◆152・女神☆降臨!
リリたん着せ替えショーがひと段落したところで、大公子様がクロと雪丸さんに挨拶を始めた。だが、『金竜様の使者・代表』はレイである。
そんなレイは、先ほどまで雪丸さんにくっついて、リリたん着せ替えショーを見ていた。
時々、雪丸さんに何かを言っている気配はあったけれど、ずっと小声で話していたようで、レイの声は聞こえなかった。
なもんで、大公子様やアリーチェ嬢は、レイがただの仔猫ではないことに気付いていないだろう。
本来であれば、王城で話をする予定であったらしいのだけど、現在は関係者しかいないこともあり、このままこの宿でロイド様と大公子様の話し合いが進められることになった。
先ほどまで着せ替えショーのために呼ばれていた服飾関係者たちは、すでに帰ったあとだ。
持ち込んだドレスやら何やらが大量購入されたことで、お店の人たちもニッコニコで帰っていった。
私の知らぬ間に購入されていたので、誰が買ったのか謎である。
一体、おいくら万円だったのか……。
「ドレス代は……」と聞こうとしたら、アリーチェ嬢に「リリアンヌちゃん、そんなこと聞いちゃいけませんわよ」と、とてもすごい笑顔で言われたので、私は大人しく沈黙を選んだ。
――リリアンヌ、デキる子。沈黙は金。
この世には、逆らってはいけない相手が存在する。
憤怒の形相で圧を掛ける人より、笑顔で圧を掛ける人の方が、総じて怖いものなのだ。
ソウさんとか、ソウさんとか、ソウさんとか。
見た目はふんわりふわふわなアリーチェ嬢も、『さすが、大公子様の婚約者』ということだろう。
それはさておき、ここからは真面目な話し合いの場だ。
大公子様側の人間は、アリーチェ嬢と護衛の二人を除いて退出させられている。
レイに頼まれて、この部屋の内側に結界を張った。
その後、私も部屋を出ようとしたら、クロが「あら? リリアンヌは残ればいいじゃない」と言ったことで、私はそのまま部屋に残ることになってしまったのだけど。
さすがに、アリーチェ嬢の膝上からは降ろしてもらったけれど、別室で屋台飯を食べていたはずの猫妖精たちがこの場へと戻って来て、私の周りを陣取った。
まぁ、やってきたナツメさんたちは、人型から獣人型へと戻っていたので、大公子様たちには見えていないだろう。
部屋に備え付けられていた対面式のソファの一方に大公子様とアリーチェ嬢が腰掛ける。
そのソファの後ろには、大公子様たちの護衛が二人。
そしてもう一方にはロイド様……と、少し離れて私が座っている。
私がロイド様と離れて座っているのは、私とロイド様の間に、トラさんとロックくんが座っているからだ。その反対側には、ナツメさんが座っている。
シロは私の足下で寝転び……うん、寝た。
クロと雪丸さん、そしてルー兄は、ソファの後ろ側に立っている。
『金竜様の使者』であるはずのクロと雪丸さんが座らず、立っていることに、大公子様は戸惑っていた。
しかし、クロと雪丸さんは、「話は別の方がされるので」と言った。
そのことに、さらに戸惑いの顔を見せる大公子様。
大公子様は、ロイド様の顔見て、「では、貴方が話すのか?」という顔した。
しかし、ロイド様はそれに顔を振り、しれっと私の膝上にやってきていたレイを見た。
「では、始めようか」
「「えっ⁉」」
「「――っ⁉」」
私の膝上にいたレイが発した言葉に、思わず驚きの声を上げた大公子様とアリーチェ嬢。
二人の後ろにいる護衛さんたちも、声は出さなかったけれど、驚きの表情でレイに視線を向けている。
しかし、大公子様たちが疑問の声を上げる前に、レイが事を進めた。
「ナツメ」
「にゃ? 全員か?」
「いや、大公子はメッセンジャーだから、それ以外」
「にゃ、分かった」
大公子様たちには、レイが独り言を言っているように見えただろう。
しかもその内容に、「大公子」という言葉があったものだから、大公子様側が身構え、護衛さんたちが剣に手を掛けた。
「ロイド殿! 一体、何が!」
「落ち着いてください。金竜様のお言葉を伝えるのに必要なことです」
「それは……」
戸惑う大公子様たちと、宥めようとするロイド様。
そんなやり取りを丸無視して、ナツメさんは、大公子様以外の三人、アリーチェ嬢と大公子様の護衛二人に魔法をかけた。
多分、というか十中八九、〈誓約魔法〉であろう。
ナツメさんが魔法をかけ終わった直後、大公子様たちが声を上げた。
「――なっ⁉」
「え? 猫……ちゃん?」
「――っ‼ 魔物かっ!」
「ん?」
「にゃ? 魔物?」
「魔物ではない! 剣から手を放してくれ」
「ロ、ロイド殿?」
「にゃ……、まさか、『魔物』とは吾輩たちのことではにゃかろうにゃ?」
「え……」
「喋っ……」
一瞬、『あれ? ナツメさんたちが見えてる?』と思ったけれど、そう言えば猫妖精たちは、自分の意思で妖精が見えない人にもその姿を見せることができるのだ、ということを思い出した。
ナツメさんが魔物に間違われるのは、もはやお約束だね。
「吾輩たちは、『妖精』である」
「え?」
「……妖精?」
「本来であれば、吾輩たちの姿を見せるつもりはにゃかったが、今回は特別だ」
「ロイド殿……」
「事実です。まずは、彼らのことから話しましょう」
そこからは、ずっと混乱中の大公子様たちに、猫妖精のことや、アルトゥ教教会で起こった捕縛劇に猫妖精たちが関わっていたことなどが話された。
妖精に詳しい(と思われている)ロンダン帝国の皇子による説明、そして、目の前に確かに存在する不思議生物(獣人型の喋る猫)が、大公子様たちに疑問の声を呑み込ませる。
猫妖精に関するあらかたの説明が済んだところで、金竜様からの言葉について話されることになった。
「その件については僕が話そう」
そんな言葉と共に、レイは私の膝上から飛び降り、人型へとその姿を変える。
「えっ⁉」
「なっ!」
「……女神様?」
「いいえ、きっと妖精女王様よ!」
「なんて美しい……」
レイを、女神や妖精女王だと思ってしまう気持ちはよく分かる。
しかし、それを言われたレイは不機嫌顔だ。それでも尚、美しい。
私も内心では『女神っぽい』と思っているけれど、空気を読んで口には出さないようにする。
「………………僕は男だし、神でも妖精でもないから」
「――っ! ……失礼しました」
「レイ殿?」
「何?」
ロイド様に呼びかけられたレイは、それに応えながらもソファに腰掛ける私を抱き上げ、空いた空間に腰掛けたかと思えば、そのまま私を膝上にonした。
「「「………………」」」
「レイ殿も妖精だと思っていたのですが……」
「似たようなものだから、気にしなくていいよ」
「似たようなもの?」
「僕のことはともかく、君たちに人ならざる者たちの姿を見せたのは、今回の話し合いの主題にも関係するからなんだけど、話を進めていいかい?」
「あ、はい」
そうしてレイは、金竜様の啓示についての話を始めた。
金竜様の言う『忌まわしき邪法』とは何か。
金竜様が下す『裁き』とはどんなのものなのか。
「ロイドは、アーメイア大陸から消えた『マドラス』のことは知っているだろう?」
「はい、『一夜にして滅んだ』という伝承がありますが……』
「うん、まぁ、『一夜』どころか、『一瞬』で吹っ飛んだんだけど」
「え?」
「とにかく、マドラスが消えた理由をザックリ説明すると、さっき話した邪法を使ったことで、竜族の怒りを買ったから……だね」
「そ……れは……」
「それは! 場合によっては、我が国……レギドールも、同じ末路を歩むことになると?」
「そうだねぇ……。レギドールだけで済めばいいけど、竜族の怒り具合では、パドラ大陸に存在する人と、人の創ったものは総て消えるかもしれないね」
「……人と、人の創ったもの……?」
「うん、だって、人以外の生物には何の罪もないからね」
「それは……」
「そうならないように、邪法を使った者や、それに関係した者を捕える猶予もあるし、助っ人も用意されているから」
レイの言う『助っ人』とは、例の金ポニワ隊のことであろうか?
人ではないし、見ため的にも、全然『助っ人』感はないけどね……。
私が金ポニワ隊の回想をしている間にも、レイによる話は進められていた。
レイの話を聞く人たちの顔色は、あまりよろしくはないようだ。
まぁ、『パドラ大陸滅亡の危機、但し人間に限る!』という内容なのだから、無理もないだろうけれど。
だけど、レイが言葉を濁すことなくそれらを話すのは、『死に物狂いで邪法に関与した者を探しだし、捕まえろ』ということなのだ。
今回の騒動に関しての話し合いがひと段落したあと、レイは話題を変えた。
「そう言えば……、前にロイドが話していた令嬢のことを聞きたいのだけど」
「令嬢……ですか?」
「そう、デイジーが関係しているかもしれないと言っていた令嬢のことだよ。この国の者であるなら、大公子やその婚約者に話を聞いた方がいいだろう?」
「ああ、確か……ゾルジ家の……」
「ゾルジ家……。もしや、あのウルヒナ嬢のことでしょうか?」
「ええ、そうです」
「ウル……ヒナ……?」
「レイ殿?」
「いや、話を進めてくれるかい?」
そうしてその後は、『ウルヒナ・ゾルジ』という令嬢の話を聞いた。
その令嬢がデイジーのスキルの影響下にあるか否かは分からないけれど、その令嬢の近くにいた猫妖精たちが、『臭いにゃ~!』と言って走り去ったのを、ロイド様が目撃している。
走り去ってしまった猫妖精たちがどこに行ったのかは分からないし、現時点ではその猫妖精たちから話を聞くこともできないため、まずは件の令嬢の方から調査してみようということなのだ。
大公子様やアリーチェ嬢、そして大公子様の護衛二人も、『ウルヒナ・ゾルジ』という名前聞いた時、少々微妙な顔をしたように見えた。
その表情はほんの一瞬で隠されてしまったけれど、『思わず、そんな表情が出てしまった』というところだろうか。
その後、ウルヒナ・ゾルジ嬢の話を聞くと、社交界でもあまり評判はよろしくないご令嬢のようである。
大分言葉を濁しているようにも思えたけれど、それでもこの場にいた大公子様たちは、そのご令嬢に好感を持っているようには見えなかった。
「う~ん……」
「レイ殿?」
「いや、話を聞く限り、デイジーが関わっているかどうか、少し微妙だなと思って……」
「なぜでしょう?」
「デイジーのスキルの影響を受けた者が、ケット・シー族が忌避する魔力臭を漂わせていることは明らかだけど、ケット・シー族が忌避する魔力臭というのは、何もデイジーのスキルの影響を受けた者に限る訳ではないからね。元々その人物が、ケット・シー族が忌避する魔力臭を持つ者である可能性もあるということだよ」
「なるほど……」
「まぁ、どちらにしても、『要注意人物』であることには変わりないね」
結局、その令嬢の近くにデイジーがいるかどうかはともかくとして、その令嬢を確認しておこうという話になった。
どの道、その令嬢に猫妖精たちは近付けない可能性が高い。
ならば、私が行かねばね!
こうして私は、密かにその令嬢の調査に赴くことを決意したのであった――。




