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◆121・恐怖の寝起きドッキリ


「――ひぃぅっ!?」



 目覚めたら空の上という、寿命が縮まりそうな起床を果たしたリリアンヌです、ごきげんよう。



「おや、お目覚めですか? おはようございます」

「…………おはよう……ございま……す……?」



 私を抱っこした状態でレッサーワイバーンに乗っていた雪丸さんに、目覚めの挨拶をされたので、返事を返したものの、正直それどころではないほどに焦っていた。心臓に悪過ぎるぞ、何だ、この寝起きドッキリは……。



 夜明け前出発ということで、『起こしてね』と頼んでおいたはずなのだけど、雪丸さんは、私を起こすのは忍びないと、眠ったままの私を抱えていくことにしたらしい。雪丸さんは、度々こういう気遣いをしてくれるけれど、目覚めの瞬間に死を感じるような起き方をするより、普通に起こしてほしかったと、心の底から、そう思った――。



 昨日は、料理を済ませて簡易ホームを出れば、追い出されたロイド様たちが、アルベルト兄さんたちと一緒に鍛錬やら、手合わせっぽいことやらをしていたのが目に入った。ロンダンの騎士たちが、アルベルト兄さんとルー兄をベタ褒めしていたことから、二人は私が思っていた以上に強いのかもしれない。



 しかしながら、魔獣の群れの中を駆け抜けながら瞬殺していくおじいさんもいれば、一撃で魔獣を何十体も吹っ飛ばすおじさんもいる。かわいくてちびっこい猫な妖精が、自分の身体の百倍くらい大きい魔獣を斃したりだってするから、この世界の強さ基準がいまいち分からないままだったりもするのだけど。



 ロイド様たちには、追い出したことを何か言われるかと思ったけれど、どうもナツメさんに追い出されたと思っていたようで、特に何も言われることはなかった。このまま余計なことは言うまいと、リリたんはお口にチャックをした。



 その後、ロイド様を通じて、三賢人が再度、猫妖精たちに会いたいと言ってきたり、それをナツメさんがすげなく断ったり、ルシアスくんが『ゆーさん(夕餐)もいっしょに食べよ~』と突撃してきたり、ソファで転がっている内に寝落ちしたりなんかもして、そんなこんなで、目覚めたら空の上だった。恐ろしや。



 私と雪丸さんが乗っているレッサーワイバーンを操っているのは、ユージオさんである。ユージオさんと雪丸さんが並ぶと、『氷の貴公子と雪の執事』という、何かのタイトルみたいなスペシャルユニットにしか見えないが、それはさておき、他のみんなは……と、辺りを見回した。

 


 ロックくんはルー兄と、トラさんはアルベルト兄さんと一緒のようだ。

 レイとスライムたちは、私が寝ていたので、今は雪丸さんの懐の中らしい。



 ナツメさんは……、どうやら、ロイド様が操るレイヴンラニットに乗って……、いや、立っている。獣人モードのナツメさんが、ロイド様の後ろで両手を広げて目を瞑り、全身に風を浴びるようにして、モデル立ちをしているのだ。



 ――え、何してんの?



 ナツメさんは時々謎の行動をするけれど、過去一で意味不明かもしれない。

 風を浴びているように見えるけれど、実際には風除けの魔法がかかっているので、風圧など1Pa(パスカル)も感じていないだろう。



 ロックくんが真似をするんじゃないかという一抹の不安が胸中を過ったけれど、とりあえず、見なかったことにした――。



 一緒に空を飛んでいるワイバーンは、全部で十一頭。

 これだけ集まって飛んでいると、中々の迫力である。

 これで他国に入っていいの? と思ったりもしたけれど、ちゃんと許可はあるらしい。出国やら、入国やらのあれこれはお任せしていいようなので、私は、しばらくこの空の上からの景色を堪能することにした。

 

 

 陸路移動であれば、まだ視界に入ることはなかったであろう海が見えている。

 海面に朝日が煌めき、思わず、うっとりと眺めた。まだ夜が明けたばかりだからか、少し紫がかった朝焼けがなんとも幻想的で、反射しているのは朝陽だというのに、まるで海の中に星が散りばめられたかのようである。



 ここ数日のゴタゴタで、ちょっぴり荒みかけた心が浄化された気がした――。



 そうこうしている内に、ロンダン帝国の端っこの港町『ルプロ』へとやって来た。この街に一度降りて、出国手続きをしている間に、一時休憩するらしい。



 朝市に行くという話を聞いて、『魚や貝や海老などが焼き売りされ、海鮮スープの屋台が……』なんて美味しい想像を脳内で巡らせ、ちょっぴりウキウキする。



 しかし、現実は残酷だ――。



 売っているのは、魚の干物か樽で塩漬けされているらしき魚ばかりで、魚介の焼ける美味なる香りなど微塵も漂っていない。ひたすらに、しょっぱ生臭い匂いがするだけで、想像していた港町の朝市とは大分イメージが違ったのである。



 ――解せぬ。



 全くもって、解せぬ。

 ベビーカステラがあるのに、魚介の食文化が遅れ過ぎではなかろうか。

 何だか、表情筋が死滅してしまいそうだ。き●に君、オラに力を――。



 貝、食べたかっ……、いやいや、ちょっと待って? 

 ここが保存食エリアなだけかもしれない……という気付きを得て、微かな希望を胸に、この街の出身だというロンダン騎士さんのあとを追って歩くこと、しばらく。ふと、何かが焼ける香ばしい匂いがした気がした。



 やはり! やはり、保存食販売エリアを通り抜けてきただけだったのだろう。

 そうだよね、そうだよね、そうこなくっちゃね!



 ――貝は、貝はどこかいや~!



 雪丸さんに手をひかれながら、忙しなく視線と嗅覚を動かしている間に、お待ちかねの屋台エリアへと辿り着いた。



 貝、貝、貝! 

 あちらこちらで貝を焼き売りしている。

 魚や蟹もあるが、とりあえず貝が食べたい。

 思わず、近くで焼かれている貝をガン見してしていると、ユージオさんに声を掛けられた。



「リリィ嬢は、カッキーが食べたいようですね」

「カッキー?」

「ええ、凄く見ていたでしょう。ふふっ」



 私が見ていたのは牡蠣っぽい貝で、どうやら『カッキー』という名前らしい。

 何だか、どこぞのご当地キャラのような名前だが、ほぼ、まんまだ。



 それより、ユージオさんって普通に笑うんだな……とか、ちょっと失礼なことを考えてしまった。クール系美青年の微笑みなんて破壊力の高いものを発動されると、思考が飛びそうになるので、できれば直視は避けたいところだが、アリガトウゴザイマス。



 それはさておき、今はカッキーである。生カッキーもあるけれど、さすがにここで生カッキーを食べるのは、ちょっと腰が引けるかな……。



 ユージオさんがカッキーを買ってくれたので、ありがたく頂戴することにした。

 飲食エリアとして置かれているテーブルの椅子に腰掛けて、カッキーを食することにする。まずは、そのままちょい齧り。



 ――うむ、塩味。いや、潮味だ。海味とも言えよう。

 


 美味しいけどね。

 私は、マジックバッグから、小瓶に入れておいた醤油をそっと取り出した――。

 


 紅葉おろしにポン酢も試したいところだけど、ここは醤油だけで我慢しておくことにする。こそこそちょいちょいとカッキーに醤油を垂らし、カプリと齧り付く。



「むははははははっ♪」



 思わず、レディらしからぬ笑い声が零れてしまったが、致し方ない。

 カッキー、美味しい。



 笑いながらカッキーを食べていると、あちこちの屋台に散っていたみんなが集まってきた。猫妖精たちは、周りにいるのが、見えずとも自分たちがこの場にいることを把握している者ばかりだからか、堂々と屋台料理を食べている。



 なんなら、ロイド様とミルマン兄さんに「あれ食べたい、これ食べたい」と、いろいろねだっていたし、そもそも、この朝市の屋台で朝食を取ることになったのは、ナツメさんの強い希望だったらしい。



 ――ナツメさん、ナイスおねだり!



 デイジーを追ったり、隷属魔法を解除しにいくことが旅の目的ではあるけれど、修行僧でもあるまいし、途中で美味しものを求めたって(ばち)は当たらないだろう。



 美味しいものは、心と身体に活力を与えてくれるものなのだ――。

 もぐもぐ。

 あ、醤油要ります?


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>生カッキー 魔法で浄化的なことはできないのかな……?
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