獣喰らいのジャイアントキリング〜ユニークスキル《獣喰》を持つ俺。食べられるモンスターが下級のみと知られパーティーから追放されたので自由に雑魚を喰いまくった結果〜
「おいククナ、お前の持ってるユニークスキルは本物か?」
「え?あ、あぁ。本物だぞ……?」
いつも通りの討伐依頼。
洞窟内で中級モンスターのオーガをパーティーメンバーが倒し終わったところで、ひとり戦いに参加せずに後ろで立っていた俺にそう言ってきた。
「いや、でも、だとしたらその力を使ってオーガを喰えよ。ほら、もう死んでるから簡単に食べられるぞ?」
「だ、だから、生きてる状態じゃないとダメなんだって」
この世界には至る所にモンスターが現れ、俺たち「冒険者」がそれを討伐する。
そうやって成り立っているんだが、その冒険者で上に上がるにはある必要な事があった。
それは、ひとりひとりが持っている「ユニークスキル」だ。
このユニークスキルというのは一般的に訓練などで習得出来る物ではなく、完全に生まれつきの物である。
そして俺、ククナ・ローレントもあるユニークスキルを持っていた。
名前は《獣喰》その名の通りモンスターを食べる事でその力を身に付ける事が出来るという物だ。
それを知って、今のパーティーメンバーは俺を入れてくれた。
だから、先程の『オーガを喰え』という発言も至って普通だ。
元々の基礎能力が低い俺はそうしないと中級モンスターとなんて戦える訳が無い。
――だが、そう出来ない理由があった。
それはさっきの『食べるモンスターは生きていないと意味が無い』という事かって?
いや、実はそれは嘘だ。
実は俺の持つユニークスキル《獣喰》にはあるひとつの条件があった。
それは『食べてその力を得ることが出来るのは下級モンスターのみ』という事。
――下級モンスター。一般的にはスライムやゴブリンにワーウルフと言ったところか。
だから、当然目の前で倒れているオーガを食べてもその力を得る事なんて出来ない。――それにクソまずいし……
まぁその代わりにある力も持っているユニークスキルではあるんだが――とにかく、最初に食べられるのは下級モンスターのみと言いそびれてしまった俺には今みたいになんとか言い訳を作り、過ごして行くしか無かった。
♦♦♦♦♦
――のだが、今日はそう上手くは行かなかった。
なんと、遂にしびれを切らしたパーティーメンバーのひとりがギルドに帰ると、受け付けの人間に俺の情報が書いてあるギルドカードを確認させろと言い始めたのだ。
これは実にまずい展開だ。
なぜなら、ギルドカードにはその者の持っているユニークスキルの内容が記載されている。(先程言いかけたある力はまだ試した事が無く、半信半疑な為記載時に言ってはいないので書かれていない。)
「はい、こちらがククナ・ローレント様のギルドカードになります。」
そして、パーティーメンバーにはそれを閲覧する権利がある。
リーダーの男がそれを受け付けから受け取ると、すぐに他ふたりのメンバーも集めて俺の目の前でそれを閲覧し始めた。
「おい、お前らここ読んでみろ」
「尚、食べて力を得ることが出来るのは下級モンスターの場合のみ――って、」
「これ、ククナが言っていたのと違うんじゃないのか?」
や、やべぇばれた……
「おい、なんとか言えよククナ。黙ってちゃ何も伝わらないぞ?」
「……」
この事実を知り完全に怒ったリーダーは、その巨大な身体を左右に揺らしながら無言でその場に立ち尽くす俺の目の前まで歩いてくる。
そして、それでも何も言わない俺に呆れたのか――
「もう良い、お前はパーティーから出ていけ。下級の雑魚しか喰えない人間に用は無い。」
そう吐き捨てると無言でギルドから出て行った。
更に、残りのパーティーメンバーふたりも、
「はぁ、リーダーに見捨てられるのも無理ねぇわ。じゃあな嘘つきの使えねぇゴミ。」
「残念だけど、貴方がパーティーから捨てられても何も思わないわ。そこらのスライムでも食べてれば良いんじゃないの?」
そう言ってリーダーについて行くようにギルドを後にした。――って、
「ちょ、ちょっとま……」
マジかよ……これ、まじで見捨てられたパターン……?
「だ、大丈夫ですか?ククナ様……?」
受け付けは心配そうに尋ねてくる。
が、大丈夫だと思うか?俺は今まで、あの3人の稼ぎでなんとか生きて来れたんだぞ……?
それに、元々力はせいぜい倒せるのは下級モンスターくらい――ん?ちょっと待てよ?
だが、そこである事を思い出した。
それは先程から何度も言いかけているある力の事だ。
まぁ持ったえぶっているのもなんだから言うが、俺のユニークスキル《獣喰》は、食べて力を得られるのは下級モンスターのみだが、その代わり食べれば食べるほどそのモンスターで得た能力の力が上限無く上がる、という物。
じゃあなんでそんな力を持ちながらパーティーメンバーに説明しなかったのか、だろ?
それはな、単純に俺が今さっきまでいたパーティーメンバーは全員才能が凄く、下級モンスターなんて相手にならないレベルの冒険者だったからだ。
だから当然、下級モンスターなんかと戦う機会も無い。
実は冒険者になった当日にパーティーのメンバーに入った俺は、まだ下級モンスターすらも食べた事が無いのだ。
以上の理由で、メンバーにこの事は話していなかった。
話したところで下級モンスターなんかと戦う様な奴らじゃ無いしな、多分『雑魚を幾ら食べても雑魚には変わらん』そう言ってどの道パーティーから追放されてただろうよ。
――だが、だからと言って誰かが雑魚を食べまくっても雑魚のままだったのか。なんてのを試した訳でも無い。
俺の持つ捕食系のユニークスキルは持っている人間が極端に少ないというのもあるしな。
そして、パーティーから追放された今、完全にフリーになった俺はそれを試す事が出来る。
「――どうせなら、試してみるのもありか。」
なんかさっきので色々吹っ切れたし。やってみるかね!
そうして俺は、地図を頼りにある洞窟へ向かった。
♦♦♦♦♦
「ここで……あってる――よな?」
それから街を出て数十分歩いた後、俺は目的地に到着した。
目の前には小さな洞窟。ここらはある事情で冒険者はひとりも居ない。
地図の地形と見比べた感じ、おそらくここだろう。
「――よし!じゃあ早速始めるとしますかね」
そこで、俺は背中に差していた剣を抜くと、薄暗い洞窟の中へと歩き始めた。
そう、これからするのはもちろんモンスター狩りだ。
情報ではこの洞窟にはスライムが居るらしい。
――すると、中に入ってすぐの俺の目の前に、案の定青色のベタベタとした身体のスライムが現れた――のだが、
「って、ちっちゃ過ぎないか?」
なんと現れたスライムは直径30センチ程の超小型で、剣なんて必要無さそうだった。
「こんなの、こうすれば――あ、動きが止まった。」
そこで俺はグニョグニョと動くスライムを足で踏む。
すると、途端にべにゃっという気持ちの悪い感覚が足に広がり、スライムは動きを止めた。
あれ……?まさかもう倒せちまったのか?
「噂には聞いていたが……まさかここまでとは。」
そう、先程言ったある事情、それは「とにかくモンスターが弱い」という事。
話によるとここら一帯は昔から凶暴なモンスターが生息しておらず、スライムやワーウルフなどの下級モンスターはここらへ逃げ込んだ。そして当然天敵が存在しない為戦う必要が無くなり、弱い個体が増えていく。
だから、そんなモンスターたちに討伐依頼が来る訳もなく、かといって新参者の冒険者の練習相手にも弱過ぎるという事で誰も居ないという事だ。
――だが、それだけ個体が弱いのも俺からしたら好都合。
一体一体の力が弱かったとしても食べまくれば良い。それだけの話だからな。
「じゃ、じゃあ食べるか……」
そうして俺は地面にしゃがみこむと、潰れたスライムを片手で少しちぎり、それを口の前まで持ってくる。
「うわぁ……いざ食べるとなると……結構緊張する……」
だが――これからどうせ何度も食べる事になるんだ、こんなの慣れだよ慣れ……ッ!!
「はふッ!!」
決意を固め、気合いて口の中にスライムを放り込む。
するとその瞬間、べちゃべやちゃとした苦い味が口の中いっぱいに広がった。
「う、うぇ……これ、絶対食べていい味してない……」
だが、同時に身体のそこからほんの少しだけ力が沸いた気がした。
「よ、よし、じゃあ早速今食べたスライムの力を使える様になってるか試すぞ……」
そうして俺は剣を背中に差すと、右手に意識を集中させる。
(ちなみに、俺のユニークスキルは食べたモンスターの力を身体のどこかに宿す、という力だ。)
すると、その瞬間――
「うおっ、い、一応出来てはいるみたいだな……」
右手の親指だけが、先程のスライムの性質に変わっていた。
だが、ちゃんと自分の意思で動かす事は出来る。
すげぇ……けどなんか気持ち悪いな。
それに、やっぱりスライムの力が弱い分、変化させられる場所も小さいという事だろう。
だが、俺のスキルは喰えば喰うほどだ。
確かに1は小さいが、それを100回、いや1000回すれば数字はでかくなる……!!
「よっしゃ、やってやろうじゃねぇか……!!」
♦♦♦♦♦
そしてそれから数ヶ月間――俺は毎日何体ものスライムやワーウルフを食べた。
「――よし、これで今日は25体目」
俺はいつもの様に地面でベトベトと動くスライムを踏み潰し、身体の一部をちぎって口に入れながらそう呟く。
初めてスライムを食べたあの日からもう何百――いや、何千体ものモンスターを食べてきた、だから、もうまずいや気持ち悪いなんて感情は湧かなかった。
――そして、何より今日は俺にとって記念すべき日になる。
「じゃあ、久しぶりに帰りますかね」
そう、今日はこの数ヶ月間下級モンスターを食べ続けた俺の力を試す為、街へと戻りなにか依頼を受けようと思っているのだ。
「ここらのモンスター相手だともちろん全く勝負にならないしな」
それに――実はあれから俺はまだ一度も能力で身体をモンスターに変えていない。
だから、一体どれだけの物なのか、すごく気になっていた。
「――到着、と。やっぱり数ヶ月間居なかったら懐かしく感じるものなのか。」
それから、数十分かけて街に戻った俺は最初にそんな感情を抱く。
全く、この街には良い思い出がひとつも無いというのに、なんでだろうな。
まぁとりあえず、まずはギルドに行って依頼を――
そんな時だ、俺は目の前の広場でひとりの女性が何かを叫んでいる事に気が付いた。
ん……?なんだなんだ……?
少し近づき、耳をすませる。すると女性はこう叫んでいた。
「誰か……!誰か私の娘を救って下さい……!オーガに拐われたんです……!お願いします……!」
「あぁ、なるほど」
実はこの様な光景は、街に居る頃毎日の様に目にしていた。
俺が拠点にしていたこの街は、上級モンスターこそ居ないがその分オーガなどの中級モンスターが数多く存在している。
それに奴ら人型モンスターは他のモンスターと比べて頭が良い。
だから、よくこの様な人攫い事件が起こるのだ。
でも、そんな女性の叫びに街を歩く冒険者は誰ひとり見向きもしない。
酷いと思うか?まぁそりゃ思うよな。
だって拐われたのは娘――女の子だ。住処の洞窟に連れ込まれた後、どうなるかなんて言わなくても分かる。
そして無視をしている冒険者たちも全員その事を分かった上で無視をしているのだ。
それは何故か?答えは簡単、報酬の出る依頼では無いから。
冒険者だってただ人助けのボランティアでしている訳では無い。
全員自分の生活がかかっている。それに相手はオーガ、確実な報酬も無いのに、中級モンスターなんて誰も相手はしたくない。そうだろ?
だからみんな、(まぁ相手がゴブリンじゃないだけマシだったじゃないか、オーガなら1回で破壊してくれる。すぐへあの世に行けるだろ。)と思うくらいだな。
ほんと、つくづく残酷な世界だぜ。
そして、前までは俺もその残酷な世界を作っていたひとりだった事にも腹が立つ。
だが、今の俺は違う、
「どうしました?俺なら力になれますよ?」
「――え……?」
俺は地面に崩れ落ちた女性の元へゆっくり近づくと、目線を合わせる為しゃがみ、そう声をかけた。
♦♦♦♦♦
「ここだな」
それから詳しい話を女性から聞いた俺は、すぐにオーガの住んでいる洞窟へと駆け付けた。
聞いたところによると、娘さんは見習いのシスターらしく、教会に行く途中に拐われたらしい、だから、きっと拐ったオーガは教会に1番近いこの洞窟に居るだろう。
「薄暗いな……」
それから俺は早速洞窟内へと入ると、どんどん奥へと歩いて行く。
不思議だ、毎日洞窟内に居たというのに全然雰囲気が違う。これも中級モンスターが居る洞窟だからなのだろうか?
そしてそれからしばらく奥へ歩くと――
「うおぅ……?」
「やっと見つけたぞ、オーガ」
遂にオーガを見つける事が出来た。
「あ、あぁ……」
するとそこで、オーガの足元からか細い声が聞こえる。
俺はすぐにそちらへ目線を向けると、そこには衣服をビリビリに破かれた金髪ロングの女の子が涙目で倒れていた。
「あの子か……おい、大丈夫か?」
「あ、あ……」
見たところ身体に外傷は無い、良かったまだ汚されていない。
「大丈夫だから、少し後ろに下がっていてくれ。すぐに終わらせるからな。」
「……ッ!は、はい……」
そうして俺の声をなんとか認識した女の子は身体をプルプルと震わせながら後ろへ下がって行く。
よし、それが出来れば100点だ。
「うおぉぉぉぉ!!」
しかし、当然それに対してオーガが黙っている訳が無い。
後ろへ下がって行く女の子をオーガは踏み潰そうとする――が、
「お前の相手は俺だろ?」
俺は背中を向けたオーガの方へ左手を伸ばす。
そして手全体がスライムになる様イメージをした。
さぁ……!見せてくれ《獣喰》……!何千体ものスライムを食べた力を……!
すると次の瞬間――指先から肩まで全てか青色のスライムへと変わった。
更に、太さも段違いで、上腕二頭筋は直径50センチはあるのではないかと言った感じだ。
おぉ……!これは予想以上だ……!それなら――足も――
続いて両足をワーウルフの足にするイメージをする。
「なるほど、2体同時に別のモンスターの力を宿すのも大丈夫か……!」
すると、今度は両足が3倍程の太さになり、黒色の体毛を纏うと足からは巨大な3本の爪が生えた。
「よし……!これなら目の前にいるオーガ程度――」
俺はワーウルフのものとなった両足に力を入れる。
凄い……!自分のとは思えないくらい力が湧くぞ……!
ワーウルフは四足歩行の全身に毛が生えた獣で、攻撃力には劣るがスピードだけだと人間のギアとはレベルが違う。
だから――
「はぁぁぁぁ!!」
足に貯めた力を一気に全開放し、俺は女の子を踏み潰そうとするオーガの方へ突進する。 するとその瞬間、一気にオーガの目の前まで移動する事が出来た。
すっげぇ……!本当に俺の力なのかよこれ……!
「ぐおぉッ!?」
対してオーガもこれには驚きを隠せていなかった。
当たり前だ、このスピードはワーウルフの物なのだから。
「じゃあなオーガ、覚悟しやがれ……ッ!!」
そして、今の腕も俺のものでは無い、最弱と名高いスライムそのものだ。
――だが、ただのスライムじゃねぇ、何千体ものスライムが集まった究極形態だがな……!!
「おらぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!?!?」
そうして俺はがら空きの顔面に巨大なスライムの拳を叩き込む。
すると、どうやら俺のスライムの拳は随分硬かったらしい。その一撃で、オーガの顔面は一瞬にして潰れ、巨大な身体が地面に倒れた。
♦♦♦♦♦
その後、自分の上着を脱いでそれを女の子に着せると、恐怖で歩ける状況では無かった為、担いで街まで戻った。
「ここまで来たらもうモンスターが襲ってくる心配は無い。ここで下ろしても大丈夫か?」
「は、はい……」
「よし」
この子の母親が必死に助けを求めていたあの広場まで戻った俺は、そう言い背中から下ろす。
「じゃあ、お母さんにはギルドで待つように言ってあるから。」
「あ、あの……」
「ん?なんだ?」
「ありがとう……ございました……」
そこで金髪の彼女は、涙で濡れた顔を微かに震えさせながらも、笑顔でそう礼を言ってきた。
「……ッ!あ、当たり前だ。じゃ、じゃあな」
なんだよ、可愛いじゃねぇか……
それに、こうして面と向かって礼を言われたのは初めてだった。
人助けなんてどうでもいい。とりあえず自分が生きられれば。ずっとそう思ってきたが、こういうのも悪くないな。
これは助けた甲斐があったってもんだ。
――よし、今日は自分へのご褒美として酒場で美味い料理でも食べるかね。――って、あ、俺お金持って無いんだった。
よわったな……今日もモンスターか?ま、まぁ良いけどよ。
そうして俺は指先の爪だけをワーウルフのものに変えると頭をポリポリとかく。
これからもこんな感じに、ひとりで頑張って生きますかね。
♦♦♦♦♦
この時はまだ思ってもみなかったな、あの時救った非力な少女が最高の仲間になっているなんて――――
こんにちは、カツラノエースです!!
昨日のおふざけエッセイ笑を除けば久々の投稿となります!!
長らく投稿出来ず、申し訳ありません!!いやぁ、書いてはいるんですよ?笑
ですが中々出す時間が無かったので笑(今書いている連載作品も全て書いてから出すつもりですし)
とにかく!この短編を少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです!!
そして!!これまで出してきた短編と同様に評判が良ければ(すぐにはならないと思いますが汗)連載版で続きも考えております!!ですので是非!!ブックマークそして☆☆☆☆☆で評価をして下さると嬉しいです!!