◆131・由緒正しきチートワード
ルー兄が向かったのは、先ほどの部屋の向かい側にある扉だ。
私がすぐ後ろにいることを確認したルー兄は、そのまま扉を開けて部屋の中へと入っていく。私もルー兄の後に続いて扉の隙間にスルリと飛び込んだ。
「ん?」
「何か入ってきたか?」
部屋の中にいた人たちの声が聞こえたけれど、どこにいるかはすぐに見えない。
私たちが入った部屋は、所狭しと言った感じに二段ベッドが犇めく部屋で、二段ベッド以外の家具は見当たらない。
どこのベッドの上にも、服と布袋、その他、何かしらの道具っぽいものが乗っている。ルー兄は『傀儡人形部隊の待機部屋』と言っていたけれど、『居住地』とも言っていたし、ここで生活もしているのだろう。
「何っ……」
「……おい?」
トサッ――、ポスッ――。
トサッ――、ポスッ――。
「何だ⁉」
「何……?」
「何か……」
トサッ――、トサッ――、トサッ――。
ポスッ――、ポスッ――、ポスッ――。
私が入った部屋の中を観察している間に、微かに聞こえた人の声少々、のち、《トサッポス》音。聞こえた音からして、ルー兄が部屋の中にいた人たちの意識を刈り取ったのだと思うけど……。
「中々に素早かったにゃ」
「見てなかったにゃ~」
「気が付いたら、なんかもう終わってたにゃんね」
だよね。早いよ、ルー兄。早過ぎる。私、何もしてないよ。
ていうか、人ってあんなにアッサリ意識を刈り取れるものなの?
恐ろしく速い手刀で意識を刈れる人は、どこぞの旅団長だけだと思っていたよ。
まぁ、ナツメさんの猫チョップも驚きだったけどね。
もふもふの猫手なのに、一撃必殺脳震盪だよ? 何て恐ろしい……。
「リリィ、ここにいたみんなには寝てもらったから、とりあえず拘束してくれる?」
「うん」
とりあえず、私は『ぐるぐる係』をゲットである。
ルー兄が私の前に運んできた人たちを、植物魔法でぐるぐる巻きにしていく。
「あとは、ここからみんなを運ばないと。さすがに五人を一度には無理だね……」
「あ、浮遊魔法で運ぶよ?」
「一度に何人運べる?」
「多分、全員運べると思う」
目の前の気絶した五人を浮遊魔法で浮かせて動かしてみる。
「うん、できるね」
「……凄いね、リリィ」
――うむ、これで『ぐるぐる係』から『ぐるぐる運搬係』に昇格である。
わざわざ、こんな黒づくめ衣装まで用意して、ルー兄の後ろを飛びながら猫妖精を眺めていただけで帰ったら、私の存在意義やら沽券やらに関わってしまうからね。
手際が良過ぎるルー兄のおかげで、これといった問題もなくミッションが終わりそうである。でも、ここにいるのは、傀儡人形部隊の全員ではないんだよね?
「ルー兄、これで全員じゃないよね?」
「そうだね、俺が知っている奴らがあと十人。でも、アルベルトの話じゃ、ここに新しく連れて来られた子がいるみたいだから、対象者が増えてるかも……」
「ここ以外に子供たちがいそうな部屋は?」
「ない……はずだけど。ここには、さっきの監視者の部屋と、ここ以外の部屋はないからね。監視者の部屋の奥に扉があるから、あと一部屋くらいはあると思うけど、あっち側に俺らや孤児たちを入れることはないと思う」
「そうなの?」
思ってたより狭い施設……あっ! 〈MAP〉見てないじゃん。
「〈MAP〉」
「……リリィ?」
「ちょっと待ってね」
〈MAP〉画面は私にしか見えていないらしいので、今の私は、空を見つめて固まる幼女にしか見えないだろうけれど、ルー兄はそんな幼女にツッコミを入れることなく待ってくれる優しい人である。
『ぼへ~っと棒立ち幼女・リリたんヌ』こと私は、急いで〈MAP〉の確認を始める。まずは、MAP上に表示された★を中心に拡大、拡大……。
「ふむ……」
確かにこのフロアは、ルー兄の言うとおり、今いる『待機部屋』と、さっきいた『監視者部屋』、そして、その監視者部屋の奥に一部屋。まぁ、一部屋というより、納戸っぽい雰囲気の小部屋がひとつだ。
だがしかし……。
「ルー兄、ここ、この階の下にも部屋があるよ?」
「え?」
そう、もう一階下にもフロアがあるのだ。
「監視者部屋の奥の部屋に階段があるみたい」
「奥の部屋……。それなら、俺たちが知らなくてもおかしくはない……けど……。リリィ、どうして分かったの?」
「……え? あ、うん、魔法で?」
「そっか。やっぱりリリィの魔法は凄いね」
「そ、そんなことない……でもない……かなぁ? へへっ」
本当はスキルだけど、『魔法で』と言えば大体、納得してもらえる今日この頃。
私自身は特に何もしていないけれど、所持スキルが凄いことは確かなので否定はしない。ありがとう、チートスキル様。
それはともかく、階下フロアだ。
階下フロアにある部屋も気になるけれど、もっと気になるのは、そのフロアから別の場所へと続く通路らしきものがあることだ。
「下の階から、外に続く通路が二つあってね、ひとつは森の方で、一つは街の方……というか……、これは……」
「リリィ?」
〈MAP〉画面をスライドさせて、表示された通路の行き先を追えば、行き当たるのは『アルトゥ教・教会本部』である。
「ここの地下と、アルトゥ教の教会が繋がってるみたいだよ」
「……教会と?」
「うん」
まぁ、教会と繋がっていても不思議はないと言うか、むしろ、ちょっと納得しちゃったの何でだろ。
もしかしたら、デルゴリラ……じゃなかった、デブゴリア……ん? デル……ゴリラ……、うん、デなんとか枢機卿が、この地下通路を行き来している可能性もあるよね。
「とりあえず、下の階も行く?」
「そうだね」
「この人たち、どうする?」
「う~ん、ここに置いていく訳にはいかないね。誰か戻ってくる可能性もあるし」
「一回外に出よう」
という訳で、捕k……保護した五人と、捕えた監視者を浮遊魔法を使って運び出し、少し離れた所に土魔法で簡易小屋を造り、そこに寝かせておくことにした。
強制隷属魔法はまだ解いていない。
解除すれば、魔法をかけた人に気付かれる可能性があるらしいので、解除するのは、建物の探索やら何らを終えて、ここから距離を取ったあとにする予定だ。
全員、拘束しているとはいえ、保護した五人と監視者が顔を合わせることがないようにしておく。
一応、私たちが戻るまでここから出られないように結界も発動させ、最後に簡易小屋の周りに植物魔法で植物をワッサワッサと盛りつけたら完成だ。
「ふぃ~、働いた~」
汗などかいていないのに、汗を拭うフリをするのはお約束だ。
これで『ぐるぐる運搬係』から『ぐるぐる作業員』へと昇格したハズである。
――目指せ、ぐるぐるエージェント!
「さて、戻りますか」
作業を終えた私たちは、再び先ほどの建物内へと戻ることにした。
そして、先ほどは入らなかった、監視者がいた部屋の奥の小部屋と進む。
更に、小部屋の奥にあった階段を見つけ、階下のフロアに入ろうとした時、ルー兄が呟いた。
「(……人の気配がする)」
「「――!」」
「それだけではにゃいにゃ……、何だか変にゃ気配もする」
「(変な気配?)」
「うむ、人ではにゃいが、人がたくさんいるようにゃ……ここからではよく分からにゃいにゃ」
「(とりあえず、私が先に様子を見てくるよ)」
「(リリィが?)」
「(うん、飛んでいって、チラッと見て、すぐに戻ってくるよ)」
「(分かった)」
そう、私なら浮遊魔法で宙を進んで偵察できるのだ。
いるのが敵なら、氷漬けにでもすればいいし。
フロアマップを頭に思い浮かべながら、まずは傀儡人形部隊の待機部屋の真下に当たる部屋へと向かう。
扉が閉まっているので、音を立てないようにそぉ~っとドアリングを引っ張……《ガコッ――》
――ひ~! 鍵・か・か・っ・て・る!
音、立てちゃったよ。
あわあわしながら、とりあえず、ドアリングを引っ張った時よりも高い位置に移動する。バクバクと響く心臓の音にもハラハラとしながら、ポッケの中のレイをもふもふして精神を落ち着かせることにした。
しかし、しばらく経っても、誰かが来るような音も気配もなく……。
「(ふぃ~、焦った~……)」
「(まぁ、鍵がかかっていても不思議ではないよね)」
「(そうだよね……)」
「(どうする? 一度戻る?)」
「(う~ん、こう……、魔法で鍵開けられたりとか……)」
「(魔法を使った封印とか、鍵とかなら開錠できそうだけど、物理は……どうだろう?)」
「(とりあえず、一回だけ試してみる)」
「(……うん)」
無理だったら、ルー兄かアルベルト兄さんがどうにかしてくれる気がするし、試すだけ試してみればいいよね。どうにもならなかったら、扉ごと破壊するなり何なりすればいいし……。
先ほど天井近くまで上げた高度を下げ、ドアリング近くで浮遊する。
見えた鍵穴を視界に収めながら、鍵が開くイメージをする。
――あ、これ、イケるヤツ。
「(〈開け~ゴマッ!〉)」
カチャッ――。
「(えっ……)」
「(あ、やっぱできた)」
「(開いたね……)」
「(今ここに! セキュリティという概念は消えた! ……ていうか、怖っ! 私の魔法、凄過ぎて怖っ……)」
「(そうだね、呪文が『開けゴマ』なのがまた……。そのギャップが余計に恐ろしいよ)」
「(えっ……!?)」
やはり、『開けゴマ』はベタ過ぎたかな?
しかし、『開けゴマ』は世界的に有名な由緒ある呪文のはず……。
まぁ、音だけ聞けば、何じゃそりゃ感があるのは否めないと思うけどね。
「(リリィ、先に進もう?)」
「(あ、うん……)」
そうだね、『開けゴマ』はさておこう。
気を引き締め直して、いざ、行かん!
まずは、鍵を開けた扉をそっと開き、部屋の中を窺い見る。
扉の隙間からは、石の床に描かれた大きな魔法陣らしきものが見えた――。




