◆115・Re☆t
いつの間にやら、すやすやすぴぃ……と眠ってしまった私が目覚めると、見知らぬ場所にいた。
「知らない天井だ……」
――いや、ホントに。
ちょっとお高めの宿に泊まった時より、寝心地の良いベッドの上にいるようだ。
まぁ、マイベッドが最強だな……と、視線を右に遣れば、レイが丸まって寝ていた。
――うむ、レイがいるなら問題なし。
続いて、視線を左に遣るば、ロックくんとトラさんがヘソ天で寝ていた。
――うむ、安定のヘソ天で問題なし。
最後に足下に視線をやれば、獣型のナツメさんがヘソ天で寝ていた。
――うむ、でけぇ。
とりあえず、猫もふに囲まれていたので、問題なしである。
むくりと身を起こせば、ベッド脇のソファに雪丸さんが見えた。
「お目覚めですか?」
「はい、お目覚めました。ここは?」
「最初に通された部屋の隣室です」
「なるほど。私、どれくらい寝てました?」
「二刻ほどですね」
ということは、四時間くらいか。結構、寝てたね。
他の人は……と、聞こうとしたところで、ノックの音がした。
私が眠っている間に、ルー兄とアルベルト兄さん、それからジルくんたちは、ロイドさまたちと一緒に、魔獣騒動についての会議に行っていたようだ。
現時点で判明したことをサラッと教えてもらったところによると、レギドールの一部の人間が、マギリアの一部の人間と手を組み、ロンダンの一部の人間の手引きによって、魔獣や人を使った何かしらの実験ついでに、ロンダンで暴れた……ということらしい。
レギドールの一部の人間というのが、アルベルト兄さんが調査しようとしているデルゴ……リラ? 枢機卿の一派で、あの死亡した司祭が所属していた派閥でもある。
マギリアの一部の人間。これは、あの特殊馬車に乗っていた、紺色ローブを纏った一派だ。
どうやら、捕まったあの二人のローブおじさんが、一派のトップだったらしい。
それから、ロンダンから手引きをした一部の人間。これは、特殊馬車に乗っていた内の、いかにも貴族ですって感じがした人の一派。実は、変装の魔道具で姿を変えていたらしく、ロンダンの人たちもすぐには気が付かなかったらしいのだけど、どうやら、元皇族らしい。
元皇族と言っても、帝位継承権は持っているらしく、ちょっとややこしい人物のようだ。皇家から侯爵家へと婿入りした皇弟らしく、婿入りした時点で皇籍離脱したことになるのだけど、皇帝が次代へと代替わりするまでは、その人にも継承権が残ったままになるのだとか。
継承権云々に関しては、「ふ~ん、そうなんだ……」って感じなんだけど、場合によっては、戦争が勃発してもおかしくない騒動が起こったのだ。それを手引きしたとなれば、辛うじて残っていた帝位継承権も消えそうだね。
現時点では、『一部の者が起こした騒動』という話になっているけれど、皇弟がやったことは、国家転覆罪とか……内乱罪? 外患誘致? そんな感じのことなのだ。命が残るかどうかも微妙である。
まぁ、ロンダンのことはロンダンに任せればいいので、皇弟話はさておき、問題はデイジーである。
ジルくんたちからの情報で、『デルゴリラ枢機卿がデイジーを捜していたらしい』という話が出てきたのだ。デイジー個人を……というより、スキルの方を探していたみたいだけど。
そして、マギリアの人間と、何らかの交換条件を元に、手を組んでいたようだ。
交換条件の内容は、ジルくんたちも知らないらしい。ただ、何かとデイジーを交換する予定だったのでは……とのことだ。
まぁ、マギリア側のトップ二人が捕まっているのだから、その内、詳細も分かるだろう。
マギリアとレギドールの関係についてはともかく、デイジーの持つスキルは、悪用されれば大惨事になるのだと、既に証明されたも同然だ。
ゆえに、ロンダンもシフも、デイジーを野放しにはできない。
そして、A級冒険者パーティー、赤き竜を通して、カレッタ国も協力体勢に入ることになったようだ。
デイジーが何者かに連れ去られた……或いは、殺されたマンゴーゴリラ? 司祭とは別の、デルゴリラ一派の誰かと一緒に去った可能性が高いと見て、デイジー捜索隊が組まれることになり、ロンダン、シフ、カレッタ、それぞれから、捜索隊のメンバーが出されるのだそうだ。
私たちは当初の予定通り、まずはレギドールを目指すつもりなのだけど、その道中で、デイジーに関する何かが判れば、協力するということになった。
ふと、猫妖精たちなら、デイジーから漏れた魔力臭で行き先を掴めるのでは……なんて思い、猫妖精たちに聞いてみたところ、アールティの街の近くから、ぷつんと臭いが途切れているらしく、分からないとのことだ。
恐らく、デイジーのスキルを一時的に抑えるための魔道具か何が使用されているのではないか、と。
つまり、地道に捜せ……ということですね。はい。
まぁ、元々、デルゴリラの悪行をどうにかしよう……というのも、旅の目的のひとつだ。
そこにデイジー問題が絡んでいるなら、それも一緒にどうにかできれば、どうにかしよう、という話である。
……ということで、魔獣騒動で思わぬ足止めを喰らったけれど、私たちの旅も再開させることとなった。
出発は明朝。
街の封鎖は、まだ解かれていないらしいのだけど、旅の目的と事情を知ったロイド様により、私たちの出立は許可されている。
今日は、この迎賓館で宿泊させてもらうことになっていて、食事も寝床も、用意してもらえるらしい。
できれば、街で買い物したかったし、料理の補充もしたかったのだけど……。
買い物はともかく、料理の補充は、この街を出てから、どこかで野営して作らせてもらおうか。
ざっくりとした予定を立てたあと、じぃじにもう一度会いに行った。
どうやら、じぃじはあと数日したら、シフへと一時帰国する予定らしい。
また暫く会えなくなるけど、手紙はまめに出すことにしよう。
じぃじとの時間を過ごしたあとは、迎賓館に用意してもらった食事を取り、湯あみをして、早めに就寝した。
四時間もお昼寝したのに、何の支障もなく、ぐっすり眠りましたわ。
――おはよ~!
雪丸さんに起こしてもらい、準備を整えたら、別の部屋に泊まっていたルー兄たちと合流した。
用意してもらった朝食をみんなで食し、一息ついたら、出発だ!
レイをお腹のポッケに装備し、いつものポンチョを羽織る。
そして、ポンチョの両ポケットに、珠青と望湖を追加装備。
左にロックくんとトラさん、右にナツメさんを侍らせれば、準備は万端だ!
どうよ! この、もふもち布陣!
――かんぺきっ!
大満足で迎賓館を後にし、ベティちゃんの元へと向かった私たちは、魔馬車前にて、思わぬ攻撃を喰らうこととなった――。
「リリアンヌ嬢も、レギドールに向かっていた最中だとか。……という訳で、これからよろしくお願いしますね」
「えぅ?」
――これからよろしくとは、これ如何に?
「どうやら、ミルマン殿も、私たちと同類だったようだしな。見える者同士であれば、いろいろと都合も良かろう」
「んぇ?」
――いろいろ都合が良いとは、なにゆえに?
何がどうして、こうなったのか……。
ちょっと……いや、大分、意味が分からないけれど、なぜか、ロイド様一行とミルマン兄さんパーティーが、私たちと一緒に旅をすることになったのである――。