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◆137・合流


 ロイド様から『リビエスの街に到着』との飛文書が届き、指定の宿へと足を運ぶことにした。



 一緒に向かったのはレイとナツメさん、それから、クロとシロである。

 雪丸さんは、お子狐様や猫妖精たちの面倒を見ながらのお留守番役だ。

 今回はアルベルト兄さんもルー兄もいないので、猫妖精たちが人型になって同行してくれている。

 


 ……が! 指定の宿に着いたかと思えば、ナツメさんが突然、「すぐ戻る!」と言いながらシロと一緒に走り去ってしまい、クロが二人を連れ戻しに追いかけていった。



 その光景をレイと一緒にぽかんと見ながら、宿前で猫妖精たちの戻りを待つことにする――。



「リリィ! 久しぶりだな!」

「ぎゃぅ……」



 二日ぶりの再会が『久しぶり』かどうかはさておき、たった今、宿に到着した様子のライアンさんことライ兄さんに、逆フリーフォールの如く持ち上げられ、思わず淑女らしからぬ声が漏れ出てしまった。



「ライアン、レディを突然抱き上げるのは失礼ですよ」

「ん? レディ……って、まだ小さい子供だぞ」

「………………」



 ――中身はアナタより年上ですがね……。



「そういうところがモテない要因……」

「はぁ!? ハリー! 俺はお前よりマシだ!」



 まぁ、ハリーさんは、ね……。

 デッカイ虫とか獲ったら、『はい』とか言ってスーパーナチュラルに渡してきそうではある。『一番好きな蟲は蜘蛛っす』とか言いそうなダウナー系お兄さんだ。




「女の子に、花を根ごと渡すライアンには言われたくないっす……」

「は……、何で知っ……、いや、あれは! その方が植えて育てられるだろうが!」

「育てるのが前提の時点で、何か違うと思うっす……」



 ――『雑 VS 蟲』か。正直、どっちもd……。



 いや、若干、蟲の方―がキツイかな。私は蟲屋事件を忘れていない。

 それより、早く下ろしてほしい。

 ずっと脇の下を掴まれたままの、中空高い高いスタイル……。

 うん、雑もキツイかも? やっぱり、どっちもd……。



「わっ……、ん?」



 足がぷらんぷらんのぶらりんリリたんをしていると、私のお腹のポッケから飛び出たレイがライ兄さんの頭の上に飛び乗り、ライ兄さんの頭をぽふぽふし始めた。



『リリィを降ろして』と言っているので、あのぱふぽふは抗議心の表明なのだろう。しかしながら、かわいさ攻撃力が激高であるにも拘わらず、物理的攻撃力は激弱。むしろ、皆無と言っても過言ではないだろう。



 ライ兄さんも頭の上に『???』を飛ばしているだけで、仔猫圧殺パンチは一ミクロンも効いていなさそうである。



 ぷらんぷらんしながらライ兄さんの頭上にいるかわいい生き物を観察していると、ふと後ろから別の誰かの手によって抱えられる感覚がし、次の瞬間には地面に着地していた。



「お?」

「あっ!」

「ライアンがすまんな」

「いえ、ありがとうございます」

「ニック! リリィを盗るな!」

「『盗るな』って何だ……。そもそも、あんな持ち上げ方をするな。町の坊主どもとは違うんだぞ……」



 どうやら、私を着陸させてくれたのはニックなマッチョーリ兄貴のようである。

 ニックさんには、あとでお肉を差し上げよう。

 ライ兄さんがニックさんやミルマン兄さんに説教され始めたのを横目に見ていると、ロイド様が話しかけてきた。

 


「リリィ、一緒に来たのはレイ殿だけか?」

「いえ、ナツメさんたちも一緒なんですけど、さっき、あそこに向かって……」



 そう言って、ナツメさんたちが走り去っていった方向を見遣ると、丁度、ナツメさんたちが手に何かを持って戻ってきたところであった。シロがもぐもぐしているので、食べ物だろう。



「にゃ? お前たち、今来たのか?」

「……にゃ?」



 ロイド様たちに声をかけたナツメさんが何を持っているのかと見ていれば、ナツメさんが何かを差し出してきた。



「リリィ、パイがあったぞ! レイも食べるか?」

「ん~、リリィ、半分こする?」

「うん、半分こする」



 ナツメさんがくれたのは、ワンピースサイズにカットされたパイだ。

 中身は……、何だろ? 野菜? きのこかな?

 お昼前だけど、お昼ご飯を食べるのはちょっと遅くなりそうだしねぇ……。



「……にゃ? 何だ、吾輩をジッと見て……。お前も食べたいのか? お前たちの分は買ってきていにゃいぞ?」

「いや、パイがほしい訳ではない。その……」



 ナツメさんたちの声に、そちらに視線を遣れば、ロイド様が何かを言い淀みながらクロの方をチラ見し、こちらにも視線を飛ばしてくるのを見て、はたと気が付いた。そう言えば、ロイド様たちはナツメさんの人型モードを見たことがないはずだ。シロに至っては「初めまして」である。



 まぁ、人型に変身しても声はそのまんまだから、妖精が見えない人たちはともかく、猫型時のナツメさんの声も知っているロイド様とミルマン兄さんは、人型の黒髪青年がナツメさんであることに勘付いてはいるのだろう。



 ぶっちゃけ、成人男性の姿をしながら「にゃにゃにゃ」言っているのがナツメさんでないなら、誰なんだという話である。そんなナツメさんに、ミルマン兄さんが声をかけた。



「ナツメ様……でしょうか?」

「そうだぞ? (にゃん)だ今更……」

「人のお姿をされているところを目にするのは初めてですので」

「にゃ? そうだったか?」

「はい」



 ここにいる人たちは人型のクロを知っていたことで、猫妖精たちが人の姿をしていることにそこまで驚いてはいないようだけど、クロとナツメさんが人型を取っているならばと、一緒にいるシロにも視線を向け始めた。



 視線を向けられた当のシロは、パイを食べるのに夢中のようだけど……。



「その子はシロよ。食べるか寝るかにしかほとんど興味がないから、好きにさせておいてちょうだい」



 どうやら、シロも猫妖精であることを察した一行は、クロの言葉に頷いたあと、宿に入ることにしたようである。話は宿の中でするということで、私たちも一緒に宿へと入った。



 宿の一室に集合し、お互いの情報を交換する。

 まずは、ロイド様たちからの情報だ。

 デルゴリアに会うのは二日後。

 私も魔法で姿を消してついて行く意志を伝える。



 子供には聞かせられないような話ばかりだろうと私の同行をかなり渋られているけれど、今更である。むしろ、今から話す内容を聞けば、「聞かせられない」なんて言っていられないだろう。



 そうして、アルトゥ教教会の裏手側で見つけた施設のことや監禁されている子供たちの話、そして、魔法陣の話などをした――。



「そんなことが……」



 ルー兄の家族の話はしていないけれど、話を聞いたみんなの顔色は悪い。

 人を魔石に変える魔法陣が存在しているというだけで、悍ましさや残酷さを感じるだろう。



 地下施設に監禁されていた子供たちに関しては、アルベルト兄さんを通してアルトゥ教聖騎士団の第五部隊が動くということも伝えておく。



 すると、第五部隊がデルゴリアと同じアルトゥ教の所属であるため、『本当に動くのか?』『信用できるのか?』という声も上がる。


 

 私も第五部隊のことは、アルベルト兄さんに聞いたことしか知らない。

『信用できるのか?』という疑問はともかく、『本当に動くのか?』という点においては、私もちょっとだけ不安ではある。



 まぁ、もしも第五部隊が動かなくても特に問題はない。

 その時は、私たちが動けばいいだけなのだ。



 という訳で、第五部隊に関しては一時保留。

 ロイド様たちがデルゴリアに会う二日後までに動きがなければ、私たちが動くという話でまとまった。



 その後は、じぃじから聞いたデイジーのスキルにかかっていた人の話をする。

 やはり、デイジーのスキルが突然解けた理由はここで考えても仕方がないという結論になり、こちらに関しても保留。たとえデイジーが死亡していたとしても、それが確認されるまで捜索は続行されるのだ。



 そこで、ロイド様が気になっていることがあると言う。

 デイジーと関係があるかは定かではないが、レギドールの王城で出会ったとある令嬢についてだ。

 


 ロイド様がその令嬢と対峙した時は、『あんまり関わりたくないな……』と軽く思った程度で、特に気にはしていなかったらしい。



 しかし、王城を出る際に、偶然その令嬢を遠目に見つけた時のこと。

 令嬢から少し離れた場所にいたと思われる数匹の猫が、「くさいにゃ~!」と叫びながら、脱兎の如く走り去ったのだとか。



 ロイド様に同行していた側近二人には猫の姿が見えていなかったことと、「くさいにゃ~!」という声も聞こえていなかったことから、ロイド様が見た猫はケット・シー族だろうと思われる。



 ロイド様は、デイジーのスキルに洗脳された人間の魔力が、ケット・シー族にとって『臭い』と感じるものであることを知っている。なので、もしかしたらその令嬢、或いはその令嬢の近くにいた者も、デイジーのスキルで洗脳されているのかもしれないと。



「できれば、あの妖精たちに話を聞きたかったのだが、あっという間に姿が見えなくなっていてな。だからと言ってあの令嬢に聞く訳にもいかず、先にデイジーを見つけるか、君にあの令嬢を見てもらうのがいいかと思うのだが……」



 確かに、私なら鑑定で判断することもできるし、本当にその人が状態異常になっているなら、解くこともできるしねぇ。まぁ、状態異常になっているのがそのご令嬢さんとも限らないけれど、デルゴリアの件が片付いたら、ちょっと見に行ってみましょうかね。


 

 もしかしたら、その近くにデイジー本人がいる可能性だってあるかもしれないのだから――。



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