◆130・潜入!
クラウディオさんのことをアオくんと小雪ちゃんにお任せして、私たちは当初目指していた建物へと向かうことにした。
一緒に行くことになったアルベルト兄さんにも認識遮断の魔法をかける。
これで普通の人には、私たちの姿を見られることはない。
まぁ、私たちが発する音や話し声は聞こえてしまうようなので、それは気を付けないといけないけれど。
猫妖精の場合は、妖精が見えない人には猫妖精の声も聞こえないけれど、何かを落としたり、ぶつかったりした時などの音は聞こえてしまうらしい。
それはさておき、辿り着いた建物を外から見る限り、石造りの少し大きめの平屋のようである。
ルー兄はここが傀儡人形部隊の居住地だと言っていたけれど、そんなに大勢住めるような大きさには見えない。
ルー兄の後に付いて、建物の中へと向かう。
中に入ると、石造り外観に対して、中は木造っぽい造りである。
部屋の中には古ぼけた感じの暖炉に、ちょっとボロいテーブルセット、ちょっとボロいベッドがひとつ。どこぞの管理小屋とか、山小屋の中といった様相だ。
やはりここで、大勢の人が生活しているようには見えない。
ということは……。
脳内で予想したことにちょっぴりソワソワしていると、ルー兄が板張りの壁をちょこちょこといじりだしていた。
「――!?」
カコッ――。
微かな音と共に、先ほどまではなかった黒い線が板張りの壁に現れる。
現れた黒い線は、ドア一枚分の長方形。
中をわざわざ板張りにしていたのは、このためだろう。
よくよく見れば、現れたのは線ではなく、壁がズレたことでできた隙間の影であることが分かる。
――でた~! 隠し扉!
ワクワクしている状況ではないことは分かっているのだけど、リアル隠し扉とか、隠し部屋とかに、何だか興奮してしまうのは致し方ないと思うのだ。
だって、こんなの漫画とか映画とかでしか見たことないよ!
田舎のお祖母ちゃん家にあった、何だかひっそりした納戸に入るだけでも、ちょっとドキドキしちゃうのだ。全く隠れてもいない納戸ですら、秘密基地に入るような感覚になるのに、リアル隠し扉が目の前に現れたら、『うぉ~!』ってなるよね!
まぁ、こうして内心では一人フィーバー状態なのだけど、顔にも声にも出さないように、必死で堪えている最中である。できれば今は、誰も話しかけないでほしい。
「にゃ~! 扉っぽいのが出てきたにゃ~!」
「わ~! すごいにゃんね!」
「にゃほほう! 仕掛け扉か」
――あ、ちょっと待って、『にゃほほう』に笑いそうになっちゃった。
猫妖精たちも仕掛け扉とかにテンションが上がるんだなとか思いつつも、ナツメさんの素の感動詞でツボりかけるとか、危ない、危ない。
周りには私たちしかいなくても、私の声は普通に聞こえてしまうからね……。
この建物内を制あt……じゃない、掌握するまでは、あんまり声を出さない方がいいもんねと、声を漏らさないように手で口を抑えながら、ルー兄が出現した扉を開けるのを見遣った。
開かれた扉の奥には小さな踊り場のようなスペースあり、右手側に下へと向かう階段が伸びている。
幅は大人一人が少し余裕を持って通れるくらいだろうか。
足元には点々と魔道具の灯りらしきものが点いている。
――ふむふむ、地下ですか!
隠し扉からの、地下空間!
辛うじて声は漏れていないが、若干、鼻息がふすふす言っている気がしないでもない。まぁ、猫妖精たちの鼻も、ちょっぴりふすふす言っているから問題なかろう。
みんなが階段の方へと入ったあとで扉を閉めたルー兄が、私たちを先導するように前へ進み、階段を降り始めた。その後を浮遊魔法で浮かびながら付いていく私、私のポッケにレイ、そのすぐ後ろに獣人型になったナツメさん。トラさんとロックくんは猫姿でナツメさんに抱えられている。最後尾がアルベルト兄さんだ。
音を立てずに静かに進む中で、ふと思った。
そう言えば、私の〈MAP〉スキルって、間取りまで見られたはずだと。
MAP自体は旅の途中でちょくちょく開いてはいたものの、間取りが見えるほどに拡大して見たのはスキル検証した時だけだったので、すっかり忘れていたのだ。
あとで、折を見て間取りを確認してみよう。
階段を降りきり、少し開けた所を少し進んだ所で、ルー兄が止まった。
止まった先には曲がり角があり、ルー兄はその角から通路先の様子を窺う。
その横で壁を背にして、先をチラ見し、シュバッと身を引くナツメさん。
ナツメさんの足下から先をチラ見して、シュバッと顔を引っ込めるロックくん。
ロックくんの隣でロックくんとは反対側を警戒するような素振りをみせるトラさん。
――いやいや、君ら、どこで刑事ドラマ観てきたの?
大体、そういう行動を取るなら、まずは、このスパイルックな私からでは?
そもそも、今の私たちは、私たち以外には見えないし、猫妖精たちはもっと隠れる必要なんてないはずなんだけど……。
それに、やりたかったことを先にやられてしまったらやりづらいし、チラリと見遣ったルー兄が無表情のまま猫妖精たちの行動を見ていたので、何となく、私もやりたかったということは悟られないようにしようと思った。
そんなアレコレはさておくとして、通路先の様子を窺っていたルー兄が動いた。
向かったのは、曲がった先のすぐ右手側にあった部屋。
扉が閉まっている上に、どうやら鍵もかかっている様子。
ルー兄は壁際に身を張り付けるように立ち、そこから扉のドアリングを引っ張り、扉をガタガタと揺らし、結構な音を立てた。
――えっ! ルー兄!?
ルー兄の行動にビックリしている間に、扉の中から声がする。
「誰だっ!」
その声が聞こえた瞬間、ルー兄はそっと扉から手を離し、息を殺した。
その行動に、『これはもしや……?』と思いつつも、とりあえずルー兄に倣って、私たちも息を潜める。
「誰かいるにゃ」
「バーンと入っちゃうにゃ~か?」
「まだ動かない方がいいと思うにゃん」
「「「「………………」」」」
若干、猫の形をした奴らが普通に喋っているけれど……。
さっきの隠密ムーブは何だったのだ。
やるなら、ずっとやり切ってほしいものである。
私が猫妖精たちに気を取られている間に、扉の中から誰何した人物が扉を開けたのだろう。
扉を少し開けて、外の様子を窺う素振りを見せた。
しかしながら、今の私たちの姿は見えていないはず。
「……誰もいない?」
扉を開けた人物が不思議そうな顔をした瞬間、ルー兄が、その人物の意識を刈り取った。
――わぁ、お見事。
気絶させた人を引きずるようにして、その人ごと部屋の中へと入るルー兄。
それに続いて、私たちもその部屋の中へと入った。
部屋の中には、他に誰もいないようである。
まぁ、ルー兄はそれが分かっていたから、この部屋の中に入ったのだろう。
気絶した人は、暗色系の服を纏った二十代後半~三十代前半っぽい男の人だ。部屋の壁際に、濃紫のローブっぽいものが掛かっているけれど、あれもこの人物のものだろう。
「ルー、こ奴は捕獲対象ではにゃいのではにゃいか? どうするのだ?」
「うん、コイツは監視者。傀儡人形部隊に命令を出しているヤツだよ。とりあえず縛っておきたいんだけど……」
ああ、ルー兄が辺りを見回していたのは、縛るものを探していたのか。
そういうことなら言ってくれればいいのにと、私は覚えたて(?)の植物魔法を発動した。
「〈ぐるぐる!〉」
個人的に納得しかねるトリガーワードだけど、『ぐるぐる』以外思い浮かばなかったから、いいや……。
魔法は問題なく行使された。
ルー兄曰くの『監視者』とやらの身体を、蔦植物が見事にぐるぐる巻きにしていて、さながら蓑虫のようである。
「あ、リリィ、ありがとう」
「うん、ぐるぐる巻きが必要な時は言ってね」
「分かった」
「リリアンヌ、念のために、こ奴の口元も塞いでおいた方がいいのではにゃいか?」
「あ~、うん、そうだね」
一瞬、『息、大丈夫かな』と思ったけれど、鼻を塞がないようにすれば大丈夫だよね。
「ルーファス、監視者とやらは他にはいないのか?」
「ここにはコイツだけだったみたい。俺が知ってる監視者はあと三人いるはずだけど、多分、任務中の部隊に付いて行ってるか、別の場所にいるはず」
「そうか。他の奴らも捕えたいところだが……」
「すぐには無理だろうね。まずはここに来た目的を果たさないと」
「そうだな」
ルー兄とアルベルト兄さんが話している間に、監視者とやらの口も塞いでおいた。
リリアンヌ、デキる女である――。
一人でむふむふほくそ笑んでいると、ルー兄に次の部屋に行くと声を掛けられた。
次に行くのは傀儡人形部隊の待機部屋のようだ。
アルベルト兄さんはこの部屋に残り、捕縛した監視者を監視する役をするらしい。
傀儡人形部隊は、命令がない限り、待機部屋からは一歩も出ないし、勝手に動くことも禁じられているらしいのだけど、ここで指示を出すためにいたであろう監視者はすでに蓑虫太郎にしたので、新たな命令は発令されない。
つまり、拉c……救出対象者たちは袋のネz……、保護しやすい状態だということだね!
そうして私は、次の部屋へと向かいだしたルー兄のあとを追ったのであった――。




