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◆118・遺伝


 ケイトさんにこっそり睨まれたことに少々戸惑いつつも、面倒だし、見なかったことにしようかと思ったところで、突然、ケイトさんが横に転んだ――。



「きゃっ――!」

「……………………」

「「ケイト!?」」

「一体、どうし……」

「にゃふ~!」



 ――うん、ナツメさんが猫パンチした。



 まぁ、かなり軽めだったし、すぐに起き上がっているから、怪我もないだろうけども。



「……ナツメ殿?」

「我らが同胞に敵意を向けた。これは警告だ。次はにゃい」

「…………え? 敵意……ですか?」

「そうだ。アレをリリアンヌに近付けるでにゃい」

「――っ! 今すぐに……」

「殿下?」

「おじうえ? どうしてひとりでお話しているの?」

「ルシアス、話はあとだ。それより、誰か、ケイトをここから出せ」



 あらら、あらら、いつの間にか、大事に……。

 


「(ナツメさん! 私、何とも思ってないよ?)」

「にゃ? しかし……」

「どうして私が出なければならないのですか。摘まみ出すべきは、そこの平民でございましょう? 殿下の客人かと、黙っておくつもりでしたが、礼儀も弁えぬ汚らわしい冒険者を王宮に招き入れ、ルシアス殿下に近付けるなど、一体どういうおつもりですか! ルシアス殿下はいずれ皇帝になられるお方なのですよ!」



 ――おおぅ。



 まぁ、平民丸出しな冒険者スタイルですからな。

 地球産で着心地は抜群だけど、今の私は、さながら、高級レストランにジャージで入り込んでしまったヤツ状態であることは、否めない。

 こんな格好で王宮に入っていたら、そりゃ怒られても仕方ないとは思うんだけども……。



 しかし、気付けば、ナツメさんだけでなく、レイもロックくんもトラサンも威嚇モードだし、ふと雪丸さんの方を見遣れば、足元から氷結地帯がじわじわ広がり始めていた。やめて~! でも、それ、ちょっと格好良い……。



 それに、ルー兄、何でマントに手を突っ込んだままなの!? 知ってるよ! そこ、アナタがぶっとい釘みたいな武器を、みっちり仕込んでる所でしょうが!

 アルベルト兄さんに、『何とかして……』という視線を送ったものの、笑顔で首を振られたのは、なにゆえなのか……。



「黙れ。ルシアスにはまだ継承権すらないというのに、戯言を……。ハインリヒ、今すぐ連れ出せ! 拘束を忘れるなよ」

「御意」

「な……、どうし……ロイド殿下! ルシアス殿下!」

「え、あ……、おじうえ?」

「ルシアス、迎えが来るまで、ここで大人しくしていなさい。話はまたあとでだ」

「…………はい」



 ケイトさんとやらは、ハインリヒさんに引きずられるようにして、部屋を出ていった。

 とりあえず、お怒りモードの我らが一行を宥めないと……。



「ナツメさん、それにみんなも、私は気にしてないよ」

「リリアンヌが気にせずとも、吾輩たちは気にするのだ。アレは、リリアンヌを見下し、敵意を向けていたからにゃ」

「あ~、うん、まぁ、でも、ちょっと睨まれただけだし、気にするほど興味なかったから……」



 正直、『あ~、こういう人もいるんだなぁ』とか、結構、他人事目線で見てたから、特に何のダメージも喰らっていないのである。

 それに、雪丸さんとルー兄にはギョッとしたけど、それ以外は、『ナツメさん、ちょっと過保護じゃないかしら……』と思いつつも、『にゃふ~とか言って、怒っているナツメさんもかいわいいな』とか、『チビ猫組も、怒っている顔がかわいいな』とか、猫ばっかり見てたし……。



「ちょっと? リリアンヌ、アレはリリアンヌが思っている以上の敵意を向けていたぞ。殆ど殺気に近いものだ」

「え?」



 嘘やん……と思いつつ、周りを見渡せば、気まずげに頷かれた。



「そうなの? でも、私個人に……というよりは、平民とか、冒険者に対する敵意って感じだと思うけど」

「それは間違ってはいないと思うが、それも問題なのだ」



 その後のロイド様の説明によると、元々、アーメイア大陸では、冒険者を見下す傾向が強かったのだけれど、最近はカレッタ王国を皮切りに、それを改めようという方針のようなのだ。



 しかも、今回の魔獣事件を受けて、カレッタ王国との協力体勢を築こうとしている中で、現在のカレッタ代表とも言える、赤き竜のパーティがいる場での、先ほどのケイトさんの発言。一歩間違えれば、外交問題である。



 幸い、赤き竜のメンバーは、この件に関しては外交問題にするつもりはないようだ。自分たちのことより、『妖精殿がお怒りに……』と、あわあわするミルマン兄さんを見て、それどころではないという感じのようでもある。



 それに、問題は他にもあったようだ。

 ロンダンでは、どんな皇族も十歳時にとある条件を満たさなければ、帝位継承権が発生しないのだそうだ。なのに、現時点で五歳児のルシアスくんについて、『いずれ皇帝になるお方』という発言をしてしまったことも、大問題らしい。



 既にお疲れモードが見え隠れしていたロイド様が、更にお疲れ感を背負い始め、一気に老けたように見えた――。

 ちょっとかわいそう……と思いつつも、『何だかゴタついてますし、旅は私たちだけで……』と言ってみたところ、「それは、それ! これは、これ!」みたいな感じで、ちょっと怒られてしまった。



 しかも、猫妖精組に『ワイバーンに乗りたい』と言われ、ワイバーンツアー離脱計画はあっさり頓挫したのである――。



 まぁ、レギドールには早く着いた方がいいのも確かなのだ。

 当初の予定であれば、アールティから、レギドールへと渡る船に乗るための港町までは五日はかかる予定だった。

 それが既に、たった数時間で、目的地の中間地点にある帝都に着いている。

 更には、ワイバーン移動であれば、船に乗らずに、飛んで海を越えられるのだ。

 


 という訳で、明日の夜明け前に、早速出発することになった。

 夜明け前ということは、五時くらいだろうか……。

 自分で起きれる気がしないので、起こしてねと頼んでおいた。



 とりあえず、今の内に料理の補充をしたい。

 ちょいと庭先を貸してもらえないだろうかと、ロイド様に言ってみたところ、何だか、すっごい花園に案内された。



 ――違う。



 誰が王宮の絶景スポットを見せてくださいと言った?

 ちゃんと「料理ができる庭先を貸してください」と言ったはずだ。

 火の使える訓練場みたいな所を貸してほしかったんだ!

 しかもよく見れば、ガーデンパーティー仕様で、料理まで並んでいる。



「???」

「ほら、好きなだけ食べるといい」

「………………」



 料理がしたかったのに、なぜか『庭で料理が食べたい』と伝わっていたらしい。

 え? 直通で、伝言ゲームに失敗するなんてことある?

 改めて、『料理をしたいので、火が使える場所を貸してほしい』と言い直した。



「え? 君が料理するのか?」

「そうです。あ! あと、魔法は使っても問題ないですか?」

「魔法? 何をするつもりだ?」

「料理です」

「え?」



 どうやら、私が料理するという考え自体がなかったために、先の伝言ゲーム失敗事件が起こったらしい。ついでに、魔法を使って料理をするということも想像できないようだ。

 


 とりあえず、料理はあとですることにして、庭園に用意された料理を、みんなでいただくことにする。

 手違いといえど、せっかく用意してもらったしね。

 まぁ、ベビィカでお腹いっぱいだから、私はそんなに食べられないけれど。

 私以外は、たくさん食べられそうなので、みんなにお任せしよう。



 こうして、意図せず起こったガーデンパーティー。

 いつの間にか、庭園にはロンダン皇族が増えていた――。

 


「ちちうえ!」



 ルシアスくんが父上と呼んだ人は、紺髪に金眼で、ロイド様を大人っぽくしたような人だった。

 眼の色が違うだけで、『ロイド様、大・中・小』という感じだ。

 まぁ、ロイド様とルシアスくんの方がこの人に似ているんだろうけど、この人の名前知らないしね。



「おや? 随分、かわいらしいご令嬢だね? 君にはドレスの方が似合いそうだ」

「ちちうえ! この子はリリアンヌです。にんげんになっている、ようせいです」

「ん?」



 ――私が『ん?』だわ。何を言っているのかね、ルシアスくん。



「はねは、はえないそうです」

「……うん?」



 ――うん、翅は生えない。



 それより、問題は『翅』じゃない。変な紹介ヤメテ?

 何がどうして、『人間になっている妖精』という解釈になったのかな?

 君の中で、変な化学反応でも起きちゃったのかい?



 ルシアスくんの迷珍発言で、私も、ルシアスくんの父上殿も、頭いっぱいの疑問符に埋め尽くされているよ?



「ルシウス兄上、リリアンヌは、ベルツナー卿の孫だそうです」

「………………狂気の……妖精?」



 どうやら、珍解釈能力は遺伝だったらしい――。


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― 新着の感想 ―
過剰反応じゃなくて、国の方針からしてもヤバいレベルでダメなメイドだったのねケイトさん……  いまごろ処されてるかな……
側近だかメイドだか知らないけれど、たかがお付き風情が客人の前で感情を表に出すだけでも失格なのに、王族の客に暴言を吐いて侮辱しまくり殺意を向けるなんぞありえんわ、簡単に外交問題になるぞ、偉いのはお前の主…
こんばんは。 凄いなこのケイトとやら…処刑されても文句言えんレベルでやらかしとるww
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