◆17・空飛ぶ幼女は見られてる?
私がニック・マッチョーリさんに気を取られている内に、残りのボアも斃されていた。最初にボアをズバッとした大剣の人が、最後のボアもズバッたようだ。
『結局4人だけでボアを3頭斃してしまったな』とか『あのボアって強いのか?』とか色々、気になることはある。
だけど、『マッチョーリさんに姓があるって事は貴族なんだろうか……』とか『髪も目もお肉色だな……』とか、マッチョーリさんで頭がイッパイな私は、そのインパクトを少し薄めようと、マッチョーリさんの隣にいた白ローブのお兄さんを〈鑑定〉してみた。
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◆スチュアート・ミルマン(24)◆
【称号】大魔法師
【MP】9,300/9,600
【スキル】解読・魔法効果(大)・槍術・俊敏
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――うわっ!
確かにマッチョーリさんのインパクトは薄れた……どころか吹っ飛んだ!
え? え? この人【称号】とかあるんですけど!
スキルも4つある……と内心でキャーキャー騒いでたら、突然、白ローブのミルマンお兄さんが『ギュルンッ!』と音がしそうな勢いで、こちらを見た!
「……っ!!!!!」
あまりの勢いと出来事に、思わず悲鳴を上げかけたけど、ちょっと声が漏れたくらいでは絶対に聞こえない距離である。
何でいきなり……え? 見えてる?
え? でも上でウロウロしてても誰も気付いてなかったみたいだし、今もこっちを見ているのはミルマン兄さんだけだ。それにミルマン兄さんはこっちを見てるだけで、何か言ってくる訳でもない……けど、がっつり目は合ってしまっている。
ちょっと……いや、大分、焦りと動揺を覚えながら、ミルマン兄さんの視線から外れようと、そぉ~っと横にズレた。
ミルマン兄さんは変わらず、さっき私がいた所を見ているままだ。
「気のせいか……」とホッとした瞬間、またもやミルマン兄さんが『ギュルンッ!』ってこっちを向いた!
――ヤバいっ! これ絶対気付かれてる。
多分、見えてはいないんだと思う。でもなにかしらを感知されてるのかもしれない。そうだよ! この人【大魔法師】の称号持ちなんだよ!
別に悪い事をしてる訳じゃない……いや、勝手に鑑定しちゃったのはマズかったかな? でもちょっと観戦してただけで、こんなに焦る必要はないかもしれないけど。
何となく気まずくなって、私はその場からバビュンと逃げ出した――。
――「ふぃ~っ。焦った、焦った……」と、冷や汗を拭うフリをしながら、私は再び飛び進み始める。
それにしても、ミルマン兄さんはイケメンだった。金髪ロングヘアーがとってもお似合いの中性的な美人系お兄さんで、『エルフです』とか言われても『そうなんですね』と思わず納得してしまう感じだった。まぁ、多分普通に、人間さんだと思うけど。
え? あんなに夢中だったマッチョーリさんどうしたって? うん、あの人はね、見るとなぜか無性にお肉か唐揚げが食べたくなるお顔で、『好物は骨付き肉と鳥の丸焼きです』とか言われても『そうでしょうね』と思わず納得しか出来ない感じだった。多分、実際の好物もそう外してないと思うけど。
――それより、国境まで後少しだ。既に日が昇り始めているけど、ミルマン兄さんでもない限り、私の〈認識阻害魔法〉は有効だと判ったので、隣国に入るまで止まらず一気に行こうと思います。
既にティングレー山脈の端っこは見えているのだ。テノンは国土が狭いので、隣のカレッタ国には遅くても明日には入れるんじゃないだろうか。でもテノンに入ったら、少し休憩したいかな。起きたのが夜中だったから仕方なかったけど、夜更かししちゃったしね。どこかで朝ご飯食べて、ひと眠りしたいなぁ。
日が昇って少しした頃、私は隣国『テノン』に突入した。え? 不法入国? それは言っちゃダメ! しーっ!
目的地は『カレッタ国内』のティングレー山脈かティントルの森なんだけど、テノンにも山脈と森は繋がっている。今は『テノン国内』のティントルの森の浅層部分の上空を飛行中で、そろそろちょっと降りてみようかと思います!
――それにしても、とうとう隣国に入りましたよ! さらば、シフ!
ベルツナー家の面々は、私がいなくなってることにいつ気付くのか。使用人棟のアレコレが消えたことに気付いても、私が消えたことにはしばらく気付かないと思うんだよね。気付いたところで悲しむこともないだろうし、探したりもしないんじゃないかな。まぁ、どうでもいいね。




