◆110・待ち受けるもの
ロイド様に街に戻ると言ったら、護衛を兼ねて街まで人を付けると言われたので、そんな鬱陶s……面倒k……、お手数はお掛けできませんと、そそくさバビュンと高速飛行で街まで帰ってきた。どうせ、またあの場に戻るかもしれないし。
街に戻ると、まずはナツメさんやルー兄と合流しようということになった。
ナツメさんたちと別れた場所へと戻り、みんなと合流すると、ライトバインドでぐるぐる巻きにされた蓑虫ボーイを差し出された。
「え……?」
何だこれ……と思いつつ事情を聞くと、どうやら、ルー兄と同じく強制隷属させられ、傀儡人形という組織に所属させられた少年らしい。
なぜここにいるかなどの事情は、私に隷属魔法を解いてもらってから聞くことにし、それまでは意識を刈った状態で待っていようということになったのだとか。
まぁ、意識があっても、隷属状態で話は聞けないだろうしね。
という訳で、蓑虫ボーイこと、ジルくんにかけられた隷属魔法を解除した。
ジルくんの意識は戻っていないけれど、その内、目を覚ますだろう。
ルー兄からは、逃げた魔法師が落としていったという魔道具をもらった。
ナツメさんが検分して、変な仕掛けなどはないと言うので、遠慮なくもらっておくことにした。
もらった魔道具は、マギリアの魔法師が持っていた派手な杖の魔道具に少し似ていた。あの杖をコンパクトにした感じだ。そういえば、ロイド様に後であの杖を見せてもらおうと思っていたのに、うっかり忘れていた。まぁ、いいか。
ルー兄に聞けば、この魔道具も火の玉を飛ばしてくるものだったらしい。
レギドールの魔法師が持っていたらしいけど、状況を鑑みるに、魔獣と共に街に向かってきた件の敵と何らかの繋がりがあると見て間違いないだろう。
となれば、やはりあのレギドールの司祭は、強制隷属魔法を使っている一党の一人だったのかもしれない。
死んでいた……というより、明らかに毒殺されたと見えるあの司祭について、ルー兄にも話をした。
外見的特徴を伝えたものの、『司祭服を着たモスグリーンな髪色の四十歳くらいのおじさん』としか分からない。
ルー兄によれば、恐らくデルゴリア枢機卿の一派である大司祭だと思うけれど、大司祭が海を越えてここまで来るのか……という疑問があるらしく、やはり直接見ないことには断言できないと言う。
とりあえず、アルベルト兄さんたちとも合流して話をしようということになり、猫妖精たちの案内で、アルベルト兄さんと雪丸さんの所へ向かった――。
「ぐるぐるボーイ、再び……」
そう、アルベルト兄さんたちの所へ行くと、今度は縄でぐるぐる巻きにされた少年が三人に、魔法師っぽいローブを着たおじさんが一人、騎士らしき人が五人が転がっていた。
アルベルト兄さんに話を聞くと、騎士団が誘導する避難場所へと向っていた途中で、偶然にも見知ったローブを纏ったレギドール人だと思われる者を目撃し、後を追ったら襲いかかられたのだとか。
なので、それを撃退した結果、量産型蓑虫ボーイズができあがってしまったと……。うん、それは仕方ない。
捕まえてすぐに騎士団へと連れていかなかったのは、少年三人が隷属状態であることに雪丸さんが気付いたので、まずはルー兄と私に見てもらおうということになり、合流するのを待っていたかららしい。
ルー兄によれば、捕縛された少年三人は、ジルくんと同じく傀儡人形所属のようだ。こちらも強制隷属魔法を解除し、目覚めるのを待つことにする。
ルー兄が担いできたジルくんもまだおねんね中なので、一緒に並べて寝かせておくこととした。
そして、魔法師っぽい人は、傀儡人形に指示を出す役割がある監視人なのだとか。こちらは強制隷属させられた訳ではなく、自らの意思で枢機卿に付いている人らしい。
それから、残った騎士らしき五人は、ロンダンの騎士ではないかという話になった。隷属などの状態異常にもなっていなかったので、こちらも自らの意思で街を襲う敵に協力していた可能性が高い。
騎士は五人いるので、あとでロンダンの騎士を呼んで、お任せする予定だ。
魔法師については、ジルくんたちの隷属魔法が解けたことを悟られない方がいいということになり、意識を失っている内に騎士団に連れて行くことになった。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「……にゃっ、吾輩も行こう」
魔法師を担いで行くのはルー兄だ。ナツメさんはルー兄に付いていくと言う。
ナツメさんがルー兄に付いていくのはちょっと珍しいなと思ったけど、森で出会ってから一緒に過ごす時間はそれなりに長かったし、さっきも結界の中で一緒にお留守番とかしていたし、親密度が上がっていても別に不思議ではないよねと、納得した。
とにかく、魔法師のことはルー兄とナツメさんにお任せするとして、その間に、アルベルト兄さんには戦場にレギドールの司祭らしき人がいたこと、ルー兄の予想から大司祭ではないかと思われることなども話した。
アルベルト兄さんも、ルー兄と同じ予想をしつつも、やはり大司祭がわざわざロンダンで起こした騒動の渦中に姿を見せるだろうかとの疑問があるらしい。もしも、本当に大司祭であれば、よほどの重要事項がロンダンにあったのだろうと。
――もしかして、デイジーが『重要事項』だったのではないだろうか?
大司祭が隷属魔法を使っている枢機卿の一派で、もしもデイジーのスキル内容を知っていたならば、隷属魔法と共に洗脳系のスキルを欲したとしても、おかしくはないかもしれない。
だけど、デイジーは消え、大司祭は殺された……。
じゃあ、デイジーは枢機卿の一派とは違う所に行った?
――うん、分からん。
どの道、あの司祭服の男が本当に大司祭かどうかの確認をしなければ、ただの妄想なのである。
という訳で、司祭服男の確認はしておくこととなった。
しかし、確認はひっそりとすることにしたので、行くのはルー兄とナツメさん、そして案内役の私とレイだ。
ルー兄とナツメさんが戻ってくるのを暫し待ち、二人が戻ってきたところで、すぐに司祭服男の所へと向かうことにした。
気配遮断スキルを使ったルー兄がナツメさんに乗り、私は街を出た瞬間に認識遮断魔法を使って、ナツメさんを先導するように飛んでいく。
ロイド様には見えてしまうだろうけど、パッと確認したら、サッと帰るので、特に問題はない。
そうして、ひっそりと戦場へと戻り、司祭服男がいた馬車の方へと向かう。
男は馬車の中で、発見当時と同じ状態のままになっていた。
ルー兄が確認したところ、男は『マッテオ・マランゴーニ』という大司祭であるということが分かった。マランゴーニはデルゴリア枢機卿の一派であり、枢機卿とはかなり近しい関係だったようである。
なぜ殺されたのかは分からないが、殺した相手がデイジーを連れていったのだとすれば、マランゴーニと敵対、或いは非協力的な相手がデイジーを奪うために殺したとも考えられる。
ルー兄によれば、デルゴリア一派と敵対関係にある派閥はそれなりにあるし、アルトゥ教会内部だけでなく、レギドールの貴族の中にも敵対勢力はあるらしい。それ故に、相手を絞る方が難しいとのことだ。
思わず、「うわぁ……」と言ってしまうのも、さもありなんであろう。
あっちこっちの恨みを買っていそうである。
マランゴーニの確認も終わったので、この場を離れることにした。
都合良くもロイド様は近くにいないようだったので、誰にも気付かれない内にさっさと街に帰ろう。
じぃじには後で会いに行くか、手紙でも飛ばそう。
あ! あの〈文球〉とかいう魔法を使ってみるのもいいかもしれない。
あの魔法は面白そうだ。ティントルの森にいる猫妖精たちに飛ばしてみるのもいいかも。
新しい魔法の使い方を夢想して、ちょっぴり沈んでいた気分を上昇させながら、ルー兄たちと共にアールティの街へと戻った。
しかし、城壁を超えて街中に入ろうとした所で、私たちの足は否応なしに止まることとなる。なぜなら――
「やぁ、お・か・え・り♪」
城壁の上で、満面の笑みを湛えたロイド様がレイヴンラニットと共に待ち構えていたのである――。