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最終話 初詣

 1月1日。

 また新しい1年がやって来た。

 もちろん七菜(ななな)家にも新年が来たのだが、女性陣が朝の6時という時間帯からドタバタと騒いでいた。


「朝っぱらからウルセェなぁ。なーにやってんだか」

林太郎(りんたろう)。彼女らにとってはせっかくの晴れ舞台なんだ。冷や水をかける真似をするのは男らしくないぞ」

「へいへい」


 家族総出で出かける際は大抵、玄関で待たされる事になる林太郎と栄一郎(えいいちろう)親子は既に着替えを終えていつでも出かけられる状態だった。

 待ち続けて、午前8時。ようやく準備が出来たのか女性陣が出てきた。

 凛香(りんか)(ひめ)霧亜(きりあ)、そして江梨香(えりか)の4人が振袖に着替えていたのだ。

 成人式だと髪型のセットもするそうだが、その時間は無かったのか髪形は普段のままだが十分すぎるほど華やかだった。


「栄一郎さん、どう? 似合う?」

「ああ、良く似合ってる。きれいだよ、江梨香」

「お兄ちゃん、どうかな?」

「ああ、凄く似合うよ。写真撮っていいか?」

「へぇ、写真に撮りたいほどきれいなんだ。着付けした甲斐があるなぁ」


 そう言えば夏の花火大会でも浴衣の着付けをやってたな。あの時は着物の着付けも出来ると言ってたけど本当だったとは。


「お兄たんってばいっつも凛香姉たんの事ばかり。たまには姫ちゃんの写真でも撮ってよね」


 2人を見て仲間外れにされたと思い込んだ姫がごねる。分かった分かったと凛香の後、彼女の写真も「ついでに」撮った。

 そんな「ちょっとしたもめ事」はあったが車に乗り込み、一同は市内の神社へと向かった。




「よし、この時間帯ならまだ混んでないな」

「午前10時くらいになるとすげえ混むんだよなこの神社。早くて正解だわ」


 元日から駐車場で車の誘導、交通整理をしている働く人に頭を下げつつ一行は車を降りた。

 車内は暖房が効いていたが外に出ると1月らしい真冬のキン、とした寒さがやってくる。


「凛香、寒くないか?」

「うん、大丈夫」


 彼女が言うには振袖は特に首元と手足が冷えるとの事だ。それ対策のグッズを使って寒さをしのいでいたのだ。


「そう言えば夏まつりも結構でかいんだよなぁ、この神社。屋台もすき間なく出てるし」


 今日もそうだが神社は結構大きいのか、夏祭りでも参道の両脇に屋台が並んで賑わっている。

 古めかしい恰好をした屋台にはりんご飴、わたがし、焼きそば、たこ焼きなどのお祭りの定番が並んでいた。

 耳をすませばジュウウウ、という今まさに売り物を作っている音が聞こえ、鼻には香ばしい香りがやってくる。


「父ちゃん、参拝前に何か食わないか? 朝メシ食ってねえから腹減っちまって……」

(あきら)、家に帰ればおせちが食べられるから我慢してくれ。まぁたこ焼き位なら買ってもいいがな」

「おぉーたこ焼きかーいいねぇー」


 おそらく2人とも屋台から漂って来るソースの香りに負けたのだろう。たこ焼きをついつい買ってしまう。




 七菜家一同は参道を歩き、手水舎(てみずや)で手を洗い、拝殿(はいでん)までやって来た。

 賽銭(さいせん)を投げて、2礼、2拍手、1礼。

 七菜家全員マナーを守っての参拝だ。

 参拝を終えて車に戻り、家路につく中どんな願い事をしたのか? が車内で話題になる。


「お兄ちゃんはどんな願い事した?」

「ああ、俺か。俺は『凛香の夢が見つかりますように』って。お前夢が無いって前に言ってただろ?」


 林太郎は凛香にどんな願い事をしたのか聞かれたら特に迷うことなく答えてくれた。

 大谷(おおたに)に手ひどくやられて戦意を喪失していた時に励ますために言ったであろう「私には夢が無い」という言葉を忘れてはいなかった。


「へぇ、お兄ちゃんあの時の事覚えていてくれたんだ」


 上機嫌で笑っていたのだから満足しているのだろう。


「ところで凛香はどんな願い事をしたんだ?」

「私? んー……ナイショ!」

「ええっ!? 何だそれ! まぁ良いけどさぁ」


 いざ自分の番になったらはぐらかす凛香の態度に一瞬ムッとしたがすぐに流す。まぁ恋人同士とはいえ、言いたくない事の1つや2つはあるだろう。


(お兄ちゃんごめんね。実は私、夢はもうあるんだよ)


 凛香は内緒だったが自分の夢は既に持っていた。

『高校を卒業したら林太郎(お兄ちゃん)と結婚できますように』

 それが彼女の願い事であり、夢だった。

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