◆150・ルー兄の選択
「に~くにくにくにく おにっく~♪ に~くにくにくにく おにっく~♪」
「に~くにくにくにく おにゃっくぅ♪ に~くにくにくにく おにゃっくぅ♪」
ルー兄のお仲間さんたちにかけられていた強制隷属魔法を解除したあと、地下施設で監禁されていた子供たちが無事に保護されたことも、ルー兄に報告した。
子供たちは現在、アルトゥ教聖騎士団・第五部隊の駐屯地で保護されている。
子供たちが元いた孤児院は、デルゴリラやデルゴリラに与する者たちの管理下にあった所ばかりだったらしい。
なので、これから孤児院の管理体制の調査などもされるだろう。
いずれは子供たちの保護も含めて、レギドール騎士団へと引き継がれることとなる。
それから、子供たちがいた地下施設にあった、魔石に関する資料等も全て押収済みのようだ。
それらの資料はすでにレギドール騎士団へと引き渡され、デルゴリラとの関連性についての調査もされることとなっている。
こちらは恐らく、最優先で調査されることになるだろう。
魔石所持者や、金竜様に捕縛された(と思われている)者たちに関しては、手抜き調査や調査漏れなどあってはならないと、レギドール騎士団も気を引き締めていることであろう。
いずれは傀儡人形部隊についても調査されることになるだろうけれど、彼らや彼女たちはデルゴリラたちの被害者だ。
それに関しては、押収された資料からも明らかとなるはずである。
今後、アルトゥ教やアルトゥ教聖騎士団がどうなるかはまだ分からない。
今回の騒動で捕縛されたのは、アルトゥ教教会の一部の者たちだ。
だけど、この国にはアルトゥ教信者がごまんといて、それらの信者から新たな捕縛者が出る可能性は大いにあるのだ。
場合によっては、アルトゥ教自体が解体される可能性すらあるのではないだろうか。
まぁ、その辺りは私の関与するところではないので、『がんばれ、レギドール!』とだけ言っておこう。
全ては金竜様の御心のままに――。なのである。
そんなこんなで、アルトゥ教に関するゴタゴタに関して私ができることは、あとはもう特にないかな……?
一番の目的は、ルー兄のお仲間さんたちにかけられた強制隷属魔法の解除であったし、デルゴリラも捕まえた。
まだ調査中ではあるものの、強制隷属魔法をかけたと思われる魔法師も捕まえたしね。
あと、レギドールですることと言えば、デイジーの捜索?
だけど、デイジーの捜索に関しては、私がやる必要性を感じていなかったりするんだよねぇ。
まぁこの前、ロイド様が言っていた情報が気になるので、それは調べるつもりではいるけれど。
今のところ、レギドール内にてデイジーのスキルによる被害が出ているような気配はないと言う。
これは、私とナツメさんがお肉を焼いているのを、横で見守っているらしきミルマン兄さんからの情報だ。
少し離れた所では、レイがロイド様と話している。
きっと、金竜様の所で話していたことや、レギドールの大公子様に話す内容について話し合っているのだろう。
ロイド様と一緒に、ロイド様の側近二人も話を聞いているようだ。
小さな仔猫の話を、真剣な面持ちで一生懸命聞く大人三人の姿が何ともシュールである。
まぁ、話している内容は、レギドールの今後についてでもある。
金竜様からの啓示を見た人たちが、あの言葉をどこまで信じているかは知らないけれど、この世界の人外さんたちを舐めてはいけないと思うのだ。
金竜様が言った『裁き』とは、以前、白竜様が『うっかり大陸を消滅させかけた』のと同レベルのものだと思われる。
特に今回は、黒竜様に散々馬鹿にされたことも相まって、金竜様のブチギレ沸点が大いに下がっている可能性まであるだろう。
最悪、金竜様によってレギドールが消されかねない事態もあり得るので、『シュール』とか言っている場合ではないだろうけれど。
とりあえず、私からは金ポニワ隊のことを話しておいた。
金ポニワ隊によって突然捕縛される者が現れる可能性があることと、植物魔法で拘束された者が現れたら、レギドール騎士団に連行してもらいたいことなどだ。
それらに関する詳しい話と金竜様の意思などは、レイが補足説明をしてくれていた。
あとはロイド様から、レギドールの大公子様に話してもらう手筈である。
という訳で、私たちとロイド様一行は、明日、レギドール大公子様がいる皇都・レギンへ向かうことになっている。
赤き竜の一行も同行予定だ。
そして、アルトゥ教聖騎士団・第五部隊のアルベルト兄さんや副隊長さんも、同じく皇都に向かう予定らしい。
そして、ルー兄。
ルー兄のお仲間さんたちを解放したあと、ルー兄に今後のことを聞いてみた。
デルゴリラは捕縛され、お仲間さんたちが住んでいた地下施設は捜査中。
今後の調査次第でどのような扱いになるかは分からないけれど、以前のように縛られることはないだろう。
だけど、自由になっても、戻る場所がない人たちもいる。
昔いた孤児院の様子を見ながら、一緒に生活していくつもりの人たちもいれば、冒険者として生きていくつもりの人たちもいるようだ。
まぁ、ルー兄にはアッサリ眠らされていたけれど、元々は身体能力の高い人たちだ。
自由に行動できるようになった今、自分たちの好きなように魔獣狩りをし、好きに売れるのだ。
だから、生活費に困ることはないだろうとのこと。
そして、ルー兄はどうするのか……と。
少し寂しいけれど、ここでお別れの可能性もある。
そう思った私に、ルー兄が言ったのは――。
「俺は、リリィに付いていく」
「ん?」
「リリィがあの森に帰る時、俺も一緒に連れて帰ってほしい」
「ん? 森に?」
「うん」
――ん? それは、ルー兄もティントルの森に住むつもりだということだろうか?
「森に……住むの?」
「できれば」
「お仲間さんたちと一緒にいなくていいの?」
「うん。リリィは強いし、俺なんて必要ないかもしれないけど、それでも俺のできることを返したいんだ」
「別に何かを返してほしい訳でもないけど……」
「うん、でも俺も一緒に連れて帰って」
まぁ、森に住みたいというのなら、私は一向に構わないのだけど……。
私は町中で幼女の一人暮らしができないだろうと、森に住み始めたのだ。
自由になったルー兄が、わざわざそんな世捨て人のように森の中で住まなくても……。
そんな感じのことを言ったのだけど、ルー兄の意思は固いようだった。
というか、どうやら旅に出る前から、レギドールにいるお仲間さんたちを助けたら、私に付いてくるつもりでいたらしい。
それに、ロンダンにいるジルくんたちのことも気になるようだ。
まぁ、ルー兄なら、我が家に入り浸る猫妖精たちも見えていることだし、ナツメさんたちがいいと言えばいいのかも?
「にゃ? ルーにゃら別に構わにゃいぞ? それに、リリアンヌが住んでいる泉の周辺は、すでにリリアンヌが管理者ににゃっているであろう? だから、あの辺りに住むのにゃら、リリアンヌの許可があればいい」
「え!?」
ああ、そう言えば、そんなことが鑑定画面に書かれていた気がする……。
そう思っていれば、ルー兄にとても期待した目を向けられた。
ついでにロックくんも、同じような目をしていた。
そうしていろいろ考えた(?)結果、『まぁいいか……』と、ルー兄も一緒にティントルの森に帰ることに頷いたのである――。
という訳でルー兄は、あの森の仮拠点でお仲間さんたちに別れを告げて、私たちについて来た。
やけにアッサリとした別れだったので、それでいいのかと何度か聞いてしまったのだけど、その気になればレギドールに戻ってくることもできるからとのこと。
「だって俺たちはもう、自由だから」
そう言ったルー兄は、初めて見る顔で笑っていた――。
そんなこんなで、ルー兄も一緒に妖精の宿邸に戻った次の日、私たちはロイド様の滞在する宿へとやって来ていた。
一緒に来たのは、私とレイとルー兄、ナツメさんにトラさんとロックくんだ。
ここへ来た主な理由は、『ロイド様がエミリオ殿下に詳しい話をしたい』と言ったことへの、回答をするためだ。
まぁ、回答をするのはレイだけど。
そして、レイがロイド様と話し込んでいる間に、付いてきた猫妖精たちが、『ばぁべきゅうをしよう』と言いだした。
わざわざナツメさんが人型になり、宿の人に『庭で肉を焼きたい』と許可を取りに行く始末。
そこで、デイジー捜索から一時帰宿した赤き竜の面々が合流。
妖精であるナツメさんに、『一緒に肉を食うぞ』と言われれば、断らないのが赤き竜(特にミルマン兄さん)。そして、それに反対しないのがロイド様。
妖精様には『諾』の一択である面々であった――。
デルゴリラたちを捕まえたことだし、ここらで一息というか、ちょっとした慰労パーティーをしてもいいよね……と思い至った私。
宿の人には許可をもらっているのだしと、庭に土魔法で作ったBBQコンロを設置。
網は交換ショップで交換した、『MY網ィ』だけど。
私が網を設置していると、ナツメさんが亜空間からトンデモナイものを引きずり出そうとしていた。
「ちょちょちょ! ナツメさん? ソレはどう考えても、ここには出せないでしょ!」
「にゃ? しかし、この肉は旨いのだ。これを食べるのをずっと心待ちにしていたのだぞ!」
「分かった! 分かったから、そこから私が一旦回収するよ。そのままでいて」
「にゃ! 任せた」
ナツメさんの亜空間から、顔だけを垂らしたシーサーペント。
顔だけでも二メートルくらいはありそうなのに、全部出したら『庭からはみ出る』どころの騒ぎではないだろう。
むしろ、なぜ『出せる』と思ったのか、甚だ疑問である。
ナツメさんの亜空間から預かったシーサーペントを、私のアイテムボックス内で〈解体〉する。
肉塊を一切れ取り出し、食べやすい大きさに切ったら、味見のためにも先に焼くことにした。
まぁ、ナツメさんも、私の鑑定さんも、『シーサーペントはとても美味』と言っているので、味の心配はしていないのだけど。
そうして、焼けたシーサペントのお肉を、まずは何もつけずにパクリ……とな。
「…………ふむ、……ふむ、……ふぐ?」
ちょっと違うけれど、ふぐに近い感じだ。
唐揚げにしても美味しそうである。
てっさ食べたい……。
まぁ、これはふぐではなく、シーサペントだ。
さすがに魔法を駆使しても、生で食べる勇気は出ないので、火を通すことにする。
塩やタレでもいいけれど、紅葉おろしとネギ、それからポン酢で食べても良さそうだ。
そんな感じでふぐ……ではなく、シーサーペントと、他の海産物も網の上に載せていく。
別のコンロには、お肉と野菜を載せた。
「に~くにくにくにく おにっく~♪ に~くにくにくにく おにっく~♪」
「に~くにくにくにく おにゃっくぅ♪ に~くにくにくにく おにゃっくぅ♪」
お肉の焼ける匂いに、何だかテンションが上がってくる。
ご機嫌でお肉を焼く私とナツメさん。
それを横で眺めながら、手伝ってくれようとする赤き竜の面々とルー兄。
ルー兄の足下には、ソワソワとしているロックくんとトラさん。
話が終わったのか、レイが私の方へと走り寄って来ている。
それを追いかけるように、庭に出てきたロイド様と側近の二人。
結構な大所帯でBBQコンロを囲む。
そうして私たちは、束の間の休息を堪能したのであった――。




