◇29・困った娘/side:サイラス
私の名は、サイラス・ベルツナー。
シフ王国にて、伯爵位を与るベルツナー家の次期当主だ。現当主の父は、私達家族が帰領するのと入れ替わるように出かけたらしい。
昨日の朝に、使用人棟の食料が消えただの、盗人が入っただの、少々騒がしい事が起こり、その対応だって私がしたのだ。いっそのこと、さっさと当主の座を譲ってくれればいいものを……。
今回はデイジーを連れての初めての帰領なのだ。デイジーを父達に紹介する予定だったのだが。
デイジーを引き取った事は、父達にはまだ伝えていない。……というのも、父がデイジーの父であるジュードを毛嫌いしているからだ。
元々、ジュードはポート子爵家の長男で、私の妹シャノンの婚約者でもあった。
ジュードはシャノンと婚姻する事なく、市井の恋人の下に行ってしまったが、私はそれでジュードとの友人関係を壊すつもりはなかった。
だが、両親と妹はジュードを毛嫌いしている。確かに、シャノンとの婚約を何も言わずに反故にした事は、私も少し思う所はあったが、貴族である事を捨ててまで、愛する人を選んだのだ。その気概を認めてやれば良いものを……。
とにかくそんな訳で、ジュードの娘であるデイジーを私が引き取った事は、両親や妹にはまだ話していないが、既に引き取った後だ。今更、両親を亡くした幼気な少女を『追い出せ』などと言えないだろうし、デイジーには何の罪もないのだ。
それにあんなに可愛く、愛らしい。父達も、デイジーに会えばすぐに絆されるに決まってる。
デイジーの事はいいとして、今一番困っているのは、私の実の娘、リリアンヌの事だ。リリアンヌは、私が「仲良くするように」と言ったにもかかわらず、デイジーを虐めていると言う。
デイジーが来るまでは、優しく可愛い娘だと思っていたのに。どうして私の大切な友の娘であるデイジーに優しく出来ないのか。リリアンヌに問い質してみても「そんな事していません」「デイジーの嘘です」とばかり言う。
デイジーが「リリアンヌに虐められている」という嘘など吐いたところで、何の意味もないのだから、そんな嘘をわざわざ吐くハズもないと言うのに。
全く困ったものだ……。実の娘だからと、甘やかし過ぎたのだろうか。どうしてあんな娘になってしまったのか……。
嗚呼……本当に困った娘だ。