◆139・それは唐突にやってくるもの
ロイド様たちとの話を終えたあと、二日後にまたこの宿で集合することになり、一度解散しようとしたところで、ルー兄からの飛文書が飛んできた。
どうやら、最初に連れ出した五人と協力して、残りの傀儡人形部隊の人たちを全員保護したらしい。なので、来れる時に強制隷属魔法を解除しに来てほしいことと、来る時は必ず姿を隠してきてほしいこと、それから、来る前に必ず連絡してほしいということが書いてあった。
気持ち的にはすぐにでも強制隷属魔法を解除しに行ってあげたいところなのだけど、さすがに傀儡人形部隊の全員の魔法が解除されれば、デルゴリア側がどんな動きをするか分からないということで、強制隷属魔法の解除は、ロイド様がデルゴリアと会ったあとに……ということになった。
そう思うと、先に保護した五人の魔法解除のタイミングを間違えたかなとも思ったけれど、もうやっちゃったあとだしね……。現時点では、デルゴリアがロイド様と会うという予定に変更はなさそうだし、問題なかろう。
その後、妖精の宿邸に戻った私は、アルベルト兄さんからの連絡も待ちながら、減ってきた料理のストックを補充しておくことにした。
妖精の宿邸に集まるもふもふたちの分もいるし、ルー兄たちの分も用意しておこう。強制隷属魔法を解除するまでは、私が作った結界の中にいてほしいしね。
ルー兄からの手紙によれば、保護したのは十人。
先に保護した五人とルー兄を入れて、全員で十六人か。結構な人数である。
まずは、大鍋で煮込み料理をたくさん作ろう。
ポトフ、カレー、シチュー、トマト煮込み……、あ、ロールキャベツもいいね。それに、豚汁、牛筋煮込み、筑前煮、芋煮、おでん。美味しそう……。
ルー兄たちに渡す料理は、こっちの世界の食材で作ったものにしておこう。
雪丸さんが手伝ってくれると言うので、二人でせっせと調理していると、ナツメさんとシロが周りをウロチョロし始めた。
「リリアンヌ、吾輩が味見をしてやろう」
「ん……、シロがしてあげる」
「…………結構で~す」
二人の味見係立候補を断ったものの、目のギラつき方に一抹の不安を覚えたので、結界を張っておくことにする。
「にゃっ!? 何故、結界を張ったのだ!?」
「ん……、入れない……」
――当然の帰結である。
未練たらしく結界に張り付くナツメさんとシロ。
人型から獣人型に戻ったことで、結界に押し付けられた肉球に少々心を奪われそうになりながらも、二人を無視して調理を続けていると、アルベルト兄さんからの手紙を持った小雪ちゃんがやって来た。
「リリアンヌ~、お手紙にゃの~」
「小雪ちゃん! ありがとう」
相変わらず、ちまっとした手足がかわいい……。
今度は小雪ちゃんのかわいさに気を取られながらも、渡された手紙に目を通す。
どうやら、聖騎士団第五部隊は、監禁されていた子供たちの保護に向かってくれるようだ。決行日は二日後。ロイド様がデルゴリアと会う日である。
最初は、準備ができ次第、すぐにでも子供たちの保護に向かうという話もあったようだけど、それに難色を示す隊員がいたようで、紆余曲折の末に、二日後の決行となったらしい。
第五部隊が、あの施設に乗り込んで子供たちを連れ出すということは、同じアルトゥ教の中での対立を明確に示すことになるかもしれない。今の第五部隊の立場や今後を考えて、懸念を示す人がいてもおかしくはない……かな。だからと言って、子供たちを見捨てたり、デルゴリアたちがしていることを見過ごすのかって話だよね。
まぁ、結局『動く』という判断になったようだし、ロイド様にも連絡しておこう。アルベルト兄さんにも返事を書いて、小雪ちゃんに渡す。ルー兄の方には、あとで料理を届けに行くついでに伝えよう。
中断していた調理作業を再開し、時々、背後の結界にへばりつく猫妖精をチラ見しながら、たくさんの料理を作った。これで、しばらくはもつ……はず……。
『ふぃぃ~』っと一息ついて、ルー兄に料理を届けに行く準備をしていれば、ロックくんとトラさんが雪丸さんと一緒に届けに行ってくれると言う。私が行っても強制隷属魔法の解除はまだできないし、お言葉に甘えてお願いするとしよう。
ルー兄には、『今から雪丸さんが行く』という文球を飛ばして……と。
ルー兄も、私とアルベルト兄さんにだけは文球を飛ばせるので、簡単なやり取りで済むことなら、文球で返ってくるだろう。
雪丸さんたちが出かけている間、妖精の宿邸に屯しているもふもふたちに埋もれて、休憩することにした。
「ふぇぇ~……」
「お疲れ様」
「うん、ありがとう」
雪丸さんに手伝ってもらい、魔法も使っているとは言え、数十人分の料理を大量に作るのは、結構な重労働だ。五歳児ボディには、お昼寝が必要かもしれぬ――。
「お風呂……入り……t……《すやぁ……》」
いつの間にか寝落ちしていたらしい私が目を覚ますと、日はすっかり暮れて、夜になっていた。ルー兄に料理を届けに行ってくれていた雪丸さんたちも、既に帰ってきている。
「あ、起きた?」
「……うん、起きた」
「リリアンヌ! そろそろ皆で何か食べようかと話していたところだ。一緒に食べるぞ!」
「ああ、うん……」
――っ!? もしかして、食いしん坊な猫妖精たちが、私が起きるのを待っていてくれ………………。
輪になって座っていた猫妖精たちの方に視線を遣れば、輪の中央には、お皿や、何かを食べた残骸らしきものが見えた――。
――『そろそろ』どころか、食べとるやないかいっ!
そうだよね、それが君たちの通常運行だよね。
むしろ、君たちが何も食べずに待っていた方が、『え、どうしたの?』って思ってしまうよね。まぁ、食べたのはマジックバッグに入れておいたおやつ類のようだし、猫妖精的には待っていてくれたのかもしれない。……多分。
いいんだ、いいんだ。こういう勝手な感じも含めて、私はお猫様が好きなのだ。
ここに純粋な猫はいないが……。
見た目が猫な妖精、見た目が猫な半竜人、見た目が犬な霊獣、見た目が狐な霊獣、そしてスライムと、謎の植生物軍団――。
改めて羅列すると、『何で私、ここにいるんだろう……』なラインナップだけど、気にしたらダメだな……なんて考えながら、ご飯の準備をする。準備と言っても、既に作っておいたものをアイテムボックスから取り出すだけだ。
サラダ、山盛り肉団子、エビとアボカドの炒め物、トマトと卵のスープ……と。
「あ! 肉団子にゃ~!」
――うんうん、ロックくん、甘だれ系の料理好きだもんね。
「エビ……」
――うんうん、雪丸さん、最近エビにハマってるっぽいもんね。
「ん……、トマ……ト……」
――うんうん、シロはトマトを避けがちだもんね。
それぞれの反応に、心の中で軽くツッコみながら、食事を始めた。
今日も今日とて、騒がしい食卓での食事を済ませたあとは、庭に一時的に作ったお風呂に入る。
クリーン魔法でもキレイになるけれど、やはりお風呂でわしゃわしゃ洗って、湯舟に浸かりませんとなぁ……。
「ふへぇぇぇ~……」
「リリアンヌ、これ、いい香りねぇ」
今日はクロとシロも一緒に入浴だ。
どうやら、入浴剤の香りが気に入ったようである。
「うん、他のもあるよ。明日は別のヤツね」
「いいわね、明日も楽しみだわ」
「ん……、美味しい匂い……」
「え……?」
今日使ったのは、桜のバスソルトだ。
美味しい匂い……?
まぁ、美味しい匂い……と言えば、そう……かも……?
さっきまでは桜並木が思い浮かんでいたというのに、いつの間にか、頭の中は桜餅でいっぱいになっていた――。
そんなこんなで、ホカホカといい気分で入浴を済ませ、ベッドに入って寝る準備を始めた頃、部屋の外から私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
声に反応して、ドアを開ければ、小さな塊が飛び込んでくる。
「リリアンヌ~!」
「ん? あれ? 小雪ちゃん?」
「リリアンヌ~! アルベルトたちを助けてあげてほしいにゃの!」
「――ん!?」
助けてあげてほしいって、どういうこと――!?




