◆105・白金の流星と禁断の……
レイヴンラニットの上でロイド様と話しながらも、解除魔法は飛ばし続けていた。見える範囲の前線にいた人や魔獣には、解除魔法をかけ終わったと思われる。
前線にいた人たちは、洗脳状態にされた人たちばかりだったのだろう。
正気に戻った人たちとの戦闘が止み、侵攻が一時的に止まっている状態だ。
但し、魔獣に関してはその限りではなく、状態異常が解けたことで、余計に見境なく暴れる魔獣も多く見られる。前線で競り合っていた騎士たちは、今は共に、そんな魔獣たちと対峙し、街へと向かわぬようにと戦い始めたようである。
私たちと共に街側からやって来たじぃじや、騎士っぽい人、魔法師っぽい人も同じくだ。飛行型の騎獣に乗っている人は上から攻撃し、騎獣から降りて戦う人もいる。
「うおおお~!」
「抑えろ! ここで叩け!」
「戦え~!」
「トドメだっ!」
「吹き飛べ~!」
――おぉう……、気迫が凄い。
味方同士で戦わなければいけなかった時と違い、遠慮する必要がなくなったからだろうか。
ああ、でも、魔獣と戦うならば、これくらいは普通かな。いつも一緒に狩りとかしているのが、のほほんおとぼけ猫妖精ばかりだから、ちょっと麻痺してるのかも……と思った時だった。
視界の端で何かが高速移動している気配を感じ、そちらに目を遣った。
すると、高速移動する人影(?)らしきものが、犇めく魔獣の群れの間を駆け抜け、その人影が通り過ぎる時には、魔獣はバッタンバッタンと倒れていくのである。
「ぅえ~? 何、アレ……」
「ん? 何って、アレ、リリィのお祖父さんじゃない?」
「えっ⁉」
――えっ⁉
お、お祖父ちゃん……? 私の?
剣を片手に「ふはははは、それは残像だ!」とか言いそうなくらいの高速移動をしながら、魔獣を瞬殺しているあの影が?
「ふはははは! それは残像だっ!」
――あ、ホントに言ってた。
「私は今、君がベルツナー卿の孫であることに納得したよ……」
「え……」
――なんでよ……。 私、あんなの絶対できませんよ。
「ベルツナー卿は剣豪として有名だからな。一人で百人を切り倒した……なんて話もあって、『狂気のベルツナー』と呼ばれているらしいぞ。さすがに誇張した話だと思っていたんだが……」
「狂気……?」
いや、確かに一人で百人を切り倒すのも、現在進行形で魔獣を切り倒していく姿も、狂気と言えば狂気だけれども……。自分のお祖父ちゃんが『狂気』とか言われているのは、ちょっと複雑です。
まぁ、でも、あれだけ強いなら、いろいろと心配をする必要はなさそうである。
むしろ頼もし過ぎるぞ、じぃじ!
時々、飛行前に「白金流星、行っきまぁ~す!」とか言ってたけど、『流星』を名乗るべきは、じぃじの方であったらしい。
そうだ、『狂気のベルツナー』より『流星のベルツナー』の方が格好良い。
じぃじには、どうにか『流星』の方で名を馳せてもらうことにしよう。
脳内で『じぃじ流星化計画』を立てていると、じぃじが通った跡から少し離れた所で、突如として、魔獣が地上から上空へと向かって吹き飛ばされ始めた。
――ばはっ! 魔獣の間欠泉かいっ!
「あれは……、ライオネルか」
「親方……?」
「リリィ、違う……」
――いやぁ、思わず……
「ぐぅおぅらぁ~!」
ライオンのような咆哮をあげて魔獣をふっ飛ばしているのは、金茶の髪色をした筋肉モリモリおじ様だ。髪型はもちろん(?)モッサリツンツンなライオンヘアーである。とりあえず、ライオンであることに間違いはなさそうだ。
「あの人は、騎士団の人ですか?」
「ああ、騎士団に所属している我が国の将軍だよ」
「ショーグン……」
思わず、白馬に乗った暴れん坊ダンディが海辺を駆けてくる映像が脳内再生された。
それにしても、じぃじやライオン将軍のような、ちょっとおかしな攻撃力を持った人は、他にもたくさんいるようだ。
剣に魔法を纏わせているのか、淡く発光している剣を振るっている人たちもいる。
アレ、格好良いな……。
「ん? 何をそんなに熱心に見ているんだ?」
「え? いやぁ、あの光ってる剣、格好良いなって」
「ああ、ユージオの部隊か。あの部隊は魔法も得意で、騎士というより魔法騎士のようなものだ」
「ほぇ~」
「アレは、リリィもやろうと思えばできるでしょ?」
「う~ん、でも剣は使えないよ?」
「……お気に入りの木の棒は? 時々、振り回しているのがあったでしょう?」
「ちょっ……」
それは、恥ずかしい! 恥ずかしいぞ、レイくん! ヤメテ。
大体、光った木の棒を振り回しても、格好良くないから!
「木の棒はちょっと……」
「そう?」
――何だろう? レイの、このちょっとズレた感じは素なんだろうか?
人外ゆえの感覚?
でも、なんかちょっと、何だろう? 知ってる?
レイに対して不思議な感覚を覚えながらもハッキリとしないので、まぁいっかと、それ以上考えるのはやめることにした。
それにしても、どうやらこの世界には、割と普通に人外っぽい人間が存在するらしい。
これなら、リリたんがちょっぴり人からはみ出た種族になってしまっても、全く問題はなさそうだ。言わなければいいだけである。
とにかくここは、この頼もしそうな人たちにお任せして、私たちは敵方の後方へと進む。
奥にはまだ、多くの魔獣も魔蟲も見えるし……
「うわっ!」
「――っ!」
奥へと進み始めた私たちに、飛行型の魔獣と魔蟲が一気に襲いかかってきた。
「ワイバーンに向かってくるとは、こいつらも洗脳されているようだな」
ロイド様は、襲ってくる魔獣たちを躱すようにレイヴンラニットを操る。
私は防御魔法をかけてはいるけれど、思わず防御態勢を取ってしまう。
だって、怖いもんよぅ。反射的にそういう体勢にもなるって。
「ひぃっ」と、ビビりながらも、向かってくる魔獣たちに、なんとか解除魔法を飛ばす。
……が、時々、避けられてしまう。
特に、蜂っぽい蟲タイプの奴だ。
かなり大きめの魔力球を飛ばしているものの、当たる気がしない。
「ぬぅ!」
ロイド様の操縦のおかげで、魔蟲や魔獣にぶつかることはないんだけど、解除魔法が当たらなければ、永遠にこっちに向かってくるだろう。
「むぎぃ~!」
もう墜としてしまっていいだろうか……。
――よし、墜とそう。
まだ一度しか使ったことはないけれど、その一度の使用で封印を決めたデンジャラスマジックを使う時が来たようである。襲ってくる敵の被害なぞ、知ったことか! いざ!
「〈ピッカァァァ~!〉」
私は、襲いかかってくる飛行型魔蟲と魔獣全てに狙いを定め、とっておきの雷魔法を発動した。
その瞬間、私から紫の雷の帯が、飛行型の敵に向かって伸びていく。
そして、雷の帯に絡め取られた敵が、一斉に墜落した。
「――なっ…………」
「うむ」
「……いや、『うむ』じゃないだろう、なんだアレは!」
「……雷魔法です」
「そ、そんな魔法見たこと……、そもそも呪文も……」
――あ! 呪文ムーヴ忘れてた。
「え? いえ、ちゃんと呪文唱えましたよ?」
「いや、……え? そうだったか?」
「はい」
そう! ロイド様は、騎獣の操作に気を取られて聞こえなかっただけである!
「……まぁ、いい。それより……、それ、よ……り……」
ロイド様は、墜落した魔蟲たちと、落下してきた魔蟲たちに押しつぶされた下の魔獣たちを、何ともいえないお顔で見つめておられるようである。
――あ~、やっぱり思った以上に、めしゃんこエリアができてしまったようだ。
人はいなさそうだから、許して。
「ロイド様、行きましょう?」
「…………ああ」
ロイド様が、何だかお疲れ顔になってしまったけれど、疲れている場合ではございませんことよ?
後方には、まだまだ敵がいるのだ。
肝心のデイジーも捜さなくてはいけない。
――さあ! 進め! レイヴンラニット!