◆32・知ってた~!
誰でもわかる前回のあらすじ!
―――――『リリたん、外に出たらイケメンに遭遇!』
またですか? 流石にこのパターン3回目とかどうなの? なんて思いつつ……ホームの結界前に、腕を組みながら空をぽや~っと見上げて立つイケメンをガン見しながらも警戒する。
周りには朝と変わらずホーム周りに猫妖精達がゴロゴロニャンニャンしているし、猫妖精たちはイケメンを気にしていない。
――え? どゆコト? DO YOU KOTO?
突如出現したイケメンは黒髪に白いメッシュが入った、少し長めのふわ毛に緑と金色が混じったグリーンゴールドとも……いう……べ……き? あれ? なんかこの瞳の色、最近見たような……。
ちょっと混乱しながら〈鑑定〉しようとしたところで、イケメンがこちらに顔を向け、話しかけてきた。
「リリアンヌ! 声をかけようか迷っていたところにゃのだ! 折好く、出てきてくれたものだ」
「…………」
――にゃのだ?
「リリアンヌ?」
「その姿に驚いているんじゃないですか?」
イケメンの後ろから声がしたので、そちらに眼を向けると……
――別のイケメンがいた。
白っぽい茶色に、こげ茶と金のメッシュが混じったような長い髪と、ヘーゼル色の瞳をした美青年である。
「…………」
――うん、判ってる。もう、判ってる……。
でも私は〈鑑定〉した。
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◆ケット・シー◆
森の管理者である猫型妖精。基本的に温厚。
攻撃すると容赦無く反撃する。
自分や仲間を害する者には苛烈。
猫型に変化し、人の営みを観察するのが趣味。
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――知ってた~!
判ってはいたけど、思わず頭を抱えて天を仰ぐ。
「ナツメさんとソウさん?」
「にゃ!」
「そうですよ」
「人の姿になれるんですね……」
「うむ! 人の姿を取れるケット・シー族の者はそう多くはにゃいがにゃ!」
「そうなんだ……」
何か驚きすぎて、うっすい反応しか出来ないんですけど。
「そういえば、セキさんは?」
「セキなら、あそこですよ」
ソウさんに泉の方を指し示されてそちらに目を向けると、泉の前で生魚にかぶり付くグレーの短髪にアクアな青眼のぽっちゃり青年が居た。
「…………」
――それはビスケットでもクッキーでもないけど、それでいいのか? 妖精……。
猫型ならともかく、何で人型になってから魚丸かじりしたんだろうか。ちょっと絵ヅラがキツいんですが。何? 野生児キャンペーン? 新手のサバイバル伝道者? ……違うな、ただの食いしん坊か。
「あ! それで? 何か話あった?」
何か用事がありそうだったので、ナツメさんの方を向いて聞いた。
「にゃ! 吾輩たちは、暫くここをはにゃれる。暫くと言っても、1日2日の事だ。一応、言っておこうと思ってにゃ」
「そうなんですね。分かりました」
「小さな子たちは、変わらずここに出入りするでしょうが、幼い子たちも多いですから。何か困った事があったら、この子たちに言ってください」
そう言ってソウさんが紹介してくれたのは、緑眼の茶トラ猫と、青眼のシャム猫だった。
「よろしくにゃん!」
「僕等はずっとこの辺にいるからにゃ~」
わ! 家猫サイズの喋る猫……妖精……かわいい。
「よろしくね!」
2匹……2人は、片手を挙げて挨拶するようにしてから、ホーム結界前の〈ゴロニャンエリア〉でゴロゴロし出した。
かわいい……。いや、デッカイ猫妖精たちもかわいいよ? でも、通常家猫サイズの子を見ると、ちょっと安心する。
「じゃあ、吾輩達は行ってくるにゃ」
「あ、はい! いってらっしゃい!」
「では」
「みゃ!」
3匹……3人は、手をふりふり見送る私の前で片手を挙げて挨拶するようにして、目の前から忽然と姿を消した。
「なっ!」
え? まさか転移!? え~! できんの!? 転移! 私も頑張ればできる? 転移……転移……頑張れば……でき……でき…………うん、出来ないな。
「か~! うらやま~!」
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リリアンヌがギリギリと転移を羨ましがっている頃――
「リリアンヌは、まだまだ敬語混じりですねぇ……」
「まぁ、その内にゃれるであろ。それより……」
ティングレー山脈の南側、魔法国家マギリアとロンダン帝国の国境付近の山間にて、怪しげな集団が魔法陣を敷き魔獣の死骸を山と積む集団を、離れた場所から観察する人影が3つ……。
「みゃ……ロンダンの奴らか?」
「にゃ、一見するとそう見えるが、違うだろうにゃ」
「では、やはりマギリアの者でしょうか?」
「可能性は高いとは思うが……」
「それ以外の者も絡んでいると?」
「にゃんとも言えにゃいにゃ」
「リリアンヌは関係あると思います?」
「それはにゃいにゃ。確かにリリアンヌは『来訪者』のようだが、誰ぞに喚ばれた訳ではにゃいだろう。大体……見よ! アレらが、リリアンヌを喚べたと思うか?」
「…………」
「無理でしょうね……」
「奴ら、アレで勇者や聖女を召喚できると思っているらしいにゃ」
「アレでは、そこらの魔物すら喚べないでしょうね。蹴散らしますか?」
「にゃ! わざわざ、あ奴らにも見えるように変化してやったのだ。派手ににゃ!」
「みゃ……でも、あいつ等、変な勘違いしないか?」
「変にゃ勘違い?」
「みゃ、あいつ等が我らを召喚出来た……とか」
「…………」
「…………」
「何だか、あり得なさそうで、あり得そうな気がしてきました」
「吾輩もだにゃ……」
3つの影は遠い目をしながら目配せし合い、再考する。
「にゃら、元の姿に戻るか?」
「それはそれで、目に見えないナニカを召喚出来たとか言い出さないか?」
「…………」
「…………」
「もういっそ、全員眠らせてしまっては?」
「それがいいにゃ……」
「みゃ……」
「せっかく人型ににゃったのに意味にゃかったにゃ」
「仕方ありません」
「みゃ、行くぞ!」
――斯くして、魔獣の死骸を山と積み、魔法陣を囲んでいた怪しげな集団は、予期する間もなく全員が深い眠りに就き……その後、とある場所で全身を拘束された状態で見つかったとか、見つからなかったとか……。
~デカ猫組のイメージモデル~
◆ナツメ:メインクーン
◆ソウ:ノルウェージャンフォレストキャット
◆セキ:ブリティッシュショートヘア