表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/131

◆0・悪夢の始まりと最悪の目覚め


 長い長い夢を見ていた。



 夢の中の私は、魔法やスキルが存在する異世界の伯爵家令嬢だった。『シフ』という名の王国に属するベルツナー家の長女。家族は、両親と兄1人。家族や使用人達に愛され、何不自由なく過ごしていた。

 


 あの子がやって来るまでは――。



「今日から新しい家族になるデイジーだよ。仲良くしてあげてね」



 父がそう言って連れてきたのは、私、リリアンヌと同じ年だという緑髪に黄色い瞳の女の子だった。



 デイジーは父の友人の娘らしく、その友人夫婦が流行り病で亡くなったそうだ。何故、家族でも親族でもない友人の娘を我が家に引き取る事になったのか、夢の中の私には解らなかったし、父も何も言わなかった。まだ5歳の娘に言う事ではないと思ったのかもしれないし、デイジーの居る前で話すつもりもなかったのかもしれない。



 デイジーはベルツナー家に驚く程早く馴染んだ。両親にも、兄にも、使用人にもニコニコと話しかけ、愛想を振りまき、周りの者もそんなデイジーを「かわいい、かわいい」と甘やかす。



 だけど、デイジーが愛想を振りまくのは私以外の人間にだけだった。



「うわ~ん! お義姉さまがいじめるの~!」


「え~ん! お義姉さまは、わたしがきらいなのよ~!」


「あ~ん! お義姉さまがわたしのおやつをとった~!」



 何もしていないのに『虐めた・嫌われてる・〇〇を盗った』と何かにつけて騒ぎ出す。それはデイジーの嘘だと何度も何度も言ったのに、誰も信じてくれない。

 


「この子がそんな嘘を吐いて何になると言うんだ!」と父がいきり立つ。


「どうして優しくしてあげられないの!」と母が眦を吊り上げる。


「お前よりデイジーの方が本物の妹だ!」と兄が声を荒げる。



 ――どうして信じてくれないの?

 

 ――どうしてデイジーの事は信じるの?


 ――どうしてデイジーは嘘を吐くの?


 ――どうして? どうして?


 

 私は何故そんな目に遭っているのか解らなかった。家族も使用人達も、日に日に冷たくなっていく。デイジーが来るまでは、みんな優しく楽しく過ごしていたはずなのに。



 毎日のようにデイジーに悪者に仕立て上げられ、家族や周りの者に白い眼を向けられる日々を数か月過ごし、王都のタウンハウスから家族揃って領地へと帰った数日後の事だった。



 デイジーが2階から1階に降りようとしている私の前に走って来て、ニヤリとした顔を見せた。その顔を見た瞬間『あ、また泣かれる』と思ったのも束の間、デイジーが階段前に座り込み、大声で泣き叫ぶような声を上げた。



「いやぁぁぁぁぁ!」



 私がその場を離れる猶予もなく、周りから人が走り寄ってくる。



「どうした! デイジー!」

「またリリアンヌが何かしたの!?」

「今度は何をしたのですか!?」

「デイジーお嬢様! どうされましたか!?」



 私が何を答える間もなく、いや、答えたところで誰も耳を傾けはしないけど、すかさずデイジーが声を張り上げる。


 

「お義姉さまがわたしをかいだんからつきおとそうとしたのぉ~!」と。

 


『え?』と思った瞬間、私は宙を舞っていた―――。



 見えたのは「お前が落ちろ!」という言葉と共に、手を突き出している兄の姿だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『何だかとっても胸くs……とっても腹立たしい夢だな』とか『何じゃ、あの悪意高めな幼女は! あれで5歳とかないわ!』とか『リリアンヌの家族、最悪過ぎるでしょ!』とか、半覚醒状態で今見ていた夢を反芻しだした瞬間、身体にとてつもない痛みを感じた。



「うぇ~! 痛った! 身体、痛った! え!? めっちゃ痛った!」



 ちょちょちょちょちょ! 何? 何? 何でこんな身体痛いの!? 寝てる間に何があった!? え? 何? 事故? 天井落ちて来たとか!? いや、なんか載ってる感じはないし、なんか落ちてきてたらその瞬間に気付くよね?



 てか、部屋暗すぎない? いつもサイドテーブルのミニランプ点けたままなのに何で真っ暗? え? やっぱ災害? 停電? 地震あった?


 

 ――…………ん?

 


 ベッド固い? てか、枕は? え? ちょっ……と……待っ……て……?



 何だか急に物凄く嫌な予感がして、変な汗が噴き出そうである。というか既に身体の痛みで変な汗がちょっと出ていたりする。



 まず、ここが自分の家ではない可能性を99.9%感じている。何故って?ベッドが明らかに自分の家のじゃない。枕もないし、掛布団の感触もない。後、なんか部屋がカビ臭い。



 なら、ここは一体どこなんだ?と考え始めた所で、ふと違和感を感じた。



 ――からだがいたいのはきっとかいだんからおちたからね。



 自分の思考でありながら、自分の思考ではないような考えが頭をよぎった。いや、これは間違いなく……わたくしがおもったことよ――。



 その違和感に気付いた瞬間、違和感は違和感ではなくなった。



 私、梅村花は既にリリアンヌとして生きている事を思い出したのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
実家連中最悪過ぎる、兄はまぁガキだし、この親見てればこうなるのも分かるけど、親はどんだけ花畑で生きて来たんだろ? そんな嘘吐いて何になるというんだ! ……ホントに分からないんなら病院行けよw まぁこ…
[一言] 騙す方より騙される方が悪いとはこんな場合に言うのでしょうね。 デイジーより家族の方が最悪だなあと思ってしまいました。
[一言] まず最初にリリアンヌが虐げられていたというのは、初めに落とすことでこの後の主人公優遇を自然に見せるため。しかし、主人公はその被害を受けたわけでなくあくまでも元の体の持ち主が受けていたというこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ