◆113・幼女の祖父は人間である。
ミルマン兄さんから聞いた、妖精が見える人への恩恵は、私には無用の長物であることが判明したところで、私たちは領主館へと移動した。
領主館に行く前に、ベティちゃんのお迎えにも行った。
うちの一行とミルマン兄さん、そして、元傀儡人形組のジルくん、ジュゼくん、ヤニックくん、エリオくんも一緒だ。
元々、ミルマン兄さんが向かおうとしていた迎賓館は、領主館の敷地内にあるものであり、恐らく、私たちが通される場所も迎賓館であろうということだ。
そして、ジルくんたちも一緒なのは、行く当てがないというのもあるんだけど、なぜか私を「解放の使徒様」呼びし、一緒に行くと言って聞かなかったからだ。
彼らの言い分としては、私は『金竜様が遣わした御子』なのだそうだが、勝手な憶測や妄想で、金竜様の使徒やら御子やら何だとか、そういうことは言ってはいけないということや、私はただの一般人だということを、くどくど、せやかて……と、しつこく説明しておいた。
大体、金竜様の寵児やら守番やらがいる前で、何て恐ろしい妄想をするのか。
彼らの話を無言で聞きつつも、しっかり凝視していた雪丸さんが怖過ぎた。
氷漬けにされても、知らないからねっ!
とりあえず、『使徒様』呼びは止めてもらえたので、良しとしよう。
しかし、説明すればするほど、余計におかしな目で見られているような感じがしたけれど、きっと気のせいである。
そんなこんながありつつも、領主館へとやって来た私たちは、ミルマン兄さんの予想どおり、迎賓館へと通された。
ミルマン兄さんは、そのままパーティーメンバーの方へ行くことになったのだけど、その前に、ミルマン兄さんに付けられた腕輪を取ってもらうことにした。なぜか自分では外せなくて、困っていたのである。
この腕輪にはミルマン兄さんの実家の紋章と、ミルマン兄さん個人を示す刻印がされていたらしく、腕輪を騎士や貴族に見せれば、私がミルマン兄さんの庇護下にあるという証拠になったのだとか。街で離れることになった私が、万が一にも不当な扱いを受けないようにと、配慮してくれたのだろう。
その後、ミルマン兄さんと別れた私たちは、ロイド様の側近のひとりであるハインリヒさんに案内された部屋に入った。そして部屋に入るや否や、ハインリヒさんが私の前で膝を突いたのである。
「――ぅえっ!? 何ですか?」
「名乗りが遅れました。私はハインリヒ・ウィスラー。ロンダン帝国第二皇子であらせられるロイド殿下の側付き役を務めさせていただいております。此度は、お会いした当初の非礼をお詫びいたしたく……」
「え?」
「知らなかったこととはいえ、妖精の御子様に対し、無礼な振る舞いをいたしました。何卒、ご寛恕いただきたく存じます」
「……妖精の御子様って何ですか?」
「はっ! ご令嬢は、妖精殿に同胞と呼ばれる御子様であると伺っております」
「………………」
――ロォォォ~イドさまぁぁぁ~?
この人と、ブラッドリーさんとかいう人には、私に妖精が見えていることがバレてしまっているので、それはもう仕方ないとしても、「同胞」云々の話はしなくてもよかったでしょうに!
大体、『金竜様の御子』やら『妖精の御子』やら、『○○王子』みたいに、何にでも『御子』って付ければいいってもんじゃないんだよ。
「あの時のことは気にしていないので、お気になさらず。それより、私に妖精が見えることは伏せていただきたいので、『妖精の御子様』とか言われると困ります。そもそも、妖精の御子でも何でもない、普通の人間です」
「……では、以後はベルツナー嬢とお呼びしても?」
「あ、いえ、リリアンヌでお願いします」
「………………? 分かりました」
旅の間は『リリィ』で通すつもりだったけど、私がベルツナー伯爵の孫だということもバレてしまったし、名前まで隠そうとすると、要らぬ詮索までされかねないからね。ただ、ベルツナーに戻る気はないので、ベルツナーの名で呼ばれるのは困るのである。
それより、ルー兄とアルベルト兄が疑問の表情を浮かべているし、ジルくんたちの目がキラキラを通り越して、ギラギラしている気がする。怖っ。
どうしたもんか……と思っていたら、ナツメさんが、ジルくんたちに魔法をかけた。恐らく、ミルマン兄さんにもかけていた誓約魔法だと思うのだけど、ジルくんたちには妖精が見えていないので、事後承諾どころか、何の説明もなしである。
だけど、魔法陣が思いっきり光ってんですけども……
「ああ、妖精が見えない者には、妖精の魔法も見えないよ」
――だそうだ。
「にゃ、ついでだ。こ奴にもかけておこう」
そう言って、ナツメさんは、ハインリヒさんにも魔法をかけていた。
ナツメさん曰く、言ってはいけないことを言えなくなるだけの魔法だそうだ。対象の目の前にいなければかけられないようだけど、『発言力の強そうにゃ人間には、かけておいた方がよかろう』とのことだ。
アルベルト兄さんがちょっと引いていたけど、危険な魔法ではないので、いいか……と納得したらしい。ルー兄は無表情のままで、何も言うつもりはなさそうである。
そうこうしている内に、部屋に新たな訪問者がやって来た――。
「リリアンヌ!」
「あ、じ……お祖父様」
「「お祖父様?」」
そう、部屋にやって来たのは、じぃじである。
私が「お祖父様」と呼んだことに、ルー兄とアルベルト兄さんが、何とも言えない表情でこちらを見た。
――心外である。
とりあえず、じぃじにみんなのことを紹介し、みんなにもじぃじのことを紹介した。ルー兄とアルベルト兄さんは、困惑・混乱・疑問といった表情が顔面でくるくるしている。いつも、ほぼほぼ無表情のルー兄も、珍しく顔色を七変化させている状態だ。
――全くもって心外である。
私に祖父がいて、何がおかしいのだ。
「(……妖精ではなかった?)」
「(人間だって言ってはいたけど……)」
――聞こえてるぞ。
「(いや、この御仁も妖精なのか!?)」
「(妖精って、お祖父ちゃんいるんだ……)」
――何でそうなる!?
妖精にお祖父ちゃんなんて……あれ? いないのかな?
そう言えば、妖精の生まれ方なんて知らないや。今度、聞いてみよう。
二人へのツッコミはさておき、じぃじには、この魔獣騒動の件がひと段落したら、一緒にベルツナーに戻ってくれないかと言われた。
防音の魔道具とやらを持たされて聞いた話によると、どうやら、リリアンヌの父は、伯爵位を継がせるには不適格と判断されたようである。
じぃじには息子が一人しかいない。もう一人の子供は娘で、既に嫁に出ている。
父に継がせられないとなれば、次は父の嫡子であるイアンが候補となるはずなのだけど、イアンもデイジーのスキルの影響下からまだ抜け出せていないこともあり、父と同じく、後継者として不適格とされたらしい。
となれば、次は私、リリアンヌに婿を取り、伯爵家を継がせる……という話になってしまう訳だ。
まぁ、継ぐと言っても、リリたんはまだ五歳。すぐという訳ではないし、じぃじが後見に付く。それに、実際の領地経営諸々は、私ではなく、婿殿がすることになるので、私は伯爵夫人としての務めを普通に熟せばいいだけらしい。
婿殿に関しても、婿入りできる人物は限られるが、可能な限り、リリたんの希望を優先してくれるとのこと。貴族令嬢として生きていくつもりであれば、中々の好条件なのだろう。
――だが断る!
だってリリたんには、貴族として生きていくのが嫌だと言うこと以上に、深刻な問題があるのだから――。




