与した物を持っている人間もいるにゃ」
「そうなんだ。マジックバッグってヤツかな」
「リリアンヌなら作る方も出来そうだにゃ」
「作る方……。でもスキルあるし、わざわざ作る必要はないかも」
「でもリリアンヌのスキルは、誰かに見られたら亜空間魔法が使えると思われるにゃ。そういう魔法を使える人間は目を付けられやすいから危険だにゃ」
「なるほど……」
ナツメさんや猫妖精達の前ではともかく、人前でスキルを使う予定はないけど、その内、ひとつぐらいは作っておいた方がいいかな。
「今度、やってみる。どんなバッグでも大丈夫かな?」
「にゃかに物を入れられるにゃら、袋でも箱でもにゃんでも大丈夫だにゃ」
「そうなんだ……」
ウサ毛皮でポシェット作ろうと思ってたし、それで試してみようかな――。