◆114・だって、五歳児だもの。
リリたんが、ベルツナーに戻らない大きな理由。それは……
――そう! 寿命延びちゃった問題である!
ロック鳥のお肉を食べてしまったことで、寿命が延びてしまったらしいのだけど、正確な長さが判らないのだ。
ロック鳥のお肉に関して、白竜様に詰め寄ったところ、食べた量と寿命は比例しないらしく、食べた人の魔力性質によって、寿命の長さが変動するのだとか。
鑑定結果には「ちょっと延びる」とあったと言うと、「鑑定結果がどの視点で出ているかによる」と言われて、白目を剥いたものである。つまり、人間が基準値になっていない可能性があるということだ。
何でだよ! 普通は使っている人が基準値になるんじゃないの?
人間の『ちょっと』と、竜の『ちょっと』は、月とスッポンくらいに差があるんだぞ!
更には、延びた寿命に合わせて、老化も遅れるらしく、人の世界で生きていくには不安が………………あれ? もしかして、リリたんが『人族α』とやらになったのは、このせいか?
だとすれば、寿命が人の範疇を超えちゃったってことなのでは?
「か………………」
ふと思い浮かんだ仮説に、思わず固まってしまったけれど、延びた寿命を元に戻そうとするのは、何だかリスキーな気がするので却下である。となれば、この事実を受け入れるしかないのだけど……。
「……………………」
――あれ? 別に問題らしい問題が思い当たらないな。
既に、今後も森で生活していく気まんまんな訳だし。
人の街には時々行くつもりだけど、場所を選べば老化が遅いとか、寿命の長さがバレることもないだろう。現に雪丸さんだって、そんな感じで時々人間の街に行ったり、冒険者活動をしているのだ。私も同じようにすればいいのである。
それに不死という訳でもない。事故死や病死のリスクは他の人と同じである。
人よりちょっと、若々しく長生きできそうというだけだ。
あとは、結婚問題とか?
でも、結婚なんてする気がないから、これも別に気にすることでもないし……。
――あれ? やっぱり、大して問題なかったな。
とにかく、じぃじには諦めてもらうしかないね……と、ベルツナーに戻るのはどうしても無理だと言うことと、旅の途中でもあることを説明した。
じぃじは、かなりショゲショゲにしょげていたけれど、文通を続けることと、ベルツナーではないどこかで、可能な限りじぃじと会うことを条件に、渋々引き下がってくれることとなった。
じぃじが引き下がったのは、私が妖精と一緒にいることもあるようだ。
じぃじに手紙を届けてくれたタツゴロウ親分の姿を見たことや、レイを見たことで、私が妖精と共にいることに疑いの余地はないと。まぁ、レイは妖精ではないけど、人ではないしね。
じぃじは、私が紹介した仲間も、実は妖精なのかと聞いてきた。
雪丸さんは霊獣だし、ルー兄とアルベルト兄さんは人間なので「違う」とだけ答えておいたのだけど、ルー兄たちもじぃじを妖精と疑っていたし、お互いに妖精疑惑を掛け合っているとか、おかしなものである。
じぃじとの話がひと段落した頃、じぃじとハインリヒさんが、誰ぞに呼ばれて出ていった。
私たちはこのまま、「この部屋でお待ちください」とのことだ。
この間に、ルー兄とアルベルト兄さんには、再度、私が人間であることを説明したのだけど、イマイチ納得された感がなかったのは、なにゆえであろうか……。
何だか釈然としない気持ちのまま、暫く経った頃、ロイド様が側近二人と一緒にやって来た。
このあと、魔獣騒動についての話し合いがあるらしいのだけど、その前に、レギドール人であるルー兄にも話を聞きたいのだとか。
しかし、ここへ来たのは、私とルー兄、そしてレイと猫妖精だけではなかった。
アルベルト兄さんに、雪丸さん、それからジルくんたちも一緒で、思った以上の大所帯であったことに、ロイド様も少々、面食らったようである。
とりあえずの自己紹介で、アルベルト兄さんがレギドールの聖騎士であること、ルー兄がその手伝いをしていること(になっている)、雪丸さんは道案内役で、一緒にレギドールに行くつもりの仲間であると話しておいた。
ジルくんたちについては、レギドールで強制隷属魔法にかけられ、ロンダンへとやって来てしまったものの、それを追っていたアルベルト兄さんとルー兄が一時捕縛し、私が強制隷属魔法を解除したという話だ。まぁ、概ね、間違ってはいない。
ちょっとアルベルト兄さんたちが、アーメイア大陸に来てしまった経緯を濁しただけである。
金竜様のうっかり発言が元で、亜空間を飛んできてしまった人です……なんて、言えない。
とにかく、そんな話をしたところで、ロイド様たちも、今回の魔獣騒動と、ジルくんたちへの強制隷属魔法に、何かしらの関係性を感じたようである。
という訳で、ロイド様は、アルベルト兄さんとルー兄へ、質問攻めを始めたのである。
枢機卿の話やら何やらの話は二人に任せておこうと、ボーッとしていると、同じく、人の話に飽きてきたロックくんが、ルー兄のバッグを漁り始めた。
ロックくん、ホント、ルー兄にはやりたい放題というか……。
まぁ、ルー兄に懐いてるんだろう。甘えているとも言える。
ルー兄も、猫妖精にはやたらと甘いから、バッグを漁られたくらいでは怒らない……どころか、『何探してるの?』と手伝ってあげるくらいだし。
そう言えば、ロックくんたちにもマジックバッグを作ってあげようと思っていたのに、うっかり忘れてたね……。大抵は、ナツメさんに預けているみたいだけど、自分でいろいろ持てた方がいいだろう。
ポシェット型であれば、すぐにでも作れるんだけど、ロックくんやトラさんは、獣型でいることも多い。ならば、リュック型の方がいいと思うんだよね。採寸しなきゃ……
「にゃ~? リリアンヌも、これ食べたいにゃ~か?」
「……え?」
ああ、私が、ボーッとロックくんを見ていたからか。
ロックくんが、バッグから出した焼き鳥を見ていると思われたのだろう。
別に、肉は見ていない。
「……なっ! 何だ⁉」
「……肉? 一体、どこから……」
「ん?」
声のした方を見遣ると、ハインリヒさん……確か、ウィスラー様……だっけ?
……ハインリヒさんでいいか。ハインリヒさんと、ブラッドリーさんが、ロックくんの方を見て、あわあわしているようだ。
そう言えば、猫妖精が見えないなら、二人には、焼き鳥が浮いて見えているのだろう。
あれ? ということは、ロックくんにバッグをあげても、人に見られたら、バッグが宙に浮いて飛んでいるように見えるのか……。
う~ん、何か、こう……、認識阻害魔法をバッグにかけたら、バッグも見えなくなるようにできるだろうか?
あ! そう言えば、ナツメさんがじぃじへの手紙にかけてくれた、特定の人しか見えなくなるような魔法があったような……。あれをバッグにかけてもらえばいいのでは? うむ、あとで、ナツメさんに聞いてみよう。
私が、相変わらず別のことを考えている間に、ロイド様がハインリヒさんたちに、「妖精殿がそこにおられるのだ」と説明していた。
まぁ、二人が驚いていたのは、私を乗せられるくらいの大きな妖精がいると思っていたら、思った以上に低い位置で肉が浮いていたこともあるようだ。
そう言えば、二人に会った時はナツメさんに乗っていたし、その時は、ロックくんとトラさんはいなかったもんね。
……なんて考えていると、ナツメさんが、ロイド様とブラッドリーさんにも、あの魔法をかけていた。
妖精も魔法も見えているロイド様が慌てていたけれど、ナツメさんの説明に納得して、落ち着いたようだ。ハインリヒさんにも、既に同じ魔法がかかっていることに、少々、顔が引き攣っているように見えたけど、反論はないようである。まぁ、あっても言えない気がするけど。
そんなこんなな遣り取りを見つめている間に、私は、いつの間にか眠ってしまったのである――。