◆127・やたらとこだまするぽぉ~
クロに案内された人外さんたちの管理するお邸、略して『人外邸』にて、アルベルト兄さんの帰還を待ちつつ、ルー兄と作戦会議をしぃの、猫妖精たちとあれこれ食べぇのしたあと、私は新たな魔法を考え、試そうとしていた。
「……『人外邸』より、『妖精の宿』とかの方がいいかな?」
「にゃ?」
「どっちでもいいか……」
邸の呼び名はさておき、このあと、ルー兄と一緒に傀儡人形と呼ばれる部隊の人たちを拉c……保護しに行くのだ。その時に、拘束魔法を使う可能性大なのだけど、ふと、『今まで使っていた光拘束魔法は、使用を控えた方が良いのでは……』と思ったのである。
ロイド様の反応からして、『白い光』も『薄緑の光』も、『神聖なナニカ』に勘違いされかねないと気付いたのだ。
実際には、神聖さの欠片もない、ただのちょっと発光しちゃってるだけの魔法なのだけど、変な誤解を招いても面倒だしね。
元々、『拘束』で最初に思い浮かんだのは『植物魔法』だった。
ただ、「植物よりも光の方が、何か切れなさそう」と思ったから、光の方を使っていただけの話である。
だけど、よくよく考えれば、ただの植物ではなく、魔法で生み出す植物だ。
しかも、その魔法はイメージ次第でどうとでもなる世界。
なので、植物魔法でも、拘束するのに何の問題もないのである。
という訳で、植物による拘束魔法の試運転と、ついでに他の魔法も考えてみることにした。
まずは、植物拘束魔法。
これはもう、『蔓植物でぐるぐる』のイメージだよね。
今は拘束する相手がいないので、とりあえず、手の平から蔓をみょんみょん出してみることする。
「テケテケテンテン テンテケテンテン テケテケテンテンテーン♪」
うにょにょにょにょ――。
「お~! 出た!」
まぁ、『出た』というより、魔力を植物の形に変換しているんだと思うけど。
魔法の仕組みなんて、深く考えるとドツボにハマるだけだろうから、シンプルに『そういう世界だから!』でいいだろう。
「――っ!?」
「にゃっ!? 何だ!」
「リリアンヌ、手から何か出てるにゃ~よ!」
「うねうねだにゃん」
「ああ、うん、魔法だよ、魔法」
鼻歌唄いながら、何の前触れもなく、いきなりうねうねと植物を発生させたら、そりゃビックリするか。
――こりゃ、失敬、失敬!
「にゃぜ、いきにゃり……」
「ごめん、ごめん、ちょっとした実験をね……」
まぁ、植物拘束魔法は問題なく使えそうだし、今度は別のものを試してみよう。
植物……、植物か……。
『植物』『魔法』で思い浮かぶのは、『マンドラゴラ』なんだよねぇ。
他に有名な魔法植物って何? セ●ズ? いや、あれは魔法植物ではないか……。あとは……。
――うん、マンドラゴラか、エ●コンブしか知らないな。
とりあえず、マンドラゴラを生み出せるか、やってみちゃおうかな。
ああ、でも、害の出るものだと困るから、そこはイメージで何とかして……。
――よしっ!
「――召喚! マ~ン~ド~ラ~ゴ~ラァ~! テッテレ~ン♪」
実際には召喚でも何でもないのだけど、意気揚々と手の平を掲げ、魔法を発動した私の手の平に何かが乗ったのを感じ、確認してみる。
《ぽぉ~………………》
「………………」
――ナニコレ……。
私の手の上にいたのは、埴輪の頭から草が生えた謎生物だった。
私は『マンドラゴラ』をイメージしたはずだ。
人の身体っぽい根に顔が付いてて、頭には植物が生えている。それで、叫び声が煩いのは嫌だから、静かめに囁くような声で、その声が周りを害するものだと困るから、声は無害で……と。
うん、目の前の謎生物も、人の身体っぽい根(?)らしきハニワで、頭に草が生えている。
声は囁くように……というより、何だか今にも事切れそうなほど、か細い声だ。
マンドラゴラらしき、ハニワポォゴラの声を聞いた私も、みんなも、今のところピンピンしているし、問題なさそうである。
…………ああ、うん、一応、イメージには合っている……のか……?
「リリアンヌ、これ、何?」
「……私が聞きたい」
レイに真顔で質問されたけれど、これが何かは、私にも分からない。
思った以上……、うん、思った百倍くらいマヌケな感じのナニカが生まれてしまった……。
ちょっと〈鑑定〉してみよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――
◆パンドラゴラ
リリアンヌ・ベルツナーが植物魔法で生み出した新種の魔植生物。
葉の部分は万能薬の素材として使用可能。
根の部分を土に埋めて魔力水をあげると、新たな芽を出す。
――――――――――――――――――――――――――――――――
――マンドラゴラちゃうし!
何や、パンドラゴラて!
災い撒き散らして、最後に希望が残る……のか?
ああ、いや、万能薬の素材になるなら、希望と言えば希望……?
撒き散らしたのは、災いというより、困惑だけどねっ!
――てか、マンドラゴラわいっ!?
マンドラゴラをイメージしたのに、何ゆえにパンドラゴラなる別物が……。
《ぽぉ~………………》
これ、鳴き声? 何か、もっと、他のなかったんか……?
この見た目と鳴き声でパンドラゴラとか、ちょっと名前が大層過ぎではなかろうか? 『ポニワ』とかで良くない?
――てか、コレ、どうしよう。
「にゃふっ! これ動くのか? 植物にゃのか?」
「ゴーレムにゃ~か?」
「魔石は付いてないにゃんよ?」
どうやら、猫妖精たちはポニワに興味津々らしい。
てか、『魔植生物』って何だろ……。植物なの? 生物なの?
でも、魔法で出てきたから、ある意味ゴーレム?
「………………いる?」
「にゃ? くれるのか?」
「うん」
「ず、ずるいにゃ~! 僕もほしいにゃ~!」
「ほしいの?」
「ほしいにゃ~!」
「オイラも……」
「ん、シロもほしい」
――そうか、コレ、ほしいか……。
という訳で、最初に出てきたポニワはナツメさんにあげ、ロックくんとトラさん、シロにも出してあげることにした。
《《《《ぽぉ~~~……》》》》
何か、微妙に音程を変えて、ハモりだしたんだけど……。
「にゃははははっ! もっと! これ、もっとほしいぞ、リリアンヌ!」
「え~……」
「ん、この葉っぱ、魔力がいっぱいで美味しい……」
「え……」
シロが、ポニワの頭の草をムシャり始めたことにちょっと引きつつも、猫草代わりになるかな……なんて考えていると、聞きなれない声に名前を呼ばれた。
「リリアンヌ」
「ん?」
声のした方に振り向いてみたものの……、誰もいない。
だけど、私を呼ぶ相手が、私より背が大きい生き物とは限らない。
ということで、視線を少し下に落としてみると、案の定、そこには小さい猫妖精がいた。
淡いミルクティーのような薄茶色と白のハチワレ模様な毛並みを持つ、もふかわな仔猫ちゃんだ。
仔猫と言っても、レイよりは少し大きくて、ロックくんと同じくらいだろうか?
葉っぱのリュックみたいなのを背負っていて、めちゃくちゃかわいいのだが!?
「――っ!?」
――何だ! その、けしかたまらん短足は!
「あのね! リリアンヌにアルベルトからのお手紙を持ってきたにゃの」
「……にゃの」
「にゃう? どうしたにゃの?」
「――はっ! ……何でもないよ」
目の前の仔猫妖精がかわい過ぎて、意識が飛びかけていたよ。
「これ、お手紙にゃの」
そう言って、もふかわ仔猫ちゃんが、背負っていた葉っぱを差し出してきた。
「ありがとう。これ、手紙だったんだ……」
「これはね! 妖精にしか見えない、妖精のお手紙にゃの」
「妖精にしか見えない?」
――ん? 私は人間のハズ……。まぁ、ちょっと余計な記号が付いてるけども。
「あ! リリアンヌとアルベルトにも見えるにゃのよ」
「なるほど。妖精と、妖精が見える人には見えるってことね?」
「そうにゃの!」
――うむ、かわいい。
目の前の仔猫妖精にデレデレしながら、差し出された手紙を開いて読んでみた。
どうやら、アルベルト兄さんは急ぎの調査任務につくことになったらしく、この邸にいつ戻れるか分からなくなったようである。また連絡すると書いてあったけど、そういうことなら、アルベルト兄さんを待たずに、ルー兄と誘k……救出作戦に繰り出すことにしましょうかね。
アルベルト兄さんの手紙を届けてくれた仔猫妖精にお礼を言いつつ、何かほしいものでもあるかと聞いてみた。
「にゃう? ……じゃあ、あれがほしいにゃの」
仔猫妖精がキラキラした瞳で見つめながら、短くてかわいいお手手で指し示したのは、猫妖精たちに囲まれながら合唱するポニワであった……。
――そうか、アレ、ほしいか……。
ちょっぴり遠い目をしながら、私は仔猫妖精にポニワを差しだした――。
「ありがとにゃの♪」
「ドウイタシマシテ……」
《ぽぉ~………………》