◆160・なぜか聞こえるぽぉ~
「なっ…………」
「これは……」
「わぁ~……」
邸の一部がごっそりキレイに消失したゾルジ邸を見て、ロイド様は絶句した。
ロイド様の両隣でハインリヒさんとブラッドリーさんが、虚空を見つめだす。
「~~~っ!」
消えた部分を指差しながら、こちらに何かを訴えるかのような顔をするロイド様。
――え? ナンデスカ?
ちゃんと言ってくれないと、全然分かりませんよ~。
「間がないにゃ~」
「スパッとないにゃんね~」
打って変わって、のほほんとゾルジ邸を見物するロックくんとトラさん。
猫妖精が悶絶するほどの臭い魔力臭は消えているらしいので、余裕の面持ちである。
ルー兄はロックくんを、雪丸さんはトラさんを抱っこ中だ。
そこだけ見れば、とても平和――。
ゾルジ邸が一部消失してしまったあと、私はとりあえず、ロイド様に〈文球〉を飛ばした。
内容はまぁ……、「ちょっと、いろいろありました! てへっ☆」的なものである。
すると、ゾルジ邸の周辺調査をしていたロイド様たちは、割と近い所にいたらしく、ゾルジ邸にやってきたのだ。
「リリアンヌ! ど、どういうことだ!? ちょっと調査をするだけではなかったのか!? それがなぜ、こうなる!」
「やったのは、私じゃありません」
「君じゃなければ、誰がしたって言うんだ!?」
「え? …………あの人がやりました!」
私は思わず、戦隊ものの変身ポーズのような体勢で、ナツメさんをもふもふしているアルバス様に手を向けた。
指を差してはいけないと思って、反射的に取った体勢がコレだったので許してほしい。
「……レイ殿?」
「ソレハ、ドウカナ~?」
「は?」
一見、人型のレイに見れるけれど、残念!
中身は白竜様です! パンパカパーン! ドラゴ~ン!
ちなみにアルバス様は、未だにレイが作った結界の中だ。
レイの身体に入っているので問題はないはずだけれど、念のために魔素の原液のような魔力が周りに漏れないようしているらしい。
「リリアンヌ?」
――嗚呼、ロイド様が『説明しろ!』と、顔面で訴えてくる。
「あの人は、見た目はレイですが、中身はレイではない、d#@△n……です」
「ん? 何だって?」
「d#@△nです」
「待ってくれ、何語だ?」
「あ~、とにかく! アレは、あの人がやりました!」
まぁ、人じゃなくて、お竜様だけど。
何にせよ、私だって結局よく分からないままだし、レイに説明をしてもらわねば!
アルバス様は、あのゾルジって人と、デイジーの中身を捕えたって言っていたけれど、あの二人が何者だったかも分からない。
それに、ゾルジ邸にいた人は今も拘束して眠らせたままだし。
「あの……、レイ殿?」
「《我はレイではないぞ。そうだな、人は我を『白竜』と呼ぶ》」
「……………………ん?」
――あ、固まった。
レイを呼んで、ロイド様たちにも説明してもらおうとしたのだけれど、中身は未だアルバス様のままである。
なので、私たちの方から結界内にいるアルバス様の方へと向かったのだけれど、アルバス様の自己申告により、ロイド様が石化した。
しばしの時をおいて再起動したロイド様に、事の経緯を軽く説明する。
だけど、私がゾルジ邸の屋根上に移動させられてからのことは分からないので、その辺のことはアルバス様に聞いてほしい。
という訳で、アルバス様に話を聞いたところ……。
見過ごせない所業を働く人間を捕えた。
見過ごせないものがあったので、消した。……だそうで。
「では、この邸の一部がないのは……」
「《うむ、我がやった!》」
――胸を張って言わないでほしい。
「…………そう……ですか……」
そうだよね、そう言うしかないよね。
お竜様がやってしまったことに、ケチをつけられる人間などいようか?
いや、いない。
いたとしても、視界にも入らないか、埃のように叩かれるかのどちらかさ。
しかも、叩かれたら消滅する可能性、有り。
デンジャラス オブ デンジャラスだ。
そもそも今回は、人間側が非のある行動をしていたからで……。
「《ちょっと、間違えてしまってな》」
「ん?」
「間違えた……ですか……?」
「《うむ》」
うむ、て……。
どうやらアルバス様、消したいものを『ちょい』と消そうと思っただけなのに、結界内のものを丸ごと消したしまったらしい。
要するに、加減を間違えたと――?
「そう……ですか……」
うん、そうだよね。やっぱり、そう言うしかないよね。どんまい。
結局、アルバス様は何の説明にもなっていないことしか言ってくれなかった。
そろそろ、レイに説明してほしいところである。何も分からん。
という訳で、渋るアルバス様にお願いして、レイに代わってもらった。
レイの説明によると、ゾルジ家の当主ダミアーノ・ゾルジと、デイジーの中身が別人であり、この世界においては許されない方法で中身を入れ替えていたと思われるため、白竜であるアルバス様によって制裁が下された……と。
中身の人物はアルバス様が捕え、竜族によって処罰を下されることになっているらしい。
デイジーの中身は、恐らく、『ウルヒナ・ゾルジ』と名乗っていた女性であろうとのこと。
デイジーの身体がウルヒナ・ゾルジに使われ、デイジーの中身は別の場所にあったのだとか。
本来の身体から長く離れた状態になっていたデイジーは、元の身体には戻せなかったらしい。
「じゃあ、デイジーは……」
「うん、この世界にはもういない」
「…………そうなんだ……」
デイジーのことは好きではなかったけれど、死を望んでいた訳ではない。
すでにいろいろやらかしてしまっていたけれど、それは周りの環境が良くなかったこともあるだろう。
自分が望むままに人を動かせてしまうスキルがあったことも、悪い方に影響したのかもしれない。
積極的に自分から捕まえに行こうと思っていた訳ではないけれど、もしも見つけたら、捕まえて、ちゃんと謝ってもらおうと……思っ……てたのに……なぁ……。
「(デイジーは、別の世界に転生させるんだって)」
「――っ!?」
デイジーは全ての記憶が消えた状態から、新たな人生を歩むことになるらしい。
転生できると言っても、この世界では死んだことになるので、『転生できるなら良かったね』とは言い辛い、複雑な気持ちだ。
だけど、新たな人生をちゃんと生きてほしいとも思う。
レイが私にだけ、こっそりとデイジーのことを話してくれたのは、『転生』云々のことをロイド様たちに知られないようにするためだろう。
ゾルジって人や、ウルヒナって人の中身も転生者っぽかったけれど、それを伏せているのも、アルバス様の説明が曖昧だったのも、人間には聞かせてはいけないことがあったからなのかもしれない。
アルバス様は「間違えた」と言っていたけれど、もしかしたら、わざと『間違えて』消したのかも?
あの場には、謎の魔法陣とかもあったしね……。
「………………」
――触らぬ神に祟りなし、聞かぬ竜に消滅なし……である。
この世界には、人間が知ってはいけないことがあるのかもしれない。
余計なことは聞くまいて……。
その時だ――。
《ぽぉ~…………》
《ぽぉ~…………》
《ぽぉ~…………》
――ん?
どこからともなく、聞いたことがあるような、ないような?
いや、聞いたことはあるけれど、空耳だと思いたいかもしれない、そんなウィスパーボイスがこだまする。
《ぽぉ~…………》
《ぽぉ~…………》
《ぽぉ~…………》
――うん、聞き間違いでも、空耳でもなかった。
金色の葉をユラユラゆらりんちょさせながら、私たちの目の前を横切っていくポニワが一体、二体、三体……、以下、略――。
「――なっ!? これは、金竜様の使徒!?」
ぞくぞくと現れた金ポニワ隊を見たロイド様が、驚きながら声をあげた。
金ポニワを『金竜様の使徒』呼びするのは、ちょっとやめてほしい。
まぁ、確かに? 金竜様に遣わされたと言えばそうなんだけどさ……。
金ポニワは『使徒』というより、猫妖精たちの代わりに人工魔石やそれを所持する人を見つけて拘束する、『お手伝いさん』なのだ。
そんな金ポニワたちが、続々とゾルジ邸へと入っていく。
皇都で金ポニワ隊の放流許可を取ってから、まだ数時間くらいしか経っていないと思うのだけど……。
金竜様の所から、もうこんな所にまで来たの?
そんなことを思いながら、スタタタ進む金ポニワ隊を見送った――。




