◆148・放て!
「聞いてくれよ! リリアンヌ~」
私は現在、ムッキムキ筋肉を揺らす、某野菜人のようなマッチョメンの膝の上である。
なぜ、こんな状況になっているのかと言えば……。
なぜ、こんな状況になっているのだろうね?
まずは、少々、記憶の時間を遡ってみるとしよう――。
ロイド様と行った、アルトゥ教教会。(アルトゥ教教会)
そこで、何やかんやのすったもんだで、デルゴリラたちを捕縛。(捕縛)
意図せず現れた自己主張の激しいポニワにツッコミを入れたあの日、大公子様の大いなる勘違いにより、ポニワが金竜様の神聖なる使者として、人々の記憶に刻まれました。(刻まれました)
本来(?)のポニワは普通の人には見えないはずなのに、デルゴリラたちの捕縛時に大公子様や他の人たちに見えてしまったのは、恐らく、拘束具の一部として出現したからだと思われる。
まぁ、あの時はポニワを出そうと思って出した訳でもなく、ぐるぐる植物に視界共有用の花を咲かせようとしただけなんだけど……。
なぜポニワが出たのかは、謎のままである――。
それはさておき……。
アルトゥ教教会での捕縛劇があったあと、ロイド様が私とナツメさんに、『エミリオ殿下には、もう少し詳しく状況説明をしたい』と言ってきた。
ロイド様は今回の件について、大公子様と話をすることになっている。
つまりはそこで、猫妖精たちのことも話したいのだろうと察せられた。
だがしかし……。
金竜様たちの意図とか分からない私は、『私に聞かれても……』と、レイを見た。
ナツメさんも、『管理区じゃにゃいし、吾輩に聞かれても……』と、レイを見た。
私とナツメさんが揃ってレイを見たからだろう、ロイド様もレイを見た。
レイを『普通のケット・シー族』だと思っていそうなロイド様は、少々、不思議顔をしていたけれど。
そして、金竜様の意図を人間側に正しく伝える者も必要かも……ということで、レイが例の竜族同士がいつでもどこでも話せるという竜族テレパシーで金竜様に連絡をした。
そして、その答えが『リリアンヌを連れて、会いに来い!』だったらしい。
それに対してレイが少々渋い顔をしていたし、私も『なぜ、私?』と思ったけれど、致し方なし……ということで、私たちは金竜様の下へと行くことになったのである――。
金竜様の棲み処だという所まで一緒に来たのは、私とレイとナツメさん。
今回は急いでいるからと、ナツメさんの転移魔法による移動だった。
飛んだ先にいたのは、一度見たことのあるライマルさんと、初めて見る銀髪金眼の女性。ライマルさんと同じ髪色に同じ目の色で、パッと見、姉弟に見える。
恐らく、この人もフェンリル族だろう。
それから、フェンリル族二人の真ん中に立つ、金髪金眼の筋骨隆々なマッチョメン。見た瞬間、『あ、絶対、この人が金竜様だ』と思った。
「よぉ、待ってたぜ! 俺は金竜、アウルムソーレウィーラ。お前には特別に、『アウルム』って呼ばせてやるぜ!」
「…………あ、結構です。初めまして」
「――はっ?」
「挨拶も済みましたし、用件を進めてください」
「――えっ?」
ポカンとする金竜様への挨拶もそこそこに、レイによる強制進行により、金竜様が人世の出来事に介入してきた理由を聞くことになった。
金竜様は、私とレイが構ってくれない……と、少々ぶすくれているけれど、見なかったことにしておく。
拗ねながらボソボソと語った金竜様の話によれば、今回、金竜様が介入したのは、アルトゥ教が金竜様を奉っている団体であることも一因と言えば一因ではあるのだけど、それよりも、金竜様や他の竜族、更には霊獣や妖精、精霊たちにとって、どうしても見過ごせない問題があったからなのだとか。
それは、デルゴリラたちが使用していた魔法陣について――。
今回、魔石の材料とされたのは人間、あるいは魔獣であったのだけれど、元は妖精族を核にする魔法陣であり、その魔法陣は数百年前に、竜族や霊獣、そして猫妖精たちの手によって抹消されたはず……であった。
しかしながら、それらがまた使われていたことが判明。
そしてそれは、人外さんたちの逆鱗に触れる行為であったらしい。
そういう訳で、人間には不干渉だと思われた金竜様も、今回の件を見過ごす訳にはいかぬと動いたのだそうだ。
だけど今回の件に関して、金竜様は他の竜たち、特に黒竜様に、ネチネチネチネチと文句を言われたらしい。
『自分の御膝元でこんなことを許していたなんて、なんて間抜けなんだ』とか、『もっと早く気付けなかったのか』とか、『人間に持て囃されて調子に乗っているからだ』とか、まぁ、そんな感じのことを延々と言われ続けたのだとか。
そして、冒頭に戻る――。
黒竜様の詰りにいつも強気で言い返す金竜様も、今回の件についてはあまり強く返すことができず、悔しい思いをした……なんて言う愚痴を、私が今、延々と聞かされている訳だ。
金竜様の膝の上で……。
話を聞くのはいいのだけれど、それが膝上であることは解せない。
だがしかし、リリたんは抵抗が無意味であることを、白竜様の時に悟ったのである。
こういう場合は、自身が『ぬい』であると思うことが肝要。
虚無の心で『ぬい』に徹するべし。徹するべしべし。
――ワタシハ、ヌイグルミ。ワタシハ、ヌイグルミ。
「リリアンヌ? 聞いているか?」
「ハイ、ワタシハ、ヌイ……聞イテマス」
こんな遣り取りを数度繰り返した頃、仔猫姿で私に抱っこされていたレイが私の膝から飛び降り、人型の姿へと戻った。
そして、金竜様の膝上から私を取り上げるレイ。
「――あっ!」
「そろそろ、リリアンヌを離してください」
「おい、返せ! もう少しぷにぷにさせろ!」
「『返せ』って何ですか? リリアンヌは金竜様のものではありません」
「お前のもんでもないだろうが!」
「………………」
「おい、無視すんじゃねぇ!」
「あ、うるさいです」
「はぁ?」
私を巡って、勝手に繰り広げらる攻防。
こんな時、『私のために争わないで!』と言うのがお約束だろうか……などと、虚無の目をしながら考えてみた。
だがしかし、それを実行することなく、私は引き続き、静かに『ぬい』に徹しておくことにしたのである。
――触らぬ神に祟りなし、触らぬ竜に面倒なしである。
その後、フェンリル族のお姉さんに、『いい加減にしてください』と一喝された金竜様が大人しくなり、子供が玩具を取り合うような争いは収束された。
ちなみに、銀髪金眼のお姉さんは『月子さん』で、ライマルさんは『雷丸さん』であると判明した。
どうやら、金竜様と雷丸さんは、月子さんが苦手そうである。
騒がしいイメージの強い雷丸さんが、今回はずっと静かだなぁと思っていたのだけど、何かを口にしようとすると月子さんに睨まれ、黙るのである。
なぜこんなにも月子さんに弱いのかと思えば、なんと!
月子さんは雷丸さんのお母さんだったらしい。
で、雷丸さんが静かなのは、前回、雷丸さんがアーメイア大陸に来た時の失態から、月子さんに『客人の前では黙っていなさい』と言われているからだとか。
フェンリルヒエラルキー、ここに見たり……である。
まぁ、ただの家庭内ヒエラルキーかもしれないけれど。
でも、金竜様も一喝されて背筋が伸びていたし、種族など関係なく、『月子さんには逆らってはいけない』が、正解なのかもしれない。
そんな中にあって、ナツメさんだけは通常通りだった。
最初は静かに金竜様の話を聞いていたけれど、金竜様とレイが『リリたんぬい』を取り合い始めたころから、マイペースに寛ぎ始めた。
今では、亜空間収納から取り出したマイクッションに凭れかかりながら、スルメを齧っている。
そんなナツメさんをニコニコ……というか、デレデレとした顔で見ている月子さん。
もしかして、月子さんは猫好きなのだろうか?
フェンリルなのに猫派とはこれ如何に……なんて思いながらナツメさんを見ていると、ナツメさんがスチャッと立ち上がり、私の下までやって来て、スッ……とスルメを差し出してきた。
「……ありがとう」
「うむ」
ナツメさんにもらったスルメをもっちゃもっちゃと齧りながら、真面目に今後の話をしだしたレイと金竜様の言葉に耳を傾ける。
ただし、現在は人型に戻ったレイの膝の上である――。
もう『何でもいいや……』という気持ちの方が大きいので、大人しくレイの膝上に鎮座していた。
「そういえばよぉ、リリアンヌが生み出した、あの魔植生物、あれはいいな」
「――ふぇ?」
「今回はケット・シーたちにも動いてもらったが、できれば妖精族はあんまり人世とは関わらせたくないしな。まぁ、ケット・シー族は、人の生活を見るのが趣味みたいだから、それは好きにしていいと思うけどよ。でも危険な魔法陣が残っている中で、ウロウロさせたくないんだよ」
「はぁ……」
金竜様の言いたいことは分かるのだけど、魔植生物とどう関係が?
ていうか、魔植生物ってポニワのことだよね?
なぜ、ポニワの存在を知っているのかとも思ったけれど、猫妖精たちにせがまれて、かなり大量に作ったし、きっと情報源はそこだろう……。
「そこでだ! リリアンヌ、あの魔植生物をいっぱい出してくれ」
「――へ? ポニワを?」
「ポニワって言うのか?」
「いえ、正確にはパンドラゴラって言うらしいですけど……」
「そうなのか? まぁ、どっちでもいいんだけどよ、とにかくそのポニワとやらを出してくれ」
「はぁ……、それはいいですけど……」
訳が分からないけれど、とりあえず言われるがままにポニワを出してみる。
そのポニワを手に取り、何やら魔法をかけ始める金竜様。
すると、10cmほどの大きさだったポニワが20cmほどの大きさになり、頭頂部(?)に生える葉っぱが金色に変化した。
そして……。
ポニワがトコトコと歩き出す。
私が出したポニワは、足らしきものはあったけれど、自立歩行はしなかったのだ。
それが今は歩いている。……というか、確かめるように徐々に速度を上げ、部屋の中を駆けだした。
「わぁ……」
「よしよし! イイ感じだな。これからは、ケット・シー族に代わって、ポニワにあの魔石を探し出してもらおうと思ってな!」
「え! そんなこと、できるんですか?」
「おうよ! 簡単な魔法も使えるみたいだし、魔石を持っているやつを見つけたら、植物魔法で拘束するようにしておいた」
「おお!」
「てな訳で、リリアンヌ! もっとだ! もっといっぱいポニワを出せ!」
「――っ! ラジャーであります!」
走るポニワを見た瞬間は何とも言えない気持ちになったけれど、ポニワが役に立つのならば否やはない。
ビシっと敬礼をキメ、ぽんぽんとポニワを出していく。
それを魔改造していく金竜様。
そんな感じで、私と金竜様により大量生産されたポニワたちが、人知れずレギドール神皇国中に放たれるまで、あと少し……なのであった――。




