◆120・お母さん!
ロイド様に訓練場っぽい所へと案内されたので、端っこを借りることにした。
ルー兄とアルベルト兄さんは、丁度良いとばかりに、その場で組み手を始めた。元気だね。
私は、人目が気にならないように、毎度お馴染み高野豆腐型簡易ホームを一時的に設置させてもらい、そこでこそこそと料理をしようと思ったのだけど……
簡易ホームの中は、只今、満員御礼状態である――。
「にゃぜ、お前たちまで入ってくるのだ!」
「気になるもので……」
「ちょっと狭いにゃんね」
「何か、いっぱいにゃ~」
「……………………」
ロイド様には、魔法を使うところを既にいろいろと見られてしまっているけれど、今回は、わざわざナツメさんに簡易ホームを作ってもらうフリまでしてもらったのだ。なのに、簡易ホームの中に入ってこられたら、意味がない。さすがに、浮遊魔法を駆使して料理をするところは見せたくないのだけど……。
そもそも、私が料理をするための簡易ホームなのだ。
まぁ、猫妖精たちは毎度入ってきちゃうし、レイは私のお腹ポッケの中だ。それに、雪丸さんはいつもお手伝いしてくれるので、人外メンツはいいとしても、他の人が入ることは想定していない。
ロイド様が入ってきたら、必然的に側近二人も付いてくる。
そして、ついでとばかりに、ユージオさんとキースさん……だっけ? 家名は忘れた……。その二人も来ちゃって、ぎゅうぎゅうだ。
私は密かに、ロイド様たちと私たちの間に土壁を発生させ、それと同時に簡易ホームの一部の壁を一時消去。ロイド様たちを簡易ホームから押し出すように土壁を動かし、そのまま入り口を封鎖した。
入り口を閉じても、空気穴と明り取りは健在だ。しかも、簡単には覗けないように、かなり上の方と、地面スレスレの下の方に穴を空けたし、煙突も作った。明り取りは、天井部分の一部を摺りガラスっぽい結界を張ることで確保している。もちろん、張った結界は、空気を通す仕様。
過去の失敗は繰り返さない。
それがリリアンヌ・イイオンナーである! むふふん♪
何だか外から、「何が起こった!」「なぜ、外に!」と言う、てんやわんやな声が聞こえてくるが、むしむし茶碗蒸しである。茶碗蒸し作ろう。あ、ついでにプリンも作ろうかな。
それにしても……と、材料を取り出しながら、考える。
『帝国』という割には、帝国感がないというか……。『帝国』と聞いてイメージするドッシリ感……? 強者感? そういうものが、あんまり感じられないね、今のところ。まぁ、強者感やら何やらというのは勝手なイメージだから、何とも言えないけれど。
どの道、私はロンダン帝国民でもないし、ロンダンのことにはそれほど興味はない。それに、レギドールのゴタゴタを終わらせたら、森に戻って、悠々自適な自己中生活を満喫する予定だ。なので、それ以上を考えるのは放棄した。
レイには、暫くお腹ポッケから出てもらうことにすると、レイは、ナツメさんの頭の上を陣取った。ナツメさんの頭の上に、お腹をペシャッと付けるようにして乗っているのがかわいい。このセットをぬいぐるみにして飾りたい。帰ったら、ぬいぐるみもたくさん作ろう。
さて、料理しますか――。
「リリアンヌ~、これには何も入れないにゃ~か?」
似たような見た目の液体を器に入れていたからだろう。ロックくんが、そっちには具を入れたのに、こっちにはなぜ入れないのだという風に、茶碗蒸しとプリンを見比べながら、聞いてきた。
「ん? これはプリンだからね。何か足したいなら、できたものにトッピングをするよ」
「こっちとは違うにゃ~か?」
「こっちは茶碗蒸し。ご飯の時に食べるやつね。プリンはオヤツの時に食べるやつだよ」
「おやつ!? これ、おやつにゃ~か?」
「うん、できたらちゃんとあげるから、落ち着いて」
割とお手軽に作れるオヤツであるというのに、プリンは作ってなかったんだよねぇ。芋けんぴやら、ドライフルーツ、クッキーにパイという、喉が渇く系のオヤツばっかり作っていたからね。次からは、ぷるぷる系にもちもち系、しっとり系のオヤツも作ろう。
とりあえず、今日は蒸し料理をたくさん作ろうかな。小籠包食べたい。
という訳で、蒸し料理を中心に、雪丸さんに手伝ってもらいながら、作り置き料理を大量生産していく。
途中で猫妖精たちがつまみ食いをするのはいつものことだ。むしろ、そのためにここに入ってきていることは分かっているので、つまみ食い用に、余分に作っていたりもする。
「にゃっ、熱っ!」
「あちちにゃ~!」
「リリアンヌが『熱いから、まだだよ』って言ったにゃんよ……」
熱いからねと注意をした上で、順番に割って冷ましてあげようとしていたところで、ナツメさんとロックくんは、待ちきれないとばかりに、小籠包にガブリと齧り付いたのだ。
できたての小籠包は、揚げたての唐揚げよりもデンジャラスだというのに……。
「どう見ても熱そうなのに、あんなに大きく齧り付くなんて……」
「ほら、これで冷やしてください」
レイと雪丸さんは、少々呆れた目を向けながらも、水球と氷を出してあげている。
「何か、ベロが変になったにゃ~よ……」
「吾輩も、何だか上顎が……」
――にゃんだかも何も、火傷したんでしょうよ……。
「〈ヒール〉」
「にゃ? 戻ったにゃ~!」
「おお! 痛くにゃい!」
「熱いよって言ったでしょ。治ったからって、同じことしちゃだめだよ」
「気を付けるにゃ~」
「吾輩も……」
食いしん坊やんちゃコンビは、しおらしい態度を取っているが、きっと数分で元に戻るだろう。
「もういけるんじゃないにゃ~か?」
「そうだにゃ、話している間に、冷めたであろ」
――数分どころか、秒で戻ったか……。
「まだ湯気立ってるでしょ……」
やはり、二人にはソウさんという抑止力が必要なのでは……と思ったところに、ソウさんが現れた。
「わっ! ソウさん!」
「にゃっ!? ソウ?」
「おや、リリアンヌの料理ですか?」
「うん、ソウさんも食べる?」
「ええ、いただきます」
「ソウ、にゃぜここに……」
「様子を見がてら、お土産をと思いまして」
「お土産?」
「ええ、どうぞ」
そう言って、ソウさんが渡してくれたのは、ベルベリーという果実である。
ベルのような帽子を被った、でっかいドングリみたいな形のもので、見た目がかわいい上に、色んな味があるファンタジー果実だ。木の蔓で作ったと思われる籠いっぱいに、ベルベリーが入っていた。
「わ~! ありがとう」
「ベルべリーがいっぱいにゃ~!」
「ロックもトラも、好きでしょう」
「好きにゃん!」
「吾輩も好きだぞ!」
「……知ってますよ。貴方も食べればいいでしょう」
ナツメさんは、一応、ロックくんとトラさんの保護者という立場なのに、全く保護者感がないね……。
子供と一緒に悪ノリして、お母さんに叱られるお父さんみたいなタイプだ。もちろん、お母さんは、ソウさんである。それを我関せずと、傍観してマイペースに生きる長男がセキさんというところだ。きっと、一番の苦労性は、次男タイプのトラさんである。やんちゃな末っ子ロックくんと、お調子者のやらかし系ナツメ父さんに挟まれ、とばっちりを喰らうタイプだ。かわいそうに……。
なんて、勝手に猫妖精ファミリー劇場を脳内で繰り広げてみたのだけど、思った以上にハマっていると思う。その内、ファミリーヴァージョンのぬいぐるみも作ろう。ソウさんぬいには、おばちゃんパーマと白エプロンを付けようと思う。見つかったら怒られそうなので、こっそり作ることにしよう。
その後、みんなでつまみ食いをしつつもたくさんの料理を作り、ソウさんにも、料理をお土産にと渡した。ソウさんは帰ってしまったけれど、また来ると言っていた。いつもピンポイントな場所に現れるのが不思議だったけれど、どうやらナツメさんを目印に転移しているらしい。原理が謎だけど、羨ましい限りである。
もう少しここで、もふもふたちとワチャワチャしていたいところだけど、料理もできたことだし、そろそろ出ましょうかね――。