◆25・まさかの事実判明?
思えば最初から、お猫様その1は「な」が言えてなかったのだ。お猫様その2はやたら流暢だったのに……。お猫様その1はずっと「な」が「にゃ」になってたのに、ギラギラ顔面圧に押されて、そこまで考える間もなく答えてしまった。別に『ソウセキ』の方でも良かったのだ。
まぁ、名前なんて、自分で言うより人から呼ばれる方が圧倒的に多いのだ。自分で言えなくても、呼ぶ方が言えていれば問題ない。人から呼ばれるにはまず自分で名乗ることが前提だということに全力で気付かなかったことにしよう。
だって、目の前で全力で浮かれ騒いでる『お猫様その1』改め『ナツメ』さんにはとても言えそうにない。「ご自分の名前、噛んでますよ」なんて……。遠い目をしながら、少々の罪悪感を覚えていると、突然、顔の横から生暖かい風が吹いてきた。
「リリアンヌ、私にも名を……」
その言葉と共に、顔のすぐ横、肩上からお猫様その2の顔面が出てきた。
「ひぃっ!」
寝てたんじゃなかったの!?
「リリアンヌ、私にも名を!」
何で2回言うの。その圧ヤメテ。
「あぁ、ついでに上で寝ている大きな灰猫にも付けてやってください」
…………。サラッと増やさないで……。
「…………。じゃあ……ソウと、セキ……で」
「ふむ……。では私が『ソウ』の名を貰いましょう。セキには後で私から伝えておきます」
「はい……」
…………。やべ……やっちゃった……。
ま、まぁ、元日本人でもない限り、変に思わないだろう。それに『ナツメ』も『ソウ』も『セキ』もカッコいいよ! ただ、ちょっと続けて読むと「お前、絶対あの小説から連想しただろ……」って、呆れた目をされかねないだけで。
ここは異世界! 大丈夫さ! そもそも、続けて言わなきゃいいだけさ!
あれ? そういえば『セキ』さんはオスなんだろうか? ナツメさんとソウさんは、声が男だったのでそうだと思って付けちゃったけど……いや、そもそも『妖精』なら性別とかないのかな? ソウさん、またサッサと寝ちゃったし、もういいや……。
ご飯の用意でもしようかな。一応、ナツメさんに声を掛けて戻ることにする。
「ナツメさん、私、ご飯作りに、あっちに戻りますね」
「にゃ! 吾輩はここでゴロゴロしているから、好きにするといい」
「はい。……そういえば、ナツメさんはご飯とか食べないんですか?」
「にゃ、吾輩達は食べにゃくても問題にゃい。……が、嗜好品として食べる事はあるにゃ。特に、ビスケットやクッキーは好きにゃ方だにゃ」
「ビスケットとクッキー……」
「うむ、後はミルクも好きだにゃ」
「そうなんですね……」
「それより、リリアンヌ!吾輩の事はニャツメさんではなく、ニャツメと呼ぶがいい」
「え……すぐには無理そうなんで、その内に……」
「ぬぅ……まぁ、いい」
そう言ってナツメさんがゴロゴロし出したので、私はホームの方に戻る。
……ていうか! 交換ショップさん!? お菓子が『ビスケット』と『クッキー』しか無かったのは、まさかケット・シー用ですかっ!
何だか釈然としない気持ちを抱え、ホームに戻ってご飯の用意をする。最初は、ホームの外で〈交換ショップ〉を開いて、パンでも出そうと思ってたんだけど、今はナツメさんたちがいるからね。ナツメさんたちになら見られても問題はなさそうだけど、かと言ってわざわざ見せるモノでもないしね。
ホームの中で、食パン・卵・ベーコン・バター・うま味調味料を交換し、再び外に出る。
外に作った火おこし台に火を入れ、台の半分を〈土魔法〉で少し高くする。トースターがないので、火の届かない位置に網を載せて、その上でパンを軽く炙るように温めるつもりだ。パンはまだ載せない。
火おこし台の残り半分は、フライパンを載せて落ちないようにする。昨日は網の上に載せて使ってたけど〈土魔法〉でイジれるんだから、台の方を調整すれば良かったのだ。え? 魔道コンロ? それはホームの中で使います。
お次は、調理器具と材料を調理台の上に出す。食パン1枚を、まな板の上に載せて斜めにカットする。焼く前に切っておくと形が崩れないのだ。パン切り包丁がないので、包丁で切る。
お次は、キャベツとベーコンを細切りにする。食パン半切れに載せるくらいの量だ、そんなに要らない。割合はお好みだけど、今回はキャベツ4:ベーコン1くらいだ。キャベツにちょっとベーコンが混ざるくらいだ。次は、ボウルに卵1個を割って、ハーブソルトとうま味調味料を少々を振り、溶き卵にする。
これで下準備は完了。
切った食パンを、火おこし台の網の上に載せる。パンを炙り温めている間に、火おこし台にフライパンを載せ、熱が入ったら軽く油をひいて、キャベツとベーコンを投入し、塩胡椒とうま味調味料を振って炒める。うま味調味料振っとけば、大体美味しい。完璧だ。キャベーコンに火が通ったら、お皿に上げて置いておく。
フライパンを魔法で洗って乾かしたら、再度火にかける。フライパンに熱が入ったら、バターを入れ溶かし、溶き卵を入れる。溶き卵が固まる前に素早く混ぜ混ぜして、スクランブルエッグを作る。
出来た具材を、バターを塗ったトーストの上にそれぞれ載せたら完成である!
コップにお水を入れて、早速いただくことにする。
「いただきま~す!」
相変わらず、頭上には大量の猫……もとい猫型妖精がゴロニャンゴロニャンしているが、気にしない。気にしてはいけない。
――あぁ、今度『ビスケット』と『クッキー』あげてみようかな。