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27 呪詛

簡単な身支度を整えたクラリッサは、門の前に停めてもらっていた馬車にユイネルと共に乗り込む。


今日はユイネルと一緒に、ヴェリオの万年筆を買いに行くつもりだ。


馬車に揺られながら貴族街を見やる。


平民街より整えられている、整然とした街並みを見るのも久しぶりのことだ。


文房具屋の前で馬車を止めてもらったクラリッサは、店へと入る。


そこには白髭を生やした優しげな店主がおり、「どんな万年筆をお探しですかな?」と声をかけてくる。


クラリッサは「えーと……」と少し迷ってから、手持ちの金額を伝えてから話しはじめた。


「実は、す、好きな人に謝りたいことがありまして。お詫びの品となるようなものがいいんです」


もじもじと話したクラリッサに、店主は「なるほど」と優しく笑って、万年筆のパーツをクラリッサの前にたくさん並べてくれた。


「お詫びの品となるようなものなら、オーダーメイドのものがいいのではないでしょうか? その人のことを思って作った一品は特別なものになりますよ」


「でも、お高いのでは……?」


「もちろんお聞きしたご予算の範疇で作らせていただきます」


クラリッサは店主に「ありがとうございます」とお礼を言ってから、パーツ選びをはじめた。


手に取っては戻し、手に取っては戻しを繰り返す。


ヴェリオが持っていて自然なもの。


一番美しく見えるものはどんな色のものか。


悩みに悩んだクラリッサは、パール調に輝くペン軸に、銀色のペン先、キャップの先には透明なガラスをダイヤモンドカットにしたものをつけてもらった。


本当は次期公爵であるヴェリオに渡すのだから、本物の宝石の方がよかったのだろうが、平民として働いたお給料で出せる額には限界がある。


店主は「少々お待ちくださいね」とクラリッサに声をかけると、すぐに万年筆を専用の機械で組み立ててくれた。


完成した白を基調とした万年筆は、白銀の髪に白銀の瞳を持つヴェリオにぴったりの物だろう。


「とっても素敵です! ありがとうございます!」


クラリッサが満面の笑みでお礼を言うと、店主は「万事うまくいくといいですな」とクラリッサの幸運を祈ってくれた。


ていねいに包んでもらった万年筆が入った小箱の入ったショップバッグを持って、クラリッサは店を出る。


すぐそこに停めてある馬車の前にはユイネルの姿が見えたが、ユイネルは馬車の御者となにか話している様子だ。


クラリッサが歩いて、馬車の方へ向かおうとしたそのとき、後ろからぐいと腕を引かれた。


おどろいて振り返ると、そこにはお出かけ用の服を身にまとったマリアがいたのだった。


「マリア!?」


嬉しくない再会に、クラリッサがおどろきの声をあげると、マリアはクラリッサの腕を引いて、店と店の間にある路地へとクラリッサを引っ張って行ってしまったのだった。


暗がりに連れ込まれたクラリッサが「なに? どうしたの!?」とマリアにたずねると、マリアにいきなり思い切り平手打ちを食らう。


パシンと頬をたたかれて、クラリッサは久しぶりに感じた痛みに目を丸くした。


「あんた、なんでこんなところにいるのよ。失踪したんじゃなかったわけ?」


「……ヴェリオ様の元に戻ってきたのよ。もうどこにも行く気はないわ」


頬はじんじんと痛むが、クラリッサはマリアにまっすぐ向かって答えた。


マリアは不愉快そうに眉を寄せると、クラリッサの髪をぐいと力任せに引っ張る。


そうして顔を寄せてきたマリアは、クラリッサの琥珀色の瞳を金色に輝く瞳で覗き込んできた。


「クラリッサ。あんたいつまで勘違いしてんのよ。ヴェリオ様があんたみたいなの愛するわけないでしょう? ブサイクで、地味。自信も美貌も学もない。極めつけには、魔力なし。そんなあんたが誰かに愛されるわけないのよ。ヴェリオ様があんたのことを今かわいがっているのだとしても、それはただの気まぐれに過ぎないわ。絶対にあんたは飽きられて捨てられる。あんたみたいな取り柄のない女を、どうしてヴェリオ様みたいな方が愛するって言うの?」


見開かれた金色の瞳に睨まれれば、クラリッサは動くことができなかった。


だが、それは以前までの話である。


呪いの言葉を吐くマリアを、クラリッサはキッとにらんだ。


そして、クラリッサの髪を引っ張るマリアの手をはたき落とす。


たたかれた手をかばうようにして、呆然としているマリアに、クラリッサは堂々と告げた。


「ヴェリオ様は私のことを愛してくださっているわ。そのことは一生変わらない。私はそれを信じることにしたの。もうこれは私が決めたことよ。マリアに何を言われても、私は揺るがない。もう私が迷うことはないわ」


仮初めの笑顔でいつも周囲をごまかしてきたクラリッサが、今は強いまなざしでマリアを見つめている。


マリアには、これがおもしろくなかった。


ギリ、と歯を食いしばったマリアは、「そうだわ」となにか思い出した様子でクラリッサに向き直る。


その表情はとても意地悪く歪んでいた。


「クラリッサ。あんたの記憶喪失って嘘なんじゃない?」


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