◆18・それはウサギであってウサギでない
『テノン国・ティントルの森』の浅層部分上空をウロつきながら、森の近くに村っぽいモノがある場所は避けつつ、降りる場所を探す。
しばらく探すと、森の木が少し疎らになっている所があった。あの辺にしようと、すすす~っと降下して、魔物チェック・獣チェックをしようと……するまでもなく、いたわ! ウサギ! 草に半分埋もれてるけど、形は間違いなくウサギ! ちょっと額から角生えてるけど、それ以外はウサギ!
え~? 角あるって事は魔物? 何かのんびり、モッシャモッシャ、モッチャモッチャして逃げる気配ないけど、〈認識阻害〉効果なんだろうか。だとしたら、ずっとかけとこうかな。
魔力の心配は全くない。だってさぁ、【大魔法師】の称号持ってたミルマン兄さんでさえ【MP/9,600】だったのよ? リリたんの36万て何なの? 何特典? ……え? まさか36歳だったからとかじゃないよね? 違うか……、36万歳だった訳じゃないしね。それより、今はウサギだよ! ウサギ! 角ウサギ!
――距離を取りつつ、間違っても『ウサたん顔』ではないウサギを〈鑑定〉してみる。
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◆ホーンラビット◆
兎型一角魔獣。脚力が強く、とっても速い。美味。
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うん、相変わらず一口メモなのに、味覚情報は入れてくるんだね。まぁ、食べられるかどうか判るのはいいけど。
それにしても、食べられるならイっちゃう? 一狩りイっちゃう? アイテムボックスの《解体》も試したいし。モシャモシャしてる所で悪いけども……。山とか森で暮らすなら、狩りは出来た方がいいよね。なんて言いながら、二の足を踏む。
よ…よし! いくぞ! と意気込んだものの……え? あれ? どうやってイく? と攻撃方法に迷い…少し前に見た『土槍ズドン』でイく事にした。よし! ……よし! ……よし! …………。
「えぇ~い! 女は度胸! この世は弱肉強食じゃぁ! 〈アース・ランス〉!」と、超ちっちゃい声でつぶやき、ホーンラビットの頭にグサッとズドンした。
――びえぇ~~~!
自分でやっといて何だけど、びえぇ~~~!――
「ひ~! ウサさんごめんよ……南無南無!」と、冥福を祈りつつ、ご臨終ウサさんを〈アイテムボックス〉に回収しようとして近付いたらば……、明らかにウサさんのモノでない肉片が……。
「ひぃ~ぎゃぁぁぁ~~! 何やモッチャモッチャしとる思たら、ネズミ食うとったんかぁぁぁ~い!」
え? ウサギって肉食やった? え? 違うよなぁ? だって人参食べるもんなぁ? と、あまりの衝撃生映像に、思わず色黒少年と葉っぱなあの子が脳内会話し、このウサギが『魔獣』分類されてる『異世界の角生えウサギ』であることをうっかりド忘れして、しばらく一人でワタワタしてしまった。
――そうさ……。ここは異世界。弱肉強食な異世界……。
ちょっと遠い目になりながら、ウサさんを〈アイテムボックス〉に回収致しました。
え? 元ネズミさん?ちょっと触るの躊躇しちゃうくらいの、こう……ほとんど頭しか……こう……。土魔法で穴掘って、自然にお返ししました。
さて、『アイテムボックス検証』に移りたいと思います。あ、先に結界張ろう! 結界! と、またも3メートル四方の〈結界〉を張り、中に土魔法で床を作る。ついでに机と椅子(ただの四角い台)も作る。
椅子……というか「四角その2」に腰掛け、〈アイテムボックス〉を開く。解体検証の前に、蝋燭もっかい確認しとこう。飛んでる間に数時間は経ってるからねと、蝋燭を取り出してチェックする。
「うん、やっぱり変わってないよね?」
という訳で『アイテムボックスは時間停止式』と判明しました! パチパチ~!
「お次は《解体》をば……」
内容物一覧からホーンラビットを選び《解体》ボタンをポチっとな。《【ホーンラビット×1】を解体しますか?》の表示に【YES】を選択した結果、ホーンラビットは「血・肉・内臓・歯・骨・角・毛皮・魔石」の状態に《解体》されました。
うん、一瞬で終わったな。血も分けてくれるなら、血抜きしなくても大丈夫かな。それより、「魔石」があるんですけど~!
魔道具とかに魔石が使われてるのは知ってたけど、リリアンヌはちゃんと見たことないんだよね~! 魔石という『ファンタジー素材』にちょっぴり浮かれながら、魔石を取り出してみる。
「おお……!」
取り出した魔石は小さいモノで、想像してた「まん丸型」ではなかったけど、透き通った黄色のキラキラした結晶石っぽいモノである。形は側面が6面で両端が尖ったようなヤツで、「結晶」と聞いたらこの形を想像する人も多いかも。大きさは2センチくらいでホントにちっさいけど、やっぱり魔物によって大きさは違うのかな?
魔石はナイナイして「歯・角・毛皮」も見てみることにした。
歯はもう、『歯』っていうか『牙っ!』って感じなんですけど? なんて凶器を口に仕込んでおるんだ……。異世界ウサギ、恐るべし!
角はもう、見るからに『凶器』である。刺さったら穴空いちゃうよ? なんてモノを額に生やしておるんだ……。異世界ウサギ、恐るべし!
毛皮は、普通に『毛皮』でした――。