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29 告白


「マリア様。今の行為は、立派な犯罪ですよ。それに、あなた、クラリッサに魔力を使って暴力をふるいましたね。魔力をこめて突き飛ばしたのと、はたいたのかな?」


まるで見ていたかのように話すヴェリオが、いきなり現れたことに動揺していたマリアは、狼狽しながらヴェリオに食ってかかった。


「な、なぜわかるのですか!? 私がこの子を魔力をこめていたぶったなんて証拠はないでしょう!?」


「魔力を使えば、必ず痕跡が残ります。俺がここに来られたのも、あなたがごていねいにあんな暴露のお手紙を送ってくれたからですよ。魔力をたどってくれば、すぐにわかりました」


「魔力探知が使えるっていうの!? それに、こんなところまで一瞬で来たってことは……」


「瞬間移動も使えますよ。伊達に、騎士団第一分隊の隊長をやっているわけではないんです」


魔力探知も瞬間移動も、並の魔法使いが使える魔法ではない。


高度な魔力コントロール力がないと不可能な魔法であり、使える人間は数えられる程度しかいないだろう。


ヴェリオはそんな魔法をクラリッサのために、惜しげもなく使ったということになる。


「魔力消費だって普通じゃないでしょう!? どうしてこんな女のために、そこまでするのよ!」


悔しそうに顔をしかめて言うマリアに、ヴェリオは当然のように答えた。


「そんなの、愛する人のためなんだからなんでもするに決まっているでしょう」


「なんで、クラリッサなんか……」


マリアは拳を握りしめて、うつむく。


それから力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


マリアはヴェリオと戦っても勝てるわけがないということを知っていたのだろう。


ヴェリオはマリアを冷たい視線で突き刺しながら告げた。


「魔力のない人間に魔力で暴力を振るうことは重罪です。クラリッサに魔力がないことは重々承知ですよね。それに、あなたはクラリッサの顔を焼こうとしていた。魔力傷害未遂でもあなたのことを拘束させていただきます」


ヴェリオはそう言うと、パチンと指を鳴らす。


魔力の鎖がマリアを拘束し、マリアは「クソ!」と吐き捨てるように言った。


そこにユイネルが駆けつけてきて、「クラリッサ様!」と大きな声をあげた。


「ヴェリオ様まで、こんなところで……。そこにいるのはマリア様ですか?」


「マリア様のお迎えは手配してあるから、もうすぐ回収に来るはずだよ。それより、馬車には乗るけど出さないで。クラリッサと話があるから」


「承知いたしました」


状況が理解できていない様子のユイネルは、それでもヴェリオの言うことにすぐにうなずいた。


ヴェリオが言っていた通り、路地を出ると、騎士団の馬車が路地の前に駆けつけたところだった。


馬車から出てきた騎士たちが、魔力の鎖でしばられたマリアを馬車の中へと突っ込む。


最後にこちらを見たマリアの目には、もうクラリッサを嘲笑うような生気は残っていなかった。


ヴェリオに抱えられたまま、ルミナリア公爵家の馬車に乗り込んだヴェリオは、クラリッサを優しく椅子に座らせると、内鍵をかけて、窓にカーテンを引いた。


小さな明かりだけがついている馬車の中で、ヴェリオはクラリッサの隣に座る。


記憶喪失だと嘘をついていたことを責められる覚悟をしていたクラリッサのことを、ヴェリオはそっと、壊れ物でも扱うかのように抱き締めた。


「ヴェリオ様……、嘘をついていてごめんなさい。私、幼い頃からマリアにいじめられていたんです。家に居場所はなくて、魔力なしでも普通に生きられる平民になることが私の夢でした」


「うん」


「ヴェリオ様と会った日に階段から落ちたのも、マリアに突き落とされたんです。私は平民になりたかったので、ヴェリオ様と結婚したくありませんでした。だから、記憶喪失だって嘘をついたんです。ヴェリオ様に嫌われたくて、嘘をついたんです」


「ごめんなさい」と再度絞り出すような声で言ったクラリッサを、ヴェリオは抱き締め直した。


掻き抱かれるように抱き締められて、それでもクラリッサが苦しくならないようにしてくれる優しさが、今は胸に痛かった。


「俺も、黙ってたことがある」


「……え?」


「クラリッサは記憶喪失じゃないんじゃないかって、本当は初めてのデートのときに気が付いてたんだ」


クラリッサはおどろきで声が出ない。


ヴェリオはクラリッサの背を撫でながら言った。


「一緒に本屋に行ったでしょ? そこでクラリッサが好きな本のことを教えてくれたとき、記憶喪失なのに本のことだけは覚えてるなんておかしいんじゃないかと思ってた。でも、クラリッサに嫌われたくなくて、深追いできなかったんだ」


好きな本を前にして、思わず語り尽くしてしまったが、まさかそれで嘘がバレていただなんて思わなかった。


それにヴェリオがそんな臆病なことを言うだなんてことも考えたことがなかったのだ。


クラリッサは気付けば泣いていた。


ヴェリオにこんなにも愛されていることが、幸せで涙が出たのだ。


「クラリッサ。もう俺と結婚したくないなんて思ってない? 俺はクラリッサと生涯一緒にいたい。クラリッサのいない生活なんて、もう考えたくもない。クラリッサのいないベッドは冷たくて広くて、心が半分なくなっちゃったんじゃないかってくらい、胸が痛んで仕方がなかった」


ヴェリオはそっとクラリッサと体を離すと、クラリッサに口づける。


それから泣きそうな表情で、クラリッサの頬を大きな掌で撫でた。


「悪いけど、もう離してあげられない。クラリッサが嘘をついてでも逃げたいと思っても、俺はクラリッサをどこまでも追いかけて、捕まえちゃうと思う。クラリッサが居ないと、もう俺は生きていけない」


クラリッサは涙をぼろぼろとこぼしながら、ヴェリオの唇に噛みつくようなキスをした。


角度を変えて何度も口づけを重ねて、クラリッサはヴェリオの頭を抱えるように両手をヴェリオの両耳の横に這わせる。


唇をゆっくり離したクラリッサは、ヴェリオの白銀色の瞳を間近で覗き込みながら言った。


「私も、もうヴェリオ様の傍でないと生きていけません。私の夢は平民になって恋をすることでした。ですが、今は違います。私の夢は、一生ヴェリオ様と添い遂げることです。愛しています、ヴェリオ様。これから先も、ずっと」


言いながら微笑むと、ヴェリオはクラリッサを強く強く抱き締めた。


このままひとつになってしまえればいいのにと思ったのは、これが人生ではじめてのことだ。


「もう少し、キスしてもいい?」


上から降ってきた切なげな声にクラリッサがうなずき、上を向くと、クラリッサから仕掛けたキスなんかよりもすごいキスをされたことは、クラリッサのユイネルにも言えない秘密となったのであった。

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