◆158・ゲリラ☆ドラゴン
天井から覗いた部屋は何かの作業部屋のような所で、本や資料がたくさん見える。
その部屋の中にいたのは、デイジーだった。
それと、黒髪の男性。見た感じ三十歳……くらい?
それから、簡易ベッドらしき台の上に、赤髪の女性……少女?
眠っているようなので何とも言えないけれど、十代だろうか?
他に人影は見当たらない。
どうやら、居丈高に怒声を上げていたのはデイジーだったらしい。
てか、まさか、こんなにあっさりデイジーが見つかるとは。
それにしても……。デイジーが、何だかちょっと変……?
デイジーは、リリたんと二人の時はともかく、大人の前では随分な猫かぶりっ子だったのだ。
本性がアレだとしても、大人に向かってああいう態度は見せないと思ってたんだけど……。
まぁ、とりあえず、元気そうではある。
「(ねぇ、あれ、デイジーだよ)」
「(え? そうなの?)」
「(うん。あの男の人、誰かな?)」
「(あ、あれ、多分ゾルジ家の当主)」
「(そうなの?)」
――う~ん、てか、どうしよう。
デイジーがゾルジ家の当主に誘拐されたとかなら、どっちも捕まえていいと思うんだけど。
デイジーとあの男の人との関係性が分からないんだよね。
デイジーのあの上から目線な態度は、あの当主さんとやらが誘拐犯だから?
でも、デイジーは拘束されたりしている訳でもなく、普通に自由に動いている。
誘拐じゃない? まぁ、捕まえてから聞けばいい……か……?
いや、その前に、結界があるんだった……。
デイジーとゾルジ家の当主は、結界の向こう側にいるのである。
これでは、捕まえようにも捕まえられない状態だ。
「アタシはガキの身体は嫌だって言ったでしょ! これじゃあ、計画が台無しじゃない!」
「……計画?」
「王子を落とす計画よ! あのいけ好かないアリーチェ・ビアンケットから、エミリオを盗ってやるって言ったでしょ!」
――は?
王子? アリーチェ・ビアンケット? エミリオ?
もしかして、この前会ったアリーチェ嬢のこと?
王子ってエミリオ大公子殿下のこと?
何でデイジーがあの二人を知って……いや、そもそも、『王子を落とす』とか、『エミリオを盗ってやる』とか、何を言って……。
「はぁ……。相変わらず、貴女……いや、お前は頭沸いてんな」
「はぁ?」
――ん?
瞬間、デイジーと黒髪の男の人がいる部屋から、目が眩むような光が溢れた。
「「「(――っ!?)」」」
「《にゃっ!?》」
眩む目を窄めながら、部屋の中の様子を窺う。
すると、部屋の床に魔法陣が現れ、その中央にデイジーがいた。
デイジーは、いつの間にやら魔法陣の上に転がされている。
拘束されている訳でもないのに、魔法陣に吸い寄せられているかのように、床に張り付いていた。
「ちょっと! 何よこれ!」
「うるさい」
――どどどど、どうすんべ? どうすんべ?
助ける? 突っ込む?
――《ゴチッ》
あ、ダメだた。あいたた。
「まったく! やっとだ、やっと! お前が身体を失くすなんてヘマしなきゃ、俺はとっくの昔に元の世界に帰れてたんだよ!」
「はぁ? 元の世界って……何よ……」
「五十年もかけて準備したっていうのに、なぜか召喚位置がズレて、やっとの思いでお前を見つければ、身体を失くしてたとか、マジで最悪だったわ。お前の魂に完全適合する身体の持ち主を探すのに、更に二百年もかかった上に、お前を逃がさないために、お前のワガママに付き合い続けてやったんだ。マジで感謝してほしいぜ」
「は?」
――何だ、何だ? 何だか急展開な予感である。
というか、黒髪のゾルジさん(?)の発言が、逐一引っ掛かるのですが?
「俺が元の世界に戻るには、完全な異世界人を生贄しなきゃいけないんだよ! ああ、言っとくけど、お前が『完全な人間』って意味じゃねぇから。お前はすぐ勘違いするからな。そもそも……、そうだ! そもそも、お前が俺の前に現れさえしなきゃ、俺の人生が狂うこともなかったんだよ! 全部、お前のせいだ、菊川雛!」
「何……、訳分かんないこと言ってんのよ……」
――いや、ホントにな!
てか、今、『キクカワヒナ』って言った? 和名?
何か、聞き覚えあるような……ないような……?
他にもいろいろとツッコミどころが満載過ぎて、どこからツッコめばいいのやら。
話の内容的に、デイジーはデイジーじゃない?
もしかして、私みたいな転生者だったとか?
「お前が! お前が俺と花の仲を壊したんだろうがっ!」
――ん?
「はな?」
あ、やっぱり、あの人、『はな』って言った?
まぁ、偶然にも私の前世名が『花』だったから、ちょっと反応しちゃったけど……。
もしかして、あのゾルジさんも転生者なの? しかも、日本人?
てことは、ゾルジさんとデイジーの中身が、元日本人の転生者で知り合いだったとか、そういう話? それは妄想し過ぎ?
「(…………)」
「(……レイ様?)」
「《にゃ?》」
「(レイ?)」
いろいろな思考が脳内を駆け巡っていたけれど、何だか急にピリピリし始めたレイを見遣った。
どうし……――っ!?
――ん? あれっ?
周りの景色が瞬間的に変化したことに驚く。
そして次の瞬間、晴れ渡る青空よりも眩しいレイのご尊顔が目に入り、更に驚いた。
「(――ちょえ!?)」
――ちょっとぉ~! 何故、人型に戻っておられる~?
ワタワタしつつも辺りを見回せば、私はレイに抱えられた状態で、ゾルジ邸の屋根の上にいることに気が付いた。
まぁ、外にいることは分かっていたんだけれど、何故にレイが人型に戻り、何故にここにいるのか謎のままである。
「ん? この姿じゃないと転移できなかったからね」
「まだ、デイジーたちを覗いている最中だったのに?」
「そうだね、でも下の様子はナツメが見ているからいいんだ」
「うん?」
「リリアンヌは、しばらくここでジッとしててね?」
「あ、はい……」
レイに軽く笑顔で圧を掛けられた私は、レイに言われたとおり、屋根の上でしばし待機することにした。
私が待機モードになったことを確認したレイは、何やら結界らしきものを展開。
何だろ~とぼんやり見ていれば、突然、レイの顔付きが変わった。
先ほどまでは、キレイなお姉……お兄さんだったレイが、凛々しい強面お兄さんっぽくなっている。
「へ?」
「《ふむ……、リリアンヌ、息災なようだな》」
「ふぁえ?」
パッと見はレイだけど、やっぱりレイじゃない……?
「《……分かっておる。リリアンヌ、あとでな》」
「???」
そう言ったレイは次の瞬間には姿を消し、入れ替わるようにしてルー兄が現れた。
ゾルジ邸の屋根の上には、疑問符を浮かべまくった私とルー兄が二人。
二人で首を傾げならも、レイにジッとしているように言われたことだし……と、ここで大人しく待つことにする。
そうして、しばらく待っていると、屋根の下……というか、ゾルジ邸が軋むような音がしだした。
――何か、ミシミシ、パラパラ言ってません?
「な、何だろ……」
「移動しようか」
「あ……、じゃあ……」
空中に〈結界〉を張り、その中に土魔法で作った床を作って、そこに移動することにした。
土の床は、心理的負荷を削減するため……。
――うん、普通に下が見えるのが怖かっただけだ。ただの目隠しである。
そんなこんなで、某アニメエンディグのミョンミョンする家を思い浮かべながら、ルー兄と結界内で待つこと数分……。
ゾルジ邸の屋根の上にナツメさんが出てきて、私とルー兄がいる結界の上へと飛び乗ってきた。
「あ、ナツメs……」
――《シュワッ》
「ん?」
ナツメさんに声を掛けようとしたところで、何だか耳慣れない変な音がした。
ふと、ゾルジ邸を見遣れば、ゾルジ邸の一部が消えていた――。
「ふぁ?!」
ポッカリと空いた空間の上には、レイが一人。
一体、何事か!? と思っていれば、レイがこちらを見遣り、手招きをしてくる。
呼ばれたらしいので、浮遊してレイの所にまで飛んでいった。
「レレレレ、レイさん!?」
「《ん? ああ、我はアルバスだぞ》」
「んんんんん~?」
――アルバス様? え? アルバス様?
パッと見はレイだけど、何だか違って見えたのはそのせい?
レイの身体の中にアルバス様がいるってこと?
ちょっと混乱している間に、レイ……な見た目のアルバス様に、頭をわしゃわしゃ、わしゃわしゃと撫で(?)られていた。
リリたん、髪の毛、ぐっちゃぐちゃ――。
「………………」
「《…………む? 早く帰れ? 我を呼んだのはお前であろうが……。結界が壊れる? お前の身体を使っているのだから問題あるまい》」
「……あの~?」
「《ああ、レイが少々うるさいのだ。早く来いと言ったり、早く帰れと言ったり……、忙しない奴よの》」
「はぁ……。ところで……」
そう言いながら、消えたゾルジ邸の一部を見遣る。
どうやら、消えたのは、レイが張った結界の内側だけのようだけど……。
デイジーとゾルジさんは?
「《ああ、中身は捕えたから問題ない。入っていた人の器は消えてしまったがな》」
それは生きてるの? 生霊的なものを捕えたってこと?
「《まぁ、リリアンヌは気にしなくてよい。人への説明もレイがするだろうて》」
「あ、はい……」
アルバス様が問題ないと言うなら、お任せ一択である。
それにしても……。
ちょっとゾルジ邸を見にきただけなのに、気が付けば『白竜降臨 のち ゾルジ邸一部消失』とは、これ如何に。
この世界では、住宅街に竜が現れることもあるらしい。
この世の不思議に白目を剥きそうになっていると、ほっかむり姿のナツメさんが目に入った。
今更か――。




